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白銀の蒼華姫  作者: 菅野 かおり
第2章 婚約者候補
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26.訓練

 思い立ったらすぐ行動。


 リリーナはデイン家の庭を堪能した後、送迎の馬車を断って、寄宿舎ヘ戻った。訓練着に着替えて、第1騎士団の鍛錬場に姿をみせる。


 非番の副団長の出現に、若い団員と実習生たちの訓練をしていた副官が慌てて駆け寄ってきたが、リリーナは自分のことは気にしないで欲しい、と伝えた。


 しかし、リリーナが体術から訓練を始めれば、打ち込む拳の一撃の音が重く凄まじく、気になって仕方がない。数発打ち込んでから回し蹴りをかけて訓練用のダミーを爆発させ、軸足付近の地面に亀裂を入れるという、破壊行動を起こす。


「あら……?ごめんなさい」


 潤んだ瞳で手を合わせて謝るリリーナに、見た目は愛らしいが猛獣だ、と言い放った団長の言葉を思い出し、若い団員たちが身震いした。実習生たちは固まっている。

 副官はリリーナに訓練用の刀を渡し、咳払いした。


「カルバイン副団長、折角なので、彼らに基本の型をみせて頂けませんか?その後、鍛錬場を自由に使っても良いですから」


「……わかりました」


 ダミーを破壊したお詫びとして、リリーナは集合した若い団員と実習生たちを前に、一礼した。


「基本は大事です。お手本になるかどうかわかりませんが、参考にしてください」


 恥ずかしそうに顔を赤らめる姿が愛らしい。


 リリーナは気合いを入れ、構え、踏み込む。上に薙ぎ払い、下ヘ切り落とし、体を捻って回転しながら右に薙ぎ払う。腕を引き、突き刺さすように前ヘ出す。

 ゆっくりと動きの流れを確認するように、剣を振るう。

 まるで、舞っているように見える。


 若い団員と実習生たちは、何が違うのだろう、とリリーナを見つめた。自分たちも同じ動きをしているのに、剣先まで美しく見えるのは何故か。腕の角度だろうか。手首の返し方だろうか。重心の位置なのか。それとも副団長が愛らしいからか。


「よし!」


 リリーナは動きを確認し終わると、軽くジャンプして弾んだ。

 その姿は愛らしく、ほわほわとした雰囲気に包まれたが、副官は瞬時に彼らに退避を求めた。


「はあああああッッッ!!!」


 気合を入れるリリーナの声が響く。瞬く間に土煙と扇風が巻き起こり、リリーナが背面飛びをするように中心からひらりと跳んだ。着地した途端、轟音が響いて、若干デコボコしていた鍛錬場が綺麗な更地となる。


 瞬間的に見える横顔と、踊るようにステップを踏む姿は美しい。空を斬る音と背後の爆発音が恐ろしく、何だかいろいろ破壊され、逃げ遅れた実習生が爆風で吹き飛ばされているけれど。


 リリーナが微笑む。

 上気した頬、潤んだ瞳、小さく呪文を唱える時に震える唇。

 対峙する者は、おそらく見惚れている間に身も心も、魂すらも奪われてしまうのではないか。彼女に自分を認識してもらえる至福の一時。

 訓練用のダミーが羨ましい。


 次の瞬間、強烈な炎の渦に包まれ、光の矢が無数に打ち込まれて弾け飛んでしまったけれど。



 ***



「……とんでもない眠り姫だな」


 第1騎士団鍛錬場で非番の副団長が暴れているから回収して欲しい、と連絡を受けて、アルヴァートが駆け付けると、リリーナはすやすやとベンチで眠っていた。

 足元に伏せるトォーリィが顔を上げてアルヴァートを見る。


「仕方がないな」


 リリーナが陽だまりあふれる場所で無防備に眠っている原因は自分にもある。

 アルヴァートはリリーナを抱き上げると、その額に軽く口付けを落とした。

 我慢することが必要なくなったら、随分、気持ちに余裕できたと思う。求めればリリーナが応えてくれるから。

 眠るリリーナはどんな夢を見ているのだろう。幸せであって欲しいと思う。



 ***



「いいですか、我が第1騎士団は現在、皇女殿下護衛の任務のため、宮殿務めとなり、先程のカルバイン副団長も姫君付きの騎士としてお仕えしておりますが、本来の職務は、有事の際に前戦で切り込む戦闘部隊です!戦闘狂の集まりではありませんよ?間違えないでくださいね?」


 副官は座学として実習生に熱弁をふるう。


「君たちも血反吐を吐くような訓練をこなし、己の限界を知り、それさえも超えようとする気迫を持てば、自ずと道は開かれるでしょう。魔術が使えるものは息を吐くように発動させ、剣技と組み合わせ、魔物すらも魅了させる程の技を習得しなければなりません。先程のカルバイン副団長が素晴らしいお手本ですね。しかし!!!」


 副官は言葉を切って、講義用の机に両手をついた。


「我が第1騎士団の団長と副団長は規格外です。目指しても成れるものではありません!!!」


 実習生たちは唖然とするしかない。


「我が第1騎士団は、君たちのような優秀な人材を求めています。しかしながら、体力、魔力だけでは入団できません。極寒の凍てつく大地でも動ける精神力、判断力、並びに瞬発力、機動力を必要とします」


 実習生の1人が質問のために手を挙げた。


「質問よろしいでしょうか」


「何でしょう」


「我が皇国に脅威が迫っているのでしょうか」


「いいえ、そうではありません。説明はしにくいですが、そうですね。君、説明したまえ」


 副官は、サポートとして隣りにいる団員に話をふった。彼は最近復帰したリリーナの部下だ。


「ハッ。カルバイン副団長の愛らしさに見惚れすぎると、団長に息の根をとめられます。死にますよ?」


 実習生たちは数日前に挨拶した団長の姿を思い出す。彼の圧倒的な強さに憧れる者は多い。得意とする魔術は氷雪系。極寒の凍てつく大地とは、まさか彼が生み出すもののことだろうか。

 副官は軽く咳払いした。


「先程のカルバイン副団長の実技披露において、退避が遅れて吹き飛ばされた者がいましたね。そんなことでは、死にますよ?」


 常識的に見える副官や団員が、真面目に説明する。

 実習生たちは押し黙ることしかできなかった。


「毎年、我が第1騎士団の入団希望者は多く、その倍率は年々高くなっています。しかし、君たちは運が良い。カルバイン副団長が鍛錬場に現れたのは久し振りであり、その剣技を間近で目にすることができました。その強運を活かし、実習を終えた後も、鍛錬に励みなさい。あの方は幸運の女神です。あなたたちの活躍に期待します」

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