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白銀の蒼華姫  作者: 菅野 かおり
第4章 魔石
59/74

59.反転

「命を失う……?」


 ラミネは尾を抱え、丸くなって眠るトォーリィの姿を見つめた。命を失うというより、活力を与え、癒しているように見える。たまにオレンジの光がぼんやりと体を包み込んでいる。


「おかしいだろ?ランカの実と呼ばれていた時と効能は同じなんだ」


 ランカの実、とラミネは小さく呟いた。聞いたことがない。確認するように呟いてみたが、何も思い出されるものがない。忘れないように、ラミネは持っている書類の余白に書きとめた。

 この実はな、とシグルは言葉を続ける。


「失った体力や魔力を多量に回復する薬と同じだ。今は弱体化しているこいつも、食べて寝てを繰り返せば、短期間でかなり高い効果が出ると思う。ランカの実はある孤島の収入源として高値で取引されていた。それがどうして市場に出回っていないのか。不思議に思って出向いてみれば、孤島は無人で、神殿も荒れ放題、瓦礫と草に覆われていたんだ。そりゃ、市場にない訳だ。ラミネが知るルナティは、やはり化け物なんだろ?」


 眉根を寄せて、忌々しそうに言うシグルの表情を見て、ラミネは少し申し訳ない気持ちになった。


「はい。ルナティは気味の悪い人面の海竜で、海の亡者です。波間を漂うように歩き、見た者の声を奪い、息の根を止める、と言われています。海面に灯る青い炎は、喰われて海で命を落とした無念の魂の灯火と言われ、闇夜の晩に船を出してはいけないと……。その辺りはシグル様のほうがお詳しいのではないでしょうか」


「まあな……」


 シグルは頭の後ろで腕を組むと、背もたれに体を預け、足を組んだ。温室に植えられた背の高い木々を見上げ、広がった葉の隙間から差し込む光に目を向けた。


「月夜の晩に目覚め、輝く光に手を伸ばす……」


 そう呟いて、片手を伸ばしたシグルの横顔は、誰かを思い出しているように見えた。


「ルナティは炎を持たないぞ。確かに海竜の姿ではあったが、周りにめぐらせていたのは水だからな」


 シグルはため息をつくと、体を起こし、肩肘をついた。


「なあ、こいつと同じで、封じられている場所が違うんじゃないか?」


 テーブルの上を軽く叩いたシグルの指先と、眠るトォーリィの姿を見て、ラミネはあの日のことを思い出した。

 夕焼けの空に、炎のような鳥が姿を現した。けれども、地の底から飛び出したのは、禍々しい姿の狂わされた黒い獣。それぞれの姿から、伝承は偽りではないのか、と疑問を感じた。


「なるほど。その可能性は高いですね」


 黙って話を聞いていたブルナ氏が、水の中に沈む魔石を見つめながら口を開いた。ブルナ氏の鋭い視線は、魔石を取り囲む2本の螺旋の文字に向けられている。


「ラミネが目撃したのは、確かに土地に由来する炎の鳥でしょう。しかし、地に封じられていたのは、全く別のものです。アイシャの件も同じように考えたほうが、いいのかもしれません」


「海面に浮かぶ青い灯火は、亡者の魂の集まりではない、と……?では、海中に封じられているのでしょうか」


「解らんが、この木の実が生えている場所は、何か怪しいと、俺は思うぞ」


 シグルが木の実の入った袋を指差して言った。


「理由は2つある。まず、色が変わっているんだ。元々は青緑の光を放っていたはずなのに、今はオレンジの光を放っている。神殿はさっきも話したとおり、柱の土台かどうかも解らないほど崩れ、瓦礫と草に覆われていた。そんな場所に、ランカの木だけが、大きく枝を広げて堂々と生えていた。あの鳥の影響を受けていると考えれば、俺の中で納得がいく。あの風格は、まさにあの気位の高い炎だ」


 なるほど、と呟いて、ブルナ氏は考え込むように眼鏡のフレームに指先をあてた。


「興味深いですね。調べて見る価値はありそうです。シグル様、そこへの案内をお願いすることはできますか」


「できるが、あの島に上陸できるのは月が満ちる前後の3日間だけだ。潮の流れが影響して、船で近付けない。ここからの道のりを含めたら、かなり後になってしまうぞ。あとは、俺が木の周りをうろうろして実を拾い集めている間、全く何も起こらなかった。あの鳥のことだ。興味がないとそっぽを向いて無反応であるとすれば、条件が必要な気がする。眼鏡氏を含めて興味を示していたのは……」


「アイシャが頭を下げた人間は2人、リリーナ様とデイン騎士団長ですね。よく対抗していたのはトォーリィですね」


「どれも、騎士団長様の協力が必要じゃねぇかー」


 シグルはガシガシと頭をかいた。


「リスは副団長様の側からは離れないんだろ?その副団長様だって、今は眠ったまま、どこかに隠されている。騎士団長様は皇女殿下にべったりだしな」


「何か考えがあってのことでしょう」


 シグルの言い方にブルナ氏が苦笑し、ラミネがちょっと不満そうに口をとがらせた。


「……べったりなのは皇女殿下のほうです」


 それ以外に口に出来ないのだろう。ラミネの面白くなさそうな表情から、黙っていても、いろいろと伝わってしまっている。


「ふーん、雰囲気が変わった気がしたから、どっちなんだろうと思っていたんだが……。良いふうに変わっているんだったら、協力を得られそうだな。まあ、あの騎士団長様が他の女性に余所見をするってのは、……ないな。考えられん」


 そう言いながらも、シグルはどこかホッとしたような笑みを浮かべた。


「よしッ!俺、突撃するッ!!」


 机を強く叩いて、突然立ち上がったシグルを、振動に驚いて起きたトォーリィも含めて、全員が何事かと目を丸くした。


「ラミネ、俺を騎士団長様に会わせてくれ。どこに行って待っていれば、会える?確実なのは副団長様がいる部屋だろうが、さすがにそこで待ち伏せしていると、殺されるしな。まずは俺を、話が通じて、通りやすい人物のところに案内してくれ」


 随分、強引で無茶なことを頼むシグルに、ラミネは困ってしまい、助けを求めるようにブルナ氏を見上げた。


「仕方ありませんね、私も一緒に伺いましょう。ラミネ、よろしくお願いしますよ」


 助けてもらえるどころか、ブルナ氏にとても綺麗な笑顔で微笑まれ、目眩を感じたラミネは目を閉じた。拒否権は全くないのだろう。


「わかりました……。どこまでお力になれるのかはわかりませんが……善処します」


「よろしく!」


 いい笑顔のシグルとは対象的に、ラミネからは笑顔が消えた。気分を変えようと、どんな風に突撃してくるのだろうと考えてみたが、何も思いつかない。トォーリィが頬袋から木の実を取り出し、かじり出した音が不気味に聞こえるほど、ラミネは困ってしまった。

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