41.同伴
街道をそれて、舗装がされていない荒れた道を先遣隊の馬が走る。
揃いの外套を羽織り、集団で駆け抜けていく様は裏街道においても人々の目を引いた。できるだけ移動時間を短縮する形で、獣道も併用し、彼らは目的地へと急ぐ。
先頭を走る騎士団員が進路にはみ出して邪魔になる小枝を剣で薙ぎ払った。うっそうとした森を抜けると、少し開けた場所に出る。
目印となる大木を確認して、アルヴァートは馬の速度を緩めた。
「小休止する。夕の4刻に出発する」
騎士団長の言葉に団員たちはそろって返事をすると、各々馬から降り、飼葉や水を与えて馬の世話をし、自分たちもホッと息をついた。
アルヴァートが最後尾を走るリリーナの元へ戻る。
「お疲れではありませんか?」
リリーナが自分の前を走っていたブルナ氏を気遣うように声を掛けているのが見えた。
「はい、大丈夫です。無理を言って同行を許していただいたのです。お気遣い、ありがとうございます」
今日も隙がない身のこなしで、ブルナ氏が馬から降りた。
スラリと背の高いブルナ氏は落ち着いた雰囲気もあり、乗馬も様になる。調査に出向く時には普段から移動に馬を使うということだが、整備されていない道を急いでいる先遣隊の走りに、よくついてこれたものだと思う。
乱れているのは前髪だけであり、穏やかに笑って、長い指でそれを直す仕草は、気を許した彼の日常を垣間見るようで、何やら気恥ずかしくなった。
「眼鏡氏が馬に乗れるとは思わなかったぜ」
相変わらずな物言いで、シグルが馬から降りると、結構、走ったなーと大きく伸びをした。
「お兄さん達は馬に乗っているから疲れちゃうよね」
上空からゆったりと絨毯が降りてくる。それを見上げて、シグルが軽く睨んだ。
「おまえはいいよな。なんだよ、その魔道具はッ」
横になりながら、ルシアンが全く気にしない様子であくびをした。ちゃっかりアイシャが同乗しており、絨毯から飛び立つと、リリーナの肩に止まった。
「いいでしょ。僕の新作だよ。魔力は使うけど、快適だよ。乗せてあげるのは綺麗なお姉さん限定だけどね」
「鳥はお姉さんにカウントされるのか?というか、性別あんのかよ?」
「アイシャは綺麗だから、どっちでもいいでしょ」
何とものんびりとしたやり取りが繰り広げられる。
何故か、先遣隊に同伴者が増えた。しかも姫君の婚約者候補が3人も揃っている。
出立する前に立ち寄った施設で話を聞いたブルナ氏は、研究者として調査するため、同行したいと申し出た。それはわかる。アイシャの姿は確認できるが、ルナティもおそらく一緒のはずだ。
しばらく皇都を離れるため、シグル氏に挨拶に行くと、彼は話を聞くなり、希少価値の高い鉱石の鉱床を見たいと言い出した。俺の知的好奇心を満たすためと鑑定能力を活かし石に価格をつけるためだ、と言い張り、領地からの迎えを強引に無視して追い返した。
そして、第1騎士団へ戻れば、ルシアン氏がいて、面白そうだから最初から一緒について行くと言い出した。
どういうことだろう、とリリーナは首を傾げる。
何故、婚約者候補が揃って簡単に皇都を離れるのだろう。
乙女ゲームの主人公である姫君との関わりが絶たれてしまう。本来、攻略対象者は、一目見るなり、まるで魅了魔法にかかったように姫君に好意を寄せ、関わっていくものではなかっただろうか。姫君の関心がないと除外されてしまう仕組みなのだろうか。
現在、皇都には姫君と残りの2人の婚約者候補であるダリウス氏とディガス氏がいる。
この状況は、姫君の関心がその2人へ移ったのか、ただ閑話的なものなのだろうか。
アルヴァートに呼ばれて、リリーナは彼らに頭を下げると、馬の手綱を引いて、彼の元へ駆け寄った。
「あの方々の状況は?」
見るからに不機嫌な口調で聞かれて、リリーナは目を瞬く。
「何とお答えすればよいのか……疲労も怪我もなく、お元気です」
アルヴァートはため息をつくと、やれやれと呟いた。
「次は野営地まで直行するが、大丈夫そうか」
「ええ、見る限りは問題ないと思います」
アルヴァートがじっとリリーナを見つめる。何か言いたそうな、何か面白くなさそうな、不満あり気な表情だ。まるで自分を抑えるように手を固く握り締めているのを見て、リリーナは困ったように微笑んだ。
「余所見はしていません」
リリーナの言葉にアルヴァートは一瞬大きく目を見開き、横にそらした。
「いや……、わかってる」
「じゃあ、どうして……?」
リリーナは少し意地悪かな、と思いながら、横を向いたアルヴァートに1歩近付いた。
きっと触れれば、彼は自分を抱き寄せてしまうのだろう。
姫君の婚約者候補が同伴しているため、適切な距離をとり続けているが、不満がありありと表情に出てしまっている。
「アル」
名前を呼べば、固く唇を引き結んだままこちらを振り向くが、見つめる瞳が自分を欲しているのが解る。
素直にとても嬉しい。こんな風に彼の気持ちを確かめる自分が、ずるいなと思える。
何かを察したのか、リリーナの馬の背に、大鷲の姿で上空を旋回していたトォーリィが急降下し、不機嫌な様子で止まった。驚いた馬が少しいななき、アイシャがリリーナの肩から飛び上がった。
「トォーリィ……?」
ボフンと音を立ててリスの姿に戻ったトォーリィは、リリーナの肩に飛び乗ると頬に擦り寄った。
困った生き物がここにもいたようだ。
「あなたたちはよく似ているのね」
アルヴァートは何のことだと、不機嫌そうにこちらを見ているが、リリーナはふわりと花のように微笑んだ。
「どちらも大好きよ。愛してるわ、アル」
素直に告げた気持ちに、何故かどちらも固まった。
後ろで軽く咳払いをする声がして、リリーナが振り返ると、自分たちを呼びにきた副官が頭を下げた。
「その、……もうすぐ出発の時刻となりますが……」
「……わかった」
アルヴァートは無表情のまま、リリーナの横を通りすぎる。何でもないようにしているが、珍しく木の根に足をとられていた。
「衝撃のあまり、言葉を失ったとみえる。あんたも相変わらずというか、さすがだな」
シグル氏がアルヴァートの後ろ姿を見送りながら、ぼそりと呟いた。リリーナの頬に熱が上がる。
いつからそこにいたのだろう。
「ま、無事に着けばそれでいいが。ちゃんと着くのか?」
何か動きがおかしいアルヴァートを面白そうにみながら、シグルは呟くと、自分の馬の方へ戻って行った。
彼は何をしにきたのだろう。副官と同じで自分を呼びにきたのだろうか。
リリーナは混乱したまま、自分の馬に跨った。列の最後に戻るのが、とても恥ずかしい。




