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白銀の蒼華姫  作者: 菅野 かおり
第4章 魔石
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58.能力

 皇都中央研究機関の動植物園にある温室は、今も一般公開がされていない。

 研究調査を行っている対象が、人為的に害を為す魔石ということもあり、関係者以外、立ち入りを禁止されている。


 温室の中央にある噴水の中に、施設長であるブルナ氏の姿があった。彼は手袋をはめたまま、研究対象の魔石をゆっくりと水中に沈める。その様子を少年が側で見つめており、近くのテーブルには、子リスと、何やら涙を流している青年がいた。


「お前、そんな姿になっちまって……ッ!!」


 息も切れ切れに、整った顔が台無しと言えるほど、眉を下げている。一方の子リスは、誰だこいつ、という顔をして、黒髪のよく日焼けした青年を見上げた。子リスは青白い毛並みをしており、野生にいる個体ではないことがわかる。首を傾げる子リスに、青年は更にくやしそうに顔をゆがめた。


「お前に、約束していた木の実を持ってきたのに……それも忘れちまって……クソッ!あの騎士団長様、無茶しやがってッ!」


 誰なのかはわからないが、差し出された木の実はありがたくいただこうと、子リスは両手を伸ばした。大好きなべレンの実とは違う、何だかとっても温かい、ほわほわとした幸せな匂いがする。お日様をたっぷりと浴びた花の優しい香りだ。


(トォーリィ)


 不意に自分の名前を呼ぶ、大好きな人の笑顔を思い出して、子リスはぽろりと実を落とした。

 優しい花の香りの実は、うなだれる小リスの足元に、乾いた音をたてて転がった。


「口にあわないのかッ?!……クソッ!あの騎士団長様のせいで、味覚までもッ!?」


「そうではないと思います。その実からフラム様の姿を思い出したようです。温かい幸せな匂いがするから、と」


 記録を付けていた少年が、文章を書く手を止めて、テーブルの方に視線を向けた。

 それを聞いて、青年は大きく鼻をすする。


「泣けるッ!泣け、泣け、俺も泣くからッ!!」


「いや、シグル様は最初から泣いてらっしゃるように思えますが……情に厚いとは言え、困ったお方ですね」


 ブルナ氏が呆れたように口を開いた。ぶわりと光を発して、水面に浮かび上がった文字を確認し、少年に指示を与える。


「ラミネ、これも記録してください。文字が変容しているように感じられます」


「わかりました」


「だって、こいつ、レベル6って……性格は、人間不信でやさぐれてるし、使える技が、疑う、跳ねる、昼寝するッて……クソッ!あの騎士団長様のせいでッ、こんな酷い目にッ!」


 テーブルを叩いて涙を流すシグルの言葉に、ラミネは目を瞬いた。その様子に気付いたシグル氏が穏やかな笑みを浮かべ、わかりましたか、と少年に声をかけた。


「シグル様は鑑定能力が高い方なので、値として状態を確認できるようなのです。今日、貴方にトォーリィを連れてきてもらったのは、彼に現在の状態をみてもらうためですよ」


「それでは、オロラム公爵令息シグル様。トォーリィが変身できるようになるために、何が必要か、お解りになりますかッ!?」


 ラミネはシグルに近寄り、すがりつくような目をして声を上げた。あまりにも必死な様子に、一瞬、シグルの涙が引っ込む。


 皇国研究機関モルドナー支部に所属していたラミネがここにいるのには理由がある。


 あの日から、デインの姫君の意識が戻らない。

 異変に気付いた第1騎士団長の呼びかけにも答えず、彼の腕の中で見えた彼女の肌は青白く、呼吸をしているのかどうかも定かではなかった。


 彼女の胸元が青く輝き、中から子リスが顔を出したが、パタリと倒れてしまった。浮かび上がる紋章は彼女と繋がっていて、助けたい、守りたいという意思が伝わった。


 ラミネはその場で付いて行くことを決めた。

 人以外の物と意思の疎通ができる能力を買われたこともあるが、純粋に力になりたかった。


 皇国研究機関も辞める勢いであったが、本部へ顔を出せば、彼女の補佐官として異動することとなり、トォーリィの世話を引き受けて、こうして研究を引き継いでいる。


「せめて、トォーリィが稲妻を使えるようになれば、道が開けるのですが……ッ!!」


 必死な形相に、シグルはたじろく。


「おお……。うーん、俺が知るこいつのレベルはかなり高かったんだが……、そもそも、どうやってレベルを上げてるんだ?」


「よく寝て、よく食べて、お日様の光を浴びて、よく寝て、よく食べています」


「よく寝て食べて、というのが2回入っているが、見た目通り子供というわけか」


 気を悪くしたトォーリィが木の実を投げ付けようとしたが、思い直し、そのまま器用に頬袋に入れた。


「食いしん坊なところは、健在で、俺は嬉しいぞッ!」


 その姿も涙を誘うようで、シグルの涙が復活した。


「わかった、俺にまかせろ。世界中の木の実を持ってきてやる。まずはその実を食え」


 シグルは頬に仕舞い込んだ木の実を指で示すが、トォーリィはそっぽを向いた。トォーリィの特性である食いしん坊は健在だが、今は人間不信のため言うことをきかない。


 そうだったな、とため息をついて、シグルはテーブルにばらばらと木の実を置いた。頬袋に入る量は限られている。それ以上に置けば、入らない分は食べるに違いない。


 疑っている様子は見てとれるが、木の実の誘惑には勝てず、トォーリィは次々に頬袋に詰め込んでいく。

 思ったとおり、入りきらない分をかじり始めた。

 木の実をまるまる1つ食べきった時、トォーリィの体がオレンジ色に輝き、一回り大きくなった。


「なるほどな」


 シグルは満足そうに口元を緩めた。一方のトォーリィは急に成長したことに驚いたが、頬袋に隙間が出来たため、また詰め込み始めた。


「笑える特性だが、思うつぼだ」


 シグルはまたテーブルに木の実を置き始める。餌をくれる人=神!?という瞳にはならないようだが、くれるものは頂こうと疑うことをやめたようだ。


「どう……なったのですか?」


「まあ、見ていればわかる」


 心配そうなラミネの頭に手を置いて、シグルは優しい瞳を向けるとぽんぽんと撫でた。


「あいつが食いしん坊だということを、あんたも知っているんだろう?俺が持ってきた実は、特別なんだよ」


 見ている前で、またオレンジ色に輝いて、トォーリィは一回り大きくなった。

 さすがに驚いたのか、トォーリィは立ち上がると、小さな両手を不思議そうに眺めた後、自分の体を見ようとひねり、ころりとひっくり返った。


「ざっとレベル24ってところだな。人間不信は、守護獣としての契約者である騎士団長様との信頼関係が戻らないと駄目だろうが、お前には守りたい人がいるんだろう。その人も人間だぞ?俺も、この坊やも」


「坊やって、私はこれでも18ですッ!!」


「え!?」


 14そこらの年齢だと思っていたシグルは驚いてラミネを見上げたが、ブルナ氏は面白そうに笑っていた。

 シグルは悪かったな、と頭をかいて、テーブルの上に木の実が入った袋を置いた。


「ラミネ、だったか?俺のことは様とかつけなくて良い。この木の実は、それなりに神聖な場所に生えている木に実る果実の種だ。お前も気付いているだろうが、俺が知る元の伝承と今の伝承が違う。この実は以前は違う名前で呼ばれていた。だが、今は……」


 シグルは、魔力を回復するためか、ひっくり返ったまま、うとうとし始めたリスの姿を見ながら呟いた。


「食べれば命を失うと言われる、オンギの実だ」

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