子供部屋おじさん、協会のお仕事初日を終える
「ところで、鈴木さんはおいくつで?」
第一階層では探索者側へほとんど会話が振られなかったが、気を使ってか、主任が前を歩く鈴木へそう声をかけた。
ちなみに後ろは、海野が歩いている。
「40です」
「おお、同い年ですか! いやいや、お互い嫌な年になりましたなぁ」
と、佐藤が少し上ずった声でそう言った。
初対面あるあるだが、同い年と判明した時にテンションが上がるのは、不思議な現象である。
「あまり実感が湧かないです。なにかが変わるというわけではないのでしょうが」
「ははは、しかし色々衰え始めると聞きますからねぇ。ダンジョン探索は、体力つきますか?」
「そうですね。ステータスの効果だと思いますが」
「ステータス保持者は病気リスクが減って、平均寿命も延びるという説がありますからなぁ。ローンや嫁と共に老後のこともありますし、私も副業でも始めようかと考えていたところですが、ちょっと子供が反抗期で手がかかるんですよねぇ。あ、お子さんは?」
「いえ。独身です」
「そうですか。父親になってから言ってはいけないのかもしれませんが、ふと、独身のままで良かったなぁ、なんて思ってしまう瞬間がありますね。はははは」
「そ、そうですか……」
鈴木は内心で、少し焦っていた。
(いかんな……最近気づいたが、子供部屋おじさんになっていたせいで、同年代と話が合わないじゃないか)
鈴木が最近考えていることといえば、真由美と、車と、自立をすることだ。
対して、同じ40歳はどうやら家のローン、子供、嫁、老後といったことを考えるようである。
たしかに、一般的にはそういった年齢だろう。
鈴木の考えていることは、どちらかという20代の若者である。
(やれやれ。まいったな……)
しかし佐藤はその辺りを気にせず、気まずい感じになることもなく、彼が喋ることに相槌を打つことで最低限のコミュニケーションが成立していた。
もちろん、道中にモンスターが出た時は、鈴木達が対応する。
佐藤達にケガを負わせないように、と考えると責任のある仕事だ。
そして海野とたった2人ということに、人手不足を感じた。
報酬金額は高いが、日替わりでもいいからもう少し探索者側の人数を増やしてほしい、と鈴木は思った。
(うむ。直感スキルのおかげで、後手に回ることはないが……協会もよく、俺と彼だけで護衛が十分だと考えたものだ)
今はたしかに十分かもしれないが、問題なのは、第三階層以降だと考えていた。
ゴブリンはすばしっこいし、チームを組んで挙動も単純ではないので、2人で完全に抑え込むのは厳しい。
「あの。今後、護衛の人数は増えますか。そういった話が、なにも共有されていなくて」
佐藤はこくりと首を縦に振った。
「ええ。第三階層以降から、2人増やすと聞いています」
(たった2人か……大丈夫だろうか)
欲を言えば、初心者ではなく経験を積んだ探索者に来てほしい人数である。
というか、人々の命がかかる仕事なのに、協会がものすごく適当だ。明日2人増やすのを、なぜ共有しないのか。
どんなメンバーかによって、戦い方も変わるというのに。
(大したことがない第一、第二階層とはいえ、たった2人なのは人件費を節約したいからだろうか……報酬が高いから仕方ないのかもしれないが……ううむ……)
社員時代、予算の捻出に苦労したことはあったが、まさか協会もそうなのだろうかと考えてしまう。
難儀な世の中である。




