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白銀の蒼華姫  作者: 菅野 かおり
第2章 婚約者候補
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31.開戦

 リリーナは船の甲板に出て、海面を見つめる。


「氷塊はここで途切れている。何もないぞ」


 シグルがリリーナの横に並び、突然、途切れてしまった青い光が波に揺れるのを不思議そうに見た。


「海底って訳でもなさそうだな」


 シグルは海面を覗き込むが、海中に光は見えない。


 シグルが用意してくれた船は、バリスタや大砲が実装された護衛艦だった。商船を襲う海賊船や海竜対策のためらしいが、無駄に武器の数が多いのは彼の趣味らしい。


 シグルは俺のこだわりポイントを教えてくれたが、リリーナは何一つ覚えていない。攻撃の手数が多いことを、素直にありがたいと思った。


 リリーナは黙って、少し後ろに下がった。停泊した船上の空に大型の魔法陣を描く。


「おいおいおい」


 耐久性を高め、防御壁で船を取り囲んだリリーナは、海面を見つめたまま、薄く笑った。ゆらりと炎が立ち昇る。


 シグルは慌ててその場から退避した。


 リリーナが小さく呟いて、大型の火球を前方に打ち込んだ。

 衝撃で船が大きく揺れる。

 リリーナが打ち込んだ火球は、まるで飲み込まれるように消えた。対象物に当たれば爆発するはずなのに、目の前から消えたのだ。


 シグルは、黙っていきなり火球を打ち込むリリーナにも目を疑ったが、目の前の光景に唖然とした。

 何かそこにある。


「トォーリィ、アイシャ、力を貸して」


 リリーナが名前を呼ぶと、上空に大型の鳥が2羽現れた。見たことがない鳥が優雅に羽ばたくが、異様な光景に体が震えた。


 海面に浮いていた青い光が集められ、凝縮されていく。それはやがて、稲妻のようにバリバリと音を立て始めた。

 美しい羽を広げた鳥の前には、炎が轟々と渦巻き始め、海面から水蒸気が上がり始めた。


 目の前の副団長は何をやらかそうというのか。もはや悪い予感しかない。


 リリーナは後ろを振り返ると、団員に指示を出した。


「内側から破壊する!合図とともに攻撃を開始せよ!」


「ハッ」


 リリーナが前を向いて、空に大型の魔法陣を描いた。

 光の粒が集まり、できた光球が膨らみながら大きくなっていく。2羽が凝縮していた球を吸収し、超大型の球に姿を変えた。絶対に取り扱ってはいけない高エネルギーを感じる。背筋が凍るレベルとはこのことか。海を干上がらせるつもりか。


「おいおいおい」


 無茶苦茶だ。皇国の騎士団はみんな化け物だらけなのか。どこが瞳が潤んで愛らしい副団長様なのだ。この規模が愛らしいなら、他は一体どうなっているんだ。


「私の大切な人を返してもらおう!」


 リリーナは海面に向かって球を叩き込んだ。ゆっくりと空間に飲み込まれ、やがて光の亀裂が入り、眩しい光が漏れ始めた。バリバリと崩れ、目の前で強烈な水柱が立ち昇った。


「撃て!」


 甲板を蹴って飛びあがったリリーナの声にあわせて、水柱に拘束用のバリスタが打ち込まれた。


 耳を塞ぎたくなる咆哮が上がり、リリーナが回転しながら斬撃を放つ。双剣で刃を振るうリリーナを援護するように、次々と稲妻が落ち、炎の矢が打ち込まれた。2羽の鳥は旋回しながら攻撃を続ける。


「撃て!」


 大砲が火を吹く。砲弾が筒に次々に飲み込まれ、魔竜に目掛けて飛んでいき、爆発が続けざまに起きた。


「ヒャッハー!!」


 砲弾に混じって、どういう仕組みになっているのか、ポーチから大型の爆弾を投げ続ける団員が出現した。今回同行した騎士団員の中で、最も冷静沈着に見えた彼の姿に、シグルは裏切られた気分になる。


「腕が鳴るぜ!!ぐはははは!!」


「罪の重さを知れ!!トカゲ野郎!!」


「ヒャッハー!!」


 第1騎士団は戦闘に特化した精鋭部隊と聞いていたが、皆、礼儀正しく、戦闘狂の集まりには見えなかった。

 訂正しよう。ヒャッハー!!と言っているだけで、もう何かダメな気がする。


「小賢しい!やはり虚像か!?」


 2本の剣で魔竜に斬撃を続けるリリーナが叫んだ。


「回避!」


 リリーナの声にあわせて団員が防御回避の体制をとる。

 強烈な咆哮があがり、空間が振動した。うまく立っていられないシグルは片膝をついた。リリーナは剣を鞘に戻し、背中の大剣を抜いた。


「やっぱり使うじゃねえか」


「はああああああッッッ!!!」


 リリーナは両手で握り、真っ直ぐに振り下ろす。太刀筋にそって、轟音と水柱が上がった。


 本当に無茶苦茶だ。船は副団長様の防御壁のお陰で無事だが、海面は繋がっている。暴れる波に翻弄され、転覆しないことを祈るしかない。


「そこかッ!!」


 大剣を振り被ったリリーナが、仰け反って大きく開いた魔竜の口に飛び込んだ。2羽も続いて飛び込む。


「待てッ!!」


 シグルは叫んだ。前回と同じだ。騎士団長も魔竜の口に飛び込み、爆風と共に消滅した。


「カルバイン副団長!!」


 繰り返される光景に、騎士団員からも声が上がる。

 爆風が起こり、彼らの目の前で、リリーナの姿も魔竜の姿も消滅した。



 ***



(転移魔法か………?)


 リリーナは転移ゲートを使った時のように、空間が切り替わった感覚を受ける。

 魔竜の超大型の姿は虚像だ。どこを攻撃しても全く手応えがない。大剣を振るって切り開いて見れば、やはり核のように、中心に本体が隠れているのがわかった。魔竜が大きく口を開けた時、リリーナは誘いにのることにした。


「氷の床……?」


 地面がある。周りを見渡せば、外壁が凍りついている部分が多いが、洞窟のようだ。うっすらと青い光を帯びているのはアルヴァートの魔力の痕跡だろうか。


 リリーナは大剣を背中に戻す。一緒に付いてきたアイシャはリリーナの肩に乗り、トォーリィは狼の姿に変わり、前を歩いた。気のせいか、トォーリィがちょっと大きくなっている。


 しばらく何も起きないまま、洞窟を抜けると、氷漬けの広い空間に出た。水が流線の形状を残したまま彫刻のように凍っているのを見て、リリーナは以前見た凍りついた噴水を思い出した。

 間違いない、アルヴァートがここで戦った痕跡だ。


(一体どこに……?)


 リリーナは不安になる。静かすぎるのだ。

 彼がここにいなくても、まだ戦闘中であるならば、何かしら振動や音が伝わるものだ。立ち止まって耳をすましてみても、何も聞こえない。


 氷漬けの遺跡のような門があり、リリーナは念のため剣を抜くと、くぐり抜けた。


 前を歩くトォーリィが立ち止まり、唸り声を上げた。

 アイシャが肩から飛び上がり、炎を揺らめかせて羽ばたいた。

 凍りついた庭園のような中心に、人影があった。


 リリーナは目を疑う。

 まるで封印されたように、氷塊の中で眠るアルヴァート。

 その横で、泣きながら座り込むドレス姿の女性。


 振り返って見上げたその女性は、自分と同じ顔をしていた。

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