弐章/英雄/挿話弐拾/氷の皇帝の孤独な戦争
一人の男が露衣土の部屋へ急いでいる。
前線からの報告の役目を持った男だ。
男は露衣土の部屋に入ると、
清々しい表情で報告をし始める。
「岩堝隊が燿炎達反乱軍を掃討したとの報告が入りました」
「そうか、」
露衣土は表情一つ変えずに、それだけを呟くように応えた。
報告係の男は少し拍子抜けしたが、
そのまま露衣土の部屋を後にする。
「では、失礼致します」
再び、一人になった露衣土は少し考え込んだ後、
ぼそぼそと独り言を始める。
「見てるか、炮炎よ、そして、燿炎よ。
正義の旗は勝った者の下にのみたなびくのだ。
そして、その正義の旗の下にのみ、
平和という魔物を呼び寄せる事が出来る。
後少し、後少しで私が正義であった事を証明出来る。
私に歯向かった事をあの世で悔いるがいい。
そして、私も行こう。平和という魔物を手懐けた後、
お前達の悔しがる顔を私に見せておくれ。
懐かしいな。昔はよくお前達を悔しがらせたもんだ。
正直、私は自分が憎い。平和が憎い。平和という
魔物を手懐ける為に、お前達を殺さねばならなかった事。
だが、それも後少しで終わる。
私は決して英雄になりたかったわけではない。
お前達と同様に、ただ平和を望んでいるにしか過ぎない。
だから、全てが終わったら、また皆で語り明かそうぞ」
露衣土は一人、泣いていた。




