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白銀の蒼華姫  作者: 菅野 かおり
第4章 魔石
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61.依頼

 執事長に案内されて応接室に入ったアルヴァートは、椅子に腰掛けて自分を見上げた客人を見て驚いた。部屋に居たのは当主だけではなく、深夜にも関わらず、見知った2人の公爵家の子息が、きちんと身なりを整え、正装姿で待っていた。


「我が息子よ、貴重な時間に呼び出して、すまないな」


 リリーナに会いに来ていることを知っているベルナルド辺境伯が、申し訳なさそうに目を伏せるのを見て、アルヴァートは姿勢を正すと頭を下げた。


「いいえ、父上。このような時間まで、お待たせしてしまった事を、お詫び申し上げます」


「良いのだ。私も解っている。このお二人も、事前に知らせることが出来ないと判断されており、いつまでも待つと仰せであったからな」


 意味深に微笑んで、ベルナルド辺境伯はゆったりと椅子の背もたれに背を預けた。


「こんばんわ、デイン騎士団長。当主様がおっしゃる通りです。頭を上げてください」


 いつもと変わらない微笑みを浮かべて、ブルナ氏が立ち上がった。


「こんばんわ、デイン騎士団長サマ。僕は普段から夜更しが多いデスカラ、気にすることなど、ないデスヨ。ハハハハハ……」


 無表情で、何か口調のおかしいシグルの様子に、たまらずブルナ氏が吹き出した。


「私は、シグル様の付き添いで来たつもりだったのですが……この通りなので、お話は私から申し上げます」


 シグルが軽く咳払いをして、ブルナ氏を軽く睨んだ。

 ラミネを頼って執事長に話を通し、屋敷に顔を出したところまでは良かった。まさか皇都の別邸に、本邸にいるはずの当主がいるとは思わなかった。正装で訪問しなければならないと言われた理由に、早く気付けば良かったのだが、お陰で長時間、威圧感に押し潰され、生きた心地がしていないのだ。


「まあ、座るが良い、我が息子よ。話があるのはこちらのご子息方だ」


「ええ……」


 何だか腑に落ちない様子で、アルヴァートは、執事長がひいた椅子に腰掛けた。

 ブルナ氏も椅子に腰掛けると、姿勢を正し、一度、眼鏡の位置をなおすと、口を開いた。


「デイン騎士団長、貴方にご協力をお願いしたいことが、ございます」


「……私に?」


「はい、地の底から呼び覚ましたトォーリィと同じように、アイシャを呼び起こそうと思うのです」


 簡潔に用件だけを伝えるブルナ氏に、アルヴァートは考えるように目を伏せた。その様子を、執事長が用意した紅茶を飲みながら、ベルナルド辺境伯が見守っている。出された紅茶に頭を下げて、シグルが何故か一気に飲み干した。


「アイシャが頭を下げた人間は、貴方とフラム様だけです。フラム様は、同じ炎系統の魔術を得意とするため、特に懐かれていらっしゃいました。シグル様が見つけてくれた土地に、もしもアイシャが封じられているのであれば、必ず反応を示すはずです。そこへ、フラム様と一緒に訪れてはいただけないでしょうか」


 アルヴァートは恐ろしく無表情のままのシグルに視線を向け、またテーブルに視線を落とした。


「あなた方は……何の話をされていらっしゃるのでしょうか。……私の姿を見て、おかしいとはお思いにならないのでしょうか」


「髪色のことでしょうか?それとも、魔力の大半が大剣に移ったままのことでしょうか?トォーリィが戻ってきた時から、貴方の記憶が、意識が、その体に溶け込んで馴染んでいることでしょうか?」


 すらすらと、さも何でもないように話すブルナ氏に、ベルナルド辺境伯もまた、驚いた視線を向けた。

 ああ、そうでしたね、と思い出したように呟いて、ブルナ氏は綺麗な微笑みを向けた。


「私もシグル様も、フラム様にお会いした時に、以前のことを思い出しています。貴方にお話しする機会がなく、伝えておりませんでしたね。私としたことが、話す順番を間違えてしまいました。申し訳ございません」


