壱章/人斬り/挿話陸/黒谷天竜という男
黒谷天竜。
出身は備前(現在の岡山県)で元々は武士というよりも
忍者の家系であった黒谷家の五男(末っ子)として生まれ、
幼少の頃より忍術の修行に明け暮れる。
その修行の際、父親に顔を額から左頬にかけて斬られる。
そしてそのような厳しい修行の成果と天賦の才により、
五人いた兄弟の中でも一番の使い手となる。
さらに父親の衰えにより、父親以上に強くなると、
それでも厳しい修行を課す父親に憎しみを抱くようになる。
その上、兄弟達からは嫉妬による嫌がらせを受け続け、
兄弟達をも憎むようになってゆく。
天竜が十六歳になった時、
唯一の理解者であった母親が病気で他界する。
天竜はそれを機に家族全員を虐殺し、放浪の旅へと出る。
因みにこの時から殺した人数分の自傷をするようになる。
そして天竜が二十二歳の時、京都に辿り着き、
ちょうどその頃出来たばかりの浪士隊に参加。
後の新撰組である。
その浪士隊の屈強な者達の中でも
ずば抜けて強かった天竜は暗殺役を任されるようになる。
実は浪士隊、新撰組が関わった暗殺の殆どにおいて、
この黒谷天竜が大きな役割を果たしていたのである。
そして浪士隊が新撰組へと変わると同時に
暗殺役として新撰組零番隊隊長に任じられる。
隊士はいない。
その後も新撰組零番隊隊長として人を斬り続け、
今、天竜の体には約百五十箇所もの傷が刻まれる事となる。
因みに父親に斬られた顔の傷以外は全て
自傷によるものである。
天竜は決して表舞台には立たず、
ただただ人を斬る理由を求め、
新撰組に身を置いているのである。