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ベルセルクの冠 〜ハズレ聖女はすべてを暴力で解決する〜  作者: 友ヶ見狗々


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第21話 【幕間】もう一人の聖女候補

 新展開…の伏線です。

 私の名前は、レティシア・エルシャレット=ランゴワール。

 アメティスタ聖王国の王位継承権を持つ、エルシャレット=ランゴワール公爵家の一人娘だ。


 世間ではエルシャレット=ランゴワール公爵家は、二代前の聖王を出した名門中の名門ということになっている。

 だがそれは実情とは程遠い。


 絶え間ない後継者争いと内紛により、聖王国における王室の権威は何十年も衰退の一途を辿っている。

 王室と関わりの深い公爵家も、そのことと無関係ではいられなかったのだ。


 戦乱によって領地は荒れ果てて、その領地そのものも大きく失われた。

 公爵家を支えるべき多くの人材を失ったのは、さらに痛かった。


 その結果、エルシャレット=ランゴワール家は、公爵家とは名ばかりの弱小貴族家にまで落ちぶれていた。

 領民が流出し、税収が減り、公爵家としての体裁を維持するための日々のついえにも事欠く有様だ。

 そうなると有能な家臣は次々に離れ、結果的にますます領地は落ちぶれていく。悪循環だ。


 特にエルシャレット=ランゴワール家に関していえば、本来なら公爵位を継ぐべき私の父が早くに亡くなった影響も大きかった。

 公爵夫人である祖母は傑物といわれていたが、夫である公爵はすでに亡く、他家から嫁いできた彼女一人にできることは限られていたのだ。

 そして公爵位の継承者である私はいまだ幼く、零落していく己の家を呆然と見ていることしかできなかった。


 だが、その状況は間もなく変わる。

 月が変われば、私は十歳になるからだ。


「レティシア……あなたの鑑定式の日程が決まりました」


 私を書斎に呼びつけたお祖母様が、穏やかな口調でそう告げた。

 鑑定式とは、聖女の紋章を持って生まれてきた聖女候補たちが、女神に与えられた加護の種類を鑑定する儀式だ。


 その鑑定式が終われば、聖女候補たちは加護の力を使えるようになる。

 手に入った加護の力によっては、荒廃した領地を富ませることも可能だし、私自身が聖女として働くことで、直接的な収入を得ることができるようにもなるだろう。


「今からちょうど二週間後。みどりの月の七日です。儀式の準備は出来ていますか?」

「はい。衣装については問題ありません。仕立て直した母上のドレスが届いています」


 私の返事を聞いた祖母が、少しだけつらそうに瞳を揺らした。


「ごめんなさいね、レティシア。聖女候補にして次期女公爵であるあなたの鑑定の儀です。できることなら新しいドレスを仕立ててあげたかったのですが……」

「お気になさらないでください、お祖母様。我が家がおかれている状況は理解しております」


 貴族令嬢のドレスは高い。新しく仕立てれば何十枚もの金貨が必要になるだろう。

 今のエルシャレット=ランゴワール家にそんな余裕はない。我が家は、使用人たちの給料を賄うだけでも苦しい状態なのだ。


「あなたが聖女の加護を授かれば、エルシャレット家の立場も一変するでしょう。十歳になったばかりのあなたに頼らなければならないことは申し訳なく思っていますが」

「それはお祖母様の責任ではありません。ですが、本当に私が有用な加護を授かることができるかどうか……」


 無意識に目を伏せた私を見て、お祖母様は少しだけ愉快そうに笑った。


「あの神童のことを気にしているの?」

「はい。今でも信じられない気持ちです。まさかあのアルセリカ様が〝バーサーカーの聖女〟だったなんて」


〝バーサーカーの聖女〟アルセリカ・ベルローズ。

 彼女はベルローズ男爵家の令嬢だ。

 私と同い年でありながら、アルセリカ様は神童として王都でも名前を知られていた。


 アルセリカ様が農具の改良で領地の収穫高を増やしたことや、斬新な発想で様々な特産品を生み出したことは、世事に疎い私の耳にも届いている。

 王都で流行っているいくつかの料理やお菓子のレシピを考えたのも彼女だといわれている。

 それに彼女の魔力量は膨大で、噂では王家の魔法兵団を率いるベルローズ男爵すら凌いでいるらしい。


 そんなアルセリカ様が、ひと月前の鑑定式で、バーサーカーの加護を授かったと聞いたときには驚いた。

 そして彼女はその日のうちに、バーサーカーの加護を暴走させて屋敷の庭に大穴を開けたのだ。

 その結果、彼女は王都を離れて、北の辺境にあるベルローズ領に送り出されることになった。

 つまり王都から追放されたのだ。


 他家と交流もできない辺境の領地にいては、結婚相手を探すこともままならない。

 近隣の領主や貴族籍を持つ家臣に嫁ぐことができれば御の字で、最悪の場合は領地でひっそりと隠棲するか、教会に送られることになるだろう。

 王都の社交界において、彼女はもはや死んだも同然だ。


 今では彼女を神童と呼ぶ者はいない。代わりに彼女は、ハズレ聖女と呼ばれるようになっていた。

 彼女もまた鑑定式を経て、運命が大きく変わった聖女候補の一人である。

