子供部屋おじさん、昔を思い出す
会社がつぶれて、職を失ってからの、最初の一か月は特にひどかった。
起きることすらも億劫で、一日の大半をベッドの上で寝て過ごした。
元彼女――九条 真由美からの連絡量は、当初凄まじかった。
『亮太さんなら、すぐになんとかなるよ! 大丈夫だからね!』
「ああ……」
電話やショートメッセージで、基本的に励まされていた。
真由美はというと、すぐに再就職を決めていた。
うつ状態の鈴木としては、そんな彼女が眩しくてしょうがなかった。
もうあんな風に、エネルギッシュにはなれないと思った。
励ましのメッセージも、寄せられる期待や信頼も、つい、重いとプレッシャーを感じるようにもなった。
それがどんなに残酷で、ひどいことかもわかった上で、真由美と距離を置いた。
それでも真由美は、ずっと優しかった。
一度だって、鈴木を悪く言うことはなかったのだ。
『――ずっと待ってるからね、亮太さん』
☆
(我ながらひどいな……なんで真由美のような彼女が出来たのか、不思議なくらいだ)
朝。夢で真由美のことを思い出し、改めて自己嫌悪に陥った。
起き上がり、携帯を手に取る。
とはいっても、被害者は真由美だ。
鈴木もいつまでも未練がましく、別れようだとか、そういった話は一切していなかった。
無論、そうは言っても自然消滅ではあるのだろうが、とは考えている。
(今までのこと、ちゃんと謝った方がいいのだろう……だが、なんて言って切り出せばいいのか。そもそも、謝りたいだなんて、それもまた俺の勝手なエゴだしな)
携帯を手にベッドに腰かけ、意味もなく画面をグルグルといじりまわす。
自分から連絡を送ることは、5年もやっていない。
やっぱり変に思われても、きちんと謝って、少し前を向き始めたことを、報告しようと考えた。
『――久しぶり。最近、探索者を始めて、やっと少しずつ社会復帰をし始めたんだ。心配かけて、ごめん。あと、ありがとう』
そんなメッセージを送った。
送ってからすぐに、鈴木は落ち着かなくなった。
自分から距離をずっと置いておいて、いざコミュニケーションをとろうとすると、全身に鳥肌が立つ。
(いや、なにをやっているんだ、俺は……)
今更彼氏面出来る立場でもない。
それなのに、どこか期待をしている自分がいた。
一方で、自分のような人間じゃ不相応だと葛藤する心や、都合が良すぎるだろと葛藤するところもある。
その心境は複雑であった。
(いかん。良い年して、なにをしているんだ。真由美のことばかり考えている……体を動かそう)
鈴木はダンジョンへ出かける準備を始めた。




