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白銀の蒼華姫  作者: 菅野 かおり
第4章 魔石
72/74

72.再生

 青い炎をあげたまま、魔石が床に砕け落ちた。

 繰り返していた点滅が消え、赤黒い色が抜け落ちる。数個に砕けた魔石は、破片の中心から煙をあげるように崩壊を始めた。それが、力を失ったからなのか、青い炎に燃やされているからなのかはわからない。

 アイシャは砕いた破片の1つを蹴り飛ばし、トォーリィに投げつけた。到底避けられる距離ではなく、トォーリィの眉間にビシリと当たる。あっという間に燃え移り、トォーリィの身体が青い炎に包まれた。残念ながら、こんがり肉の運命からは逃れられないらしい。


「アイシャ……?」


 喚くトォーリィと驚くアルヴァートに順番に視線を向けた後、アイシャは優雅に飛び立つと、上空で大きく旋回を始めた。

 腹を立てたトォーリィの身体が大きく膨らんで、飛びまわる鳥の姿を追いかけるように、無数の稲妻が落ちた。

 物理的に燃える炎ではないらしく、トォーリィの毛並みはそのままだ。では、青い炎はトォーリィの身体の中の何に反応して、眩しい光を強めているのだろう。もしも、ゼノルティの干渉に関わっているものであれば、むやみに拾い上げることが出来ない。

 稲妻を華麗にかわし、アイシャは攻撃する構えをとると、トォーリィに向かって炎の羽根を飛ばした。降り注ぐ位置を僅かにずらして、また海の上を飛ぶ。


「わざと挑発しているのか」


 海面がビリビリと電気を帯び、トォーリィの周囲に集まり始めた。体格が徐々に大きくなっていき、やがて、大きな咆哮と共に溜まっていた電気が弾けた。


 立ち耳に精悍な顔付き、四肢を踏みしめ、長い尾を持つ大型の獣の姿が現れる。電気を帯びた体毛が、いつもより激しく青白い輝きを放つ。記憶にある姿と比べるとかなり大きいが、リリーナを守るために、いつも共にあった懐かしい姿だ。


「トォーリィ」


 アルヴァートが名前を呼ぶと、トォーリィが振り返った。理性はあるようで、瞳に狂いの色はない。


「久しいな」


 トォーリィは無愛想にまた前を向いたが、応えるように僅かに尾が揺れた。そして、まだ残る魔石の破片を噛み砕いて飲み込むと、船首の先から海ヘ飛び降りた。



 ***



「何だ!?リスのレベルが半端ないぞ。急速に上がり続けるが、あいつ、大丈夫なのか!?」


 海岸で様子を見守ることしか出来ないシグルが大声を上げた。壊れたメータのように数値が上がり続け、異常事態としか思えない。その横で力が抜けたようにラミネが座り込み、良かった、と呟いた。


 狼の姿がまた光に包まれて、姿を変えた。アイシャと同じように海面を飛んで、何やら警戒を強めている。海面から浮かび上がる光の玉が吸収されて、それぞれの翼が光を帯び始めた。


 海面には、船を襲おうとしていた化け物が融解したまま、消えることなく、息を潜めている。あの虚ろな目をした姿もまた、本体ではないようで、波間に浮かんだ金色の眼球だけが、せわしなく動いていた。


「お迎えにあがりました。今のうちに船ヘお戻りになりますか?決して安全とは申し上げられませんが、ここよりはお守りできるかと」


 海岸にアルヴァートが現れて、ブルナ氏に声をかけた。


「そうですね。ここへくる途中に竜が眠っておりましたし、背後から襲われても困ります。お願いできますか」


「僕も行きます」


「そうだった。頼む」


 すっかり存在を忘れていたが、これから始まりそうな戦闘の影響で、目覚めて襲いかかってくる可能性があった。どちらにせよ巻き添えを食う事になるが、これまでの経験から、結界で守られる船にいたほうが安全だった。


「調査はしたいところですが、目的は果たしました。デイン騎士団長、お願いします」


「かしこまりました」


 こう何度も転移魔法が続くと、そろそろ馴れてもいいと思えるのだが、お約束のように、ラミネはバランスを崩し、甲板に投げ出された。ブルナ氏が差し出した手を申し訳なさそうにとって、立ち上がる。