「……いえ」


「きっとあの洞窟で、それぞれに守護獣が守護していたからではないか、と私は考えております」


「まさか、そんな……」


「あの日、あなた方は洞窟から戻ってはこなかったのですよ、デイン騎士団長」


「僕は副団長サマに危ないところを突き飛ばされ、助けられましたヨ。副団長サマは命の恩人。僕は信者の1人でありマス」


 笑いをこらえるブルナ氏の横で、無表情なまま続けるシグルの言葉に、アルヴァートは信じられないという表情を向けた。リリーナのことを副団長と呼んでいることが真実であることを物語っている。


「僕はデスネ、確かに、デイン騎士団長サマの黒髪、黒目の姿の時は不自然だと思いましたヨ。今もまだ黒髪ですが、お話ししていて変だとは思わないデスネ」


 ついにブルナ氏が吹き出した。


「申し訳ございません。なぜ、デイン騎士団長はこの状態のシグル様と、真顔で話せるのでしょうか……?」


「いえ、特に何もおかしなところはないかと」


「……マジか!?真面目に言ってるのか!?この俺の極度の緊張と気遣いと取り繕いを、普通だと、流すのかッ!」


「……ほお?」


 ベルナルド辺境伯の呟きに、シグルの顔色が一気に悪くなった。気の毒そうに、執事長が新しい紅茶をシグルの前に差し出した。また一気に飲み干して、シグルは膝の上で手を握り締めた。


「……私はブルナ様と同じ気持ちでここにいます。第1騎士団に世話になり、何の恩も返せないまま、状況が大きく変わってしまいました。かつてルナティに関する神殿があり、ランカの木が生えていた島をご存知でしょうか」


 一周回って劇的変化を起こしたシグルの言葉に、おや、とブルナ氏が呟いた。


「リリーナの側に、ランカの種である木の実が供えてありました。置いたのはトォーリィだと思いますが、シグル様と何か関係があるのですか」


「トォーリィの世話をしているラミネという少年に私が拾い集めたものを差し上げました。ランカの実はオンギの実と名前を変え、今は毒薬扱いを受けて、市場に流通しておりません。なぜなら、無人になっているからです」


「無人……?」


「オンギの実を食べて、島民は全て死んだとされています。故に、命を奪う実と言われております。しかし、ランカの木は今も堂々と枝を広げて生えています。まるで、あの炎の鳥のように」


「デイン騎士団長、私は貴方が連れてきたラミネと一緒に、フラム様が調査していた魔石の研究を引き継いでおります。フラム様が魔石を常に携帯していた事も、今回の呪咀に大きく影響しているのではないかと。アイシャの炎の力が魔石の解析に必要だと考えています」


「何だと……?」


 話を黙って聞いていたベルナルド辺境伯が、背もたれから体を起こし、低い声で呟いた。そんなことは聞いていないと、ブルナ氏に冷たい視線を送る。


「揃ってからお話しするべきだと皇国研究機関の長官として、判断しました。持参しておりますのでお見せしましょう。研究者として、お尋ねしたい事がございます。デイン家の機密事項に関わってくる内容でしょう。協力をお願いできますか」


「……ほお?」


 ブルナ氏の言葉に、ベルナルド辺境伯が目を細めた。

 リリーナが何かの遺跡について調べていたことを、アルヴァートも知っている。モルドナー公爵領へ向かったのもそのためだと認識していた。しかし、魔石のことについては何も知らなかったため、アルヴァートは黙ってブルナ氏を見つめ、当主の言葉を待った。


「我が娘に関する事であれば、当家は協力を惜しまない」


「ありがとうございます。少し明かりを落としてもらえますか。シグル様は耐性がなく危険です。口元を押さえ、出来るだけ距離を取ってください。扉まで離れたほうが良いでしょう」


 持参していた保管ケースの留め具を外し、ブルナ氏は手袋をはめた。その指示に、シグルが慌てて出口まで移動する。ベルナルド辺境伯が執事長に明かりを落とすように指示を与え、膝の上で指を組んだ。


「仰々しいが、我が娘は何の魔石を調べていたのだ?」


「かつて彼女が闘って取り押さえたゼノルティの核の1つです」


「……ッ!?」


 言葉を失って息をのんだベルナルド辺境伯の前に、どす黒い点滅を繰り返し、気味の悪い光を放つ魔石が置かれた。浮かび上がった文字が螺旋を描き、渦巻いていた。

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