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白銀の蒼華姫  作者: 菅野 かおり
第3章 守護獣
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40.見解

アルヴァート視点です。

 アルヴァートはシグルを皇都の滞在先に送り届けると、その足で別邸に滞在している当主を訪ねた。


「ようやく気付いたか、我が息子よ」


 面会を求めると、応接室のソファーにゆったりと背を預けながら、ベルナンド辺境伯は足を組み直した。


「このような時間にお時間をいただき、申し訳ありません」


「気にすることはない。そもそも、ここはお前にとっても自分の屋敷であろう。問題はない。それよりも……」


 ベルナンド辺境伯はアルヴァートが一人で来ていることを確認して、ため息をついた。


「お前が一人で来た理由はわかるが、事態は深刻だ。ゼノは蒼華姫を狙っている可能性がある。お前は彼女と行動を共にしなければならない」


 アルヴァートは息をのんだ。父であるベルナンド辺境伯がゼノと呼ぶものはゼノルティの略称であり、一対の魔獣の片割れである大蛇のことだ。


「狙う理由は史実を調べてもわからない。ゼノが道筋を変えたのは、蒼華姫が皇都にいることに気付いたからではないかと考えられる」


「つまり、これまでゼノはヴィアンの元へ向かっていた訳ではなかったということですか」


 ノーザン・イレグニス辺境伯領において、一族のみに伝えられる機密事項の中に、ゼノルティ・ヴィアンティスという一対の魔獣がいる。ゼノルティが大蛇、そしてヴィアンティスは大亀を指す。

 ヴィアンティスはイレグニス山脈で古くから封じられており、水を扱うため捕獲がしやすく、封印して凍り漬けになっている。片割れであるゼノルティと呼ばれる大蛇だけが逃げ続け、時の術者の手により封印され眠りについても、魔力が回復するたびに目覚めてくる厄介な魔物となっていた。


「それ以外の理由として、皇女殿下があげられる。ゼノが姫君を狙う習性があるとすれば、該当する」


「リリィは姫君付きの騎士です。原因となる可能性がある者が一緒にいることは良くない。ゼノの動きを確認するためにも、リリィを連れて、一度皇都を離れましょう。まだ近衛騎士団は準備できておりませんが、有事の際には、第1騎士団として職務を優先することになっております」


「そうだな。何処へ向かう?」


「サン・ジルレ山脈の麓にあるジルレ鉱山へ向かいます。6日前に確認された鉱脈の地点から、北西へ対角線に誘導するとなれば、そこに現れるはずです」


「なるほど。ヴィアンの方はお前の兄と一族の者に任せてある。皇都は私が何とかしよう」


「わかりました。私はすぐに宮殿に戻ります」


 アルヴァートは立ち上がり、そして、ふと疑問に思ったことを口にした。


「兄上の姫君は蒼華姫ではないのですか?」


 アルヴァートの2つ上の兄は次期当主として、領地の本邸にいる。早くに結婚しており、一番上の子供は、もう10歳になるはずだ。


「残念だが違う。子を成しているから、という理由でもない。私の妻であるお前の母も、デインの姫君と言われたが、蒼華姫ではないのだよ」


 まあ、座れと言われて、アルヴァートはまたソファーに腰を下ろした。当主にしか伝わっていない事があるのだろう。ベルナンド辺境伯は言葉を続ける。


「蒼華姫は守護獣と共にある。守護獣を持つお前が、出会ってすぐに選んだ姫君こそが、蒼華姫であり、我が一族の娘だ。あの装いも彼女にしか許されない。我が一族は男系であり、めったに姫君は生まれないが、先代の蒼華姫は一族から生まれ、常に守護獣が共にあった。肖像画を見たことはなかったか?雄鹿の姿が描かれていたと思う。本来であれば、守護獣を持つお前こそが領地を守るべき役目があるのだ」


