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ベルセルクの冠 〜ハズレ聖女はすべてを暴力で解決する〜  作者: 友ヶ見狗々


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第19話 ハズレ聖女の奇襲

 大叔父様が率いるベルローズ領の領軍は、ラプラド連盟の先鋒とついに接敵したようだった。

 戦場が峠道ということで、領軍ともに騎兵は少ない。弓兵もさほど多くない。

 主力は歩兵。槍装備だ。


 ベルローズ領軍の兵数は、私たち伏兵部隊を除いて約三百人。

 それに対するラプラド連盟の軍勢は、事前の情報どおり千人を超えている。

 戦力比は三倍以上だが、道幅が狭いこともあり、連盟軍は数の利をあまり活かせていない。

 最初の激突はほぼ互角。むしろベルローズ領軍のほうが圧しているように見える。


 侵略者であるラプラド連盟に対して、ベルローズ側には後がないからね。

 それに連盟側には、大軍だからこそ自分だけは傷つかずに済ませたいという、気の緩みもあったのかもしれない。その士気の差が出たのだろう。


 しかし、優勢なはずのベルローズ領軍は、最初の激突で敵の勢いを殺したところで、ジリジリと後退を開始する。

 作戦どおりの行動だが、この退却のタイミングは難しいんだ。

 早すぎると勢いの残った敵に追撃されて被害が大きくなってしまうし、逆に遅すぎるとこちら側の勢いがつきすぎて部隊の方向転換が困難になってしまう。

 しかし領軍を指揮しているバルナベ大隊長は上手くやったらしい。

 敵が混乱している間に素早く後退を始め、被害を抑えて陣を下げることに成功する。

 ラプラド連盟の指揮官は慌てて追撃を命じるが、兵士たちの反応は鈍い。その結果、連盟側の軍勢は間延びして、最前列と後方の距離が開いてしまった。

 さあ、ここで私たちの出番だね。


「よしよし、打ち合わせどおりにいくよ。みんな、石は持ったかな?」


 声を抑えた私の呼びかけに、三十人の兵士たちが無言でうなずく。

 それを確認して、私はスキルを発動した。

【暴装】。それに続けて【暴操】だ。

 着ぐるみをまとった私から不可視の魔力の糸が伸びて、兵士たちに〝バーサーカーの聖女〟の加護を分け与える。

 強力な身体強化魔法が発動し、兵士たちの戦意が目に見えて上がった。

 事前に何度も練習しているので、急激な身体能力の向上にも兵士たちは慌てたりしない。


「ドナさん。いいですよ、やっちゃってください」

「よっしゃ! 行くぞ、野郎ども!」

「「うおおおおおおおお!」」


 兵士たちが一斉に雄叫びを上げて、森の中から飛び出した。

 伏兵の姿を隠していた土壁は、ロジェがその直前に消している。ラプラド連盟の兵士たちからしたら、敵兵が瞬間移動してきたように見えたに違いない。


 ドナ兵長がぶん投げた石が、信じられない勢いでラプラド連盟の軍勢に飛びこんでいった。

 たかが投石。されど投石。バーサーカー化したドナさんの腕力で投げられたこぶし大の石は、それが直撃した兵士の胴体を爆散させて、さらにその後ろにいた兵士数人を貫通した。


 それと同様の光景が、戦場のそこかしこで起こっていた。

 普通の投石の射程はせいぜい百公尺(メートル)がいいところだろうが、バーサーカーの腕力はそれを軽く三倍以上に引き延ばす。当然、投げられた石の速度も上がっている。

 そして異世界の教育番組で仕入れた私の知識によれば、仮に投石の速度が三倍になると、威力は九倍にも上がるのだ。我がバーサーカー部隊の瞬間火力は、そこらの弓兵の比ではない。