 私が彼女と同じ運命を辿らないという保証はどこにもない。


「あなたは自分が、ハズレの加護を引くのではないかと恐れているのね?」

「そうなのかもしれません。考えすぎだと思われますか?」

「考えすぎというのは、少し違いますね」


 お祖母様はクスッと小さく笑った。


「あなたは聖女の紋章を持って生まれてきた。その時点で女神に祝福された存在なのです。そして女神が聖女に授ける加護に、ハズレなどというものはありません」

「ですが、実際にアルセリカ様は、ハズレの聖女として王都から追放されました」

「ふふっ、あれは彼女を逃がすための口実だったのですよ」

「逃がす? 王都からですか?」


 私は目を丸くしてお祖母様を見返した。


「神童と名高いアルセリカ嬢は、マルシャン伯爵に求婚されていたのだそうです」

「マルシャン伯爵ですか? ですが、あの方は……」

「ええ。私の夫と同世代ですから、間もなく五十歳になるでしょう」


 鑑定式を終えた直後のアルセリカ様は、数え年で十歳。実に四十歳近い年の差だ。

 いくら相手が格上の貴族でも、そんな相手に嫁ぎたくはないだろう。

 だからベルローズ男爵は、アルセリカ様を王都から逃がしたということだろうか。


「ベルローズ家の家格で伯爵家からの求婚を断るのは難しいでしょうが、ハズレ聖女の悪評がこれだけ広まってしまえば、さすがにマルシャン伯も手を引くでしょう。アルセリカ嬢は強運でしたね」

「強運……なのでしょうか? 結果的に王都から追放されてしまったことに変わりはありませんが……」

「そうですね。けれど、彼女はそのことでとてつもない功績をあげることになりました」

「功績、ですか?」


 意味がわからず、私は目をしばたたく。


「アルセリカ嬢がベルローズ家の領地に到着したころ、ちょうどベルローズ領では戦が起きていたそうです。近隣の領主たちが連合軍を組んで、一千を超える兵力でベルローズ領に攻めこんだのだとか」

「一千……」


 私は戦のことはわからないが、千人の兵士というのが相当な規模だということは想像できる。

 男爵家が動員できる兵力というのは、せいぜい二百人から三百人だったはずだ。つまりベルローズ男爵家は、最低でも三倍以上の戦力の相手に攻めこまれたということになる。


「アルセリカ嬢は、それを知るなり、三十人の兵士を引き連れて敵軍を急襲したそうです。そして敵将三人の首を取り、敵軍を散々に打ち破ったとのことです」

「三十人で、一千の軍を打ち破ったのですか? それに敵将三人を討ち取ったなんて……」


 私はお祖母様の言葉に絶句した。

 ほんの半月前まで王都で平和に暮らしていたはずのアルセリカ様が、いきなり戦に出ただけでなく、敵の指揮官を討って勝利したというのか。しかもたったの三十人の兵士だけで。


「その戦果が、〝バーサーカーの聖女〟の加護によるものであるのは間違いないでしょう。戦闘で負傷して生死を彷徨っていたドルレアック卿の傷を、アルセリカ嬢がバーサーカーの力で癒したとも噂されています」

「え? そんなことが……?」


 バーサーカーは魔法が使えないと聞いている。

 そんな〝バーサーカーの聖女〟であるアルセリカ様が、瀕死の重傷を負ったドルレアック卿を癒した?

 どうしたらそんなことができるのか、まったく意味がわからない。


「すでに王都では大層な評判になっていますよ。必ずしも皆がアルセリカ嬢を賞賛しているわけではありませんが」

「それは私にも理解できます」


 ベルローズ家は男爵家。そんな爵位の低い家の令嬢でありながら、神童と呼ばれたアルセリカ様を妬む者は多かった。彼女がハズレ聖女になったとき、喜びを隠そうともしなかった貴族がいたことも広く噂になっている。


 しかしアルセリカ様が功績をあげたことで、これからは状況が変わってくるだろう。

 やはり彼女は神童の名に相応しい凄い人だった。それとも凄いのはバーサーカーの加護のほうなのか。

 それでも彼女に授けられたバーサーカーの加護が有用だったという事実は、私の不安を軽くしてくれた。

 間もなく私に与えられる加護がどのようなものか、少しだけ楽しみに思えてくる。


「アルセリカ・ベルローズ嬢……もっと親しくなっておくべきだったのかもしれませんね」


 お祖母様が、無念そうに溜息をつく。

 私も同じ気持ちだった。


 ベルローズ家は、爵位こそ低いが王家の直臣だ。

 我がエルシャレット=ランゴワール公爵家から見ても、親しい家ということになる。

 できることなら彼女が王都にいる間に、もっと仲良くなっておきたかった。


 私が彼女に直接会ったのは一度だけ。それもほんの挨拶程度だった。

 小柄だが大人びた雰囲気の、ものすごく綺麗な子という印象しかない。

 ただ彼女が私にこっそりと渡してくれたお菓子が、とても美味しかったことは覚えている。

 私がこれまで見たこともない、不思議な味わいのお菓子だった。


 しかし彼女が王都を離れた以上、私が彼女と会う機会はもう二度とないだろう。

 そのときの私は、そう思っていた。


 そう。そのときは、まだ——


 次回からはまたアルセリカ視点に戻ります。

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