 アルヴァートは飛び続ける2羽の様子を眺め、海面に目をやった後、険しい表情を浮かべた。


「シグル様、この海域から船を出します」


「待て、それじゃ、騎士団長様の足場がなくなって戦えないだろう」


「いえ、そのあたりはご心配いただかなくても大丈夫です。リリーナを屋敷に戻す時間がありません」


「そっちを優先してくれ」


「それでは、あなた方の命を守れません。まずい、時間がない」


 海面に怪しげな光が満ちて、何かが爆発するような音が近付いた。閃光に視界がくらんだ瞬間、今朝と同じように船が移動する。


「戻るまで、リリーナを頼みます」


 アルヴァートは返事を待たずに消えて戻っていった。魔石が燃えて、目覚める条件が整った今、本当なら、全てを放り出して、リリーナの側にいることを望んでいるはずだ。それなのに、アルヴァートは、ここから屋敷を運ぶこともせず、戦地へと赴いた。


「そのまま放っておけない、やばい奴なのか」


 大型魔獣など瞬殺の彼に険しい表情をさせる化け物とは一体、どんな奴なのか。

 シグルは急いで船員を集めると、すぐに、ここから安全な島への進路を定めた。せめてものお礼に、戻って来た時に、ゆったりと過ごしてもらえるよう、準備をしておこうと思った。



 ***



 アルヴァートが戻ると、海は大きく荒れており、波が高く、無数の竜巻まで起こっていた。

 危惧したとおり、戦闘の影響を受けて、島から竜が飛び立ち、炎を吐いている。


(普通の竜など眠らせることは簡単だが、盾として時間稼ぎになるだろうか)


 問題は、海面に竜巻を起こしている竜の方だ。そして、歌声が渦巻いて流れている。

 どんなに海が荒れていようと、足場は氷で作れる。苛立ちなのか、怒りなのか、周囲が凍っていくので問題がない。トォーリィが空から舞い戻ると、アルヴァートの隣で狼の姿に戻って、牙を剥いた。


「待っていたのよ」


 渦巻く雷雲に見えるのは長い鱗を持つ身体。乳白色の鱗は水分を含んで、揺らめくように美しい。腰から上が人の姿をしており、天空に浮くその背には、白鳥のような羽根が生えていた。人の言葉を語るその姿は竜とは呼べない。


「この姿の方が、あなたはお好みでしょう?」


 口元がにたりとあがって、澄んだ緑色の瞳が細められた。腰まであるプラチナブランドの髪は降ろされ、抜けるような白い肌の身体を僅かに覆う。両腕が誘うように伸ばされ、甘やかな声で、名前を呼んだ。


「冗談じゃない。勘違いも甚だしいな」


 アルヴァートは大剣を抜くと、斬撃を放った。たとえ、半身が化け物ではなくても、そっくりそのまま、愛おしい姿をしていようと、魂が間違えない。

 リリーナの形を真似た姿が、悲鳴を上げて、瞳を潤ませた。


「どうして?私はリリィよ。あなたに愛され、私も愛した」


「逆に問いたい。何故、そう思う?」


 歌声が不快に渦巻いて、心を抉る。あまり、この化け物の声に耳を傾けていてはいけないようだ。

 アイシャが羽根を広げ、業火を渦巻かせて、鱗の身体に巻きつけた。追撃するように、トォーリィが雷を落とした。炎の色が変わり、化け物が形のいい眉を寄せて、涙を流す。


「……な……私は……れな……い」


 砕いた魔石の破片と同じように、人型をしていた部分が、脆く崩れだし、言葉が途切れた。

 蒸気があがり、目の前で、大規模な爆発が起こった。乳白色の鱗が舞って、凍った海に輝きながら落ちて消えた。

 歌声が止み、覆っていた厚い雲が霧散する。


 戻ってきたアイシャとトォーリィに礼を言い、アルヴァートはため息をついた。

 まるで通信が途切れたような消え方が気になる。気配まで消え失せているが、どこかへ移動しただけなのだと思えた。

 今はひとまず船に戻ろうと、アルヴァートは転移魔法を唱えた。

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