 唐突に出現した伏兵と、全方位にばら撒かれる恐ろしい威力の石礫いしつぶて

 それは、後退した敵を追撃しようとしていたラプラド連盟の軍勢に、とんでもない混乱を引き起こした。


 そしてもうひとつ混乱を拡大した要因がある。

 それは〝暁の鷹〟のパーティーメンバー——リュカさんが用意した火薬壺だ。

 リュカさんは例の火薬壺を、あらかじめこの峠道に設置しておいたのだ。


 混乱する味方を立て直そうとした敵将を巻きこむようにして、火薬壺が爆発する。

 撒き散らされた鉄片をもろに喰らって、乗っていた馬ごと敵将が横転した。

 その光景は、敵軍をさらに恐怖させた。

 もはや軍の指揮系統は完全に崩壊していた。中団の兵士たちは我先にと逃走を開始して、それを押しとどめようとする後方の兵士たちと衝突。ついには同士討ちにまで発展する。


 一方で、私たちよりも前にいた敵の部隊も混乱していた。

 私たち伏兵部隊の投石と、反転してきたベルローズ領軍本体の挟撃を受けていたからだ。

 二百人以上いた軍勢は瞬く間に数を減らし、戦意をなくした兵士たちは次々に武器を捨てて投降する。

 森の中へと逃げこんでいく兵士もいるが、それはやめたほうがいいと思うんだよな。

 その森は魔物の巣窟だからね。これだけ血の臭いが漂っていたら、魔物たちもさぞかし興奮していることだろう。


「姫さん、逃げた連中は追わなくていいのか?」


 手持ちの石を投げ尽くしたドナさんが、背負っていた剣に手をかけながら訊いてくる。


「深追いは禁止ですよ。私たち伏兵部隊の役目は果たしましたから。というわけで、全員を集めてください。戦況が落ち着いたところで本隊に合流します」


 慌てて合流すると同士討ちになる可能性があるからね。ここは慎重に行動しよう。


「なんで追撃しないんだ? 今ならあいつらを全滅させることだって——!」

「はいはい、落ち着いてくださいね。私の加護は、そろそろ切れますから」

「は……?」


 血気に逸るドナさんをたしなめながら、私は彼の【暴操】状態を解除した。

 急激に力が抜けたドナさんは、剣を支えにかろうじて地面にへたりこむのを我慢する。

 魔力にはまだまだ余裕があるので、私のスキル自体はこのまま何時間でも発動させていられるのだが、それをやると兵士たちの肉体が保たないのだ。


「強力過ぎる身体強化は反動も大きいですから、長くは使えないと言ってありましたよね」

「あ、ああ……そうだったな。思い出したぜ……すまねえ」


 すっかり大人しくなったドナさんが、顔を引き攣らせながら肩を落とした。全身を襲う脱力感と、筋肉痛に耐えているのだろう。


「終わってしまえば、呆気ないもんだったな。俺たちは出番がなかったぜ」


 戦場になった峠道を見回しながら、エグルさんが私に声をかけてくる。

 たしかに呆気ないといえば呆気なかった。森の中で待っている時間が長かっただけで、実際に戦闘が始まってからは四半刻さんじゅっぷんも経ってないだろう。

 伏兵部隊の損害はゼロ。石を投げているだけで終わってしまった形だ。

 ドナさんが物足りないと思うのも無理はない。だからといって、これ以上戦う気はないけどね。


「楽でよかったじゃないですか。それにリュカさんの火薬壺は大活躍でしたよ」


 敵があっさり崩れたのは、あの火薬壺の効果が大きい。もしかしたら上級魔法が使える魔法師がいると勘違いしてくれたのかもしれないな。


「本当に追撃は必要なかったのか?」

「連盟の軍勢は寄せ集めですからね。一度崩れたら、立て直すのは不可能です。ほっといても連中が戻ってくるようなことはありませんよ。それよりもあまり追い詰めすぎて、散り散りになって逃げられたほうが迷惑です」

「それもそうか」


 集団としてまとまっているうちは対処するのも容易いが、バラけてあちこちに逃げ出されたら、それを狩り出すのは手間がかかる。

 最悪、野盗と化して領内の村が襲われかねないんだ。そんな面倒はごめんだよ。


「アルセリカ! 無事だったか!」

「アルセリカ様!」


 馬に乗った大叔父様とバルナベ大隊長が、私を見つけて近づいて来る。

 大叔父様には、病み上がりなんだから騎乗なんかせず、輿レクティカにでも乗って大人しくしてろと言ったんだけどな。三日前まで死にかけていたのに、今朝になったら普通に鎧をつけて槍を振り回してたし。この老人、元気すぎるだろ。


「大叔父様たちもご無事でなによりでした。どうにか勝利できたようですね」

「……これは、おまえたちがやったのか?」


 兵士たちの骸が転がる戦場を見回して、大叔父様が驚きの声を上げる。

 たしかに死屍累々って感じだもんな。

 伏兵部隊による投石で死んだ兵士は、少なく見積もっても五十人くらい。負傷者はその倍はいるだろう。バーサーカー化した兵士による投石戦術は、私の想像以上の効果を上げたようだ。


 正直、これくらいしかできないという苦肉の策だったんだけどね。

 いくらバーサーカー化しているとはいえ、わずか三十人の兵士を大軍の中に突っこませるわけにはいかないし。

 だからといって、身体強化した兵士が使えるような強弓を二日やそこらでは用意できないし。

 その点、石を投げるだけなら、少し練習すればどうにかなる。


 しかし普通の歩兵同士のぶつかり合いでは、こんな悲惨な光景にはならないらしい。

 投石による一方的な蹂躙だと、武器を捨てて降伏もできないからね。同じ飛び道具でも弓矢による攻撃の場合は、ここまで血肉が飛び散るようなこともないだろうし。


「ああ、そうか。このまま死体を放置してたら、魔物が集まってくる可能性がありますね。大叔父様、捕虜にした連盟側の兵士を貸していただけませんか? 彼らに後始末をやらせましょう」

「わかった。それはやらせよう。しかし、アルセリカ、おまえはこれを見ても平気なのか?」


 大叔父様が私を気遣うような、それでいてどこか訝しそうな口調で訊いてくる。

 まあ、そうだよね。王都育ちの貴族令嬢がこんな陰惨な光景を見たら、普通は恐怖で錯乱するよな。


「味方に被害が出ませんでしたら、そのことで安心していました」


 とりあえず、こう言っておけば大叔父様も納得するかな。


 念のために昨晩のうちに黒水晶モリオンで〝すぷらった〟映画を見て、グロいのに慣れておいてよかったよ。

 母上の診療所の手伝いで、血の臭いだけなら慣れてるからね。

 おかげで、()()()()()()()()()()()()()

 いくら私でも、こんなものを見て平気でいられるわけがないだろ。


「……というわけで、私は今から気絶しますので、あとはよろしくお願いします、大叔父様」

「アルセリカ? おい、アルセリカ⁉︎」

「…………」


 大叔父様の騒がしい声と生々しい血の臭いに包まれながら、私は意識を手放した。

 おやすみなさい。


 こうして私の初陣は、どうにか勝利で幕を下ろしたのだった。


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