「しかし、私は……」


「いいのだ。お前はあえて領地外へ出した。その強大な力を振るうべき場所が領地内であるはずがない」


 ベルナンド辺境伯は穏やかに笑う。


「守護獣が現れる時代とゼノが目覚める時代が重なることが多い。故に、ゼノの目覚めの判断基準にもなるのだよ。今世の蒼華姫は騎士姫であり、史書には蒼炎姫と記録されるかも知れんな。何にせよ、彼女はお前が選んだ時点からずっと我が娘だ。何者にも手出しはさせない」


 ベルナンド辺境伯の表情が険しくなり、空気が冷えた。リリーナ本人は知らないが、ベルナンド辺境伯にとっても、昔から彼女はお気に入りの姫君だ。兄嫁のことは息子の伴侶としか認識せず、特に干渉もしないのに、リリーナだけを娘と読んで特別扱いをしていた理由を知って、アルヴァートは複雑な心境で納得した。


 アルヴァートは宮殿へ戻り、宰相の執務室を訪れる。夜の9刻を回っていたため屋敷を訪れたが、彼はまだ仕事中であり、帰宅されていなかった。


「ベルナンドから話は聞いている。ついに来たというべきか」


 頭痛がするのか、宰相はこめかみを軽く押して、大きくため息をついた。


「姫君は外出を規制し、サンドラグ侯爵に連絡を入れておこう。カルバイン副団長を連れて向かうが良い。もしジルレ鉱山に鉱脈が現れたら、直ぐに連絡してくれ。ルシアン様をお連れする」


 ジルレ鉱山を管轄するのはサンドラグ侯爵領だ。馬を走らせても3日はかかる。


「かしこまりました」


「現在、報告を受けている出現間隔は約20日間隔だな。もし道筋を変えれば、なるほど、予測地点となる訳か」


「当家の姫を狙うのであれば、道筋が変わります」


「君がようやく動いてくれたことを、ベルナンドも喜んでいたというのに、なかなか落ち着かないものだね」


 守護獣を持つ者の定めか、と宰相は小さく呟いた。


「まずは6日前に出現したダナンの岩肌へ向かい、幅の大きさを確認したいと考えます。明日の朝より準備を開始し、先遣隊として10名で編成し、向かいます。出立の際にご連絡申しあげます」


「了承した」


 宰相と打ち合わせを終え、アルヴァートが寄宿舎ヘ戻る頃には、もう夜の10刻を過ぎていた。さすがに疲れを感じる。


 リリーナの部屋の前で足がとまった。扉下から明かりは漏れておらず、もう就寝しているのだろう。物音がしない。

 ため息をついて奥の自室ヘ視線を向ければ、扉下から光が漏れていた。


 扉を開けると、出迎えるようにトォーリィがするりと現れた。中に人の姿はない。長机に書物が数冊開かれており、何か書き留めていたのだろう、書類の文章が途中で止まっている。


「リリィ……」


 ソファーに横向きに背を預け、膝を抱えて丸くなって寝息をたてるリリーナを見付けて、アルヴァートは微笑んだ。

 部屋で待っていてくれる人がいることが、こんなにも嬉しいことだとは思わなかった。


 アルヴァートは帯刀していた大剣を椅子に立て掛けると、リリーナを起こさないように、そっとすくい上げた。


 明日からまた忙しくなる。今夜はこのまま、この温もりを抱き締めて眠ろう。


 ベッドにリリーナを運んで、アルヴァートはふと目に入った壁を見つめた。隣室のリリーナの部屋との境目にあるあの壁をぶち抜けば、いつでも一緒にいられるのではないか。


(ものすごく反対するだろうな)


 怒るリリーナの姿を想像して、アルヴァートは口元を緩めた。彼女の顔にかかった髪をなおし、明かりを落とした。


(愛しています、私の蒼華姫。誓約しましょう。何度生まれ変わっても、永遠に、私の全てを捧げましょう)


 髪留めに贈った言葉。囚われているのは自分のほうだ。生まれ変わりがあるとすれば、どんな形でも、彼女だけを求めてしまう。


(皇都を出る前にルナティに会いに行くか。あの言葉が歌詞であるのであれば、その歌を聞いてみたい)


 眠るリリーナを抱き寄せて、アルヴァートは目を閉じた。

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