第7話 筆記試験1
試験当日の朝。
「では父さん。母さん。行ってきます」
僕は宿の扉の前で父さん達に挨拶をする。
持ち物は筆記用具、受験票、それに護身用の弓と小刀だ。
今日は筆記試験だから使うかどうかはわからないけれど。
「おぉ……行ってきな……!」
父さんは昨日の収穫祭で飲み過ぎてしまったらしくグロッキーだった。
まったくまだ収穫祭は続くというのに。
久々の王都だからって羽目を外し過ぎだ。
「もう。あんた! しっかりしてよ!」
それに対して母さんは緊張した面持ちだ。
「今日はポールの晴れ舞台なんだよ!!」
「いてて……そんなに叫ぶなよ……頭にガンガン響くだろ……」
「もう! ポールもなんとか言ってよ」
そんなご立腹な母さんに僕は苦笑いする。
「じ、じゃあ僕、もう行くね。集合時間に間に合わなくなっちゃうから」
「おぉ。行ってこい。父さん、試験のことはよくわからないけど、とにかく楽しんでこい」
「わかったぁ」
「あぁ……どうしましょう。女神様……ポールが無事でありますように」
楽観的な父さんと心配性な母さん。王都に来ても相変わらずだな。
むしろ僕の試験のせいで母さんは拍車がかかっている気がするけど。
僕はそんな父さん達の姿に小さく笑みを浮かべると、王立魔法学園に向かった。
★★★
騒がしい収穫祭の会場を通り抜けて、王立魔法学園に着くと既に大勢の人で賑わっていた。
皆、裕福そうな服装で、僕のように薄手のズボンに麻の服を着ているような人は少ない。
特に多いのは、黒いローブを羽織った少年少女達だ。
その彼らを応援するように学園の塀の前には一枚の長い横断幕を持った大人達が横一列に並んでいた。
横断幕には『絶対合格!! ファンタジア生!』と書かれていた。
「今までやったことは決して無駄じゃない! 皆頑張れ!」
「ファンタジアのカリキュラムは絶対だ! 自信を持て!」
「名門『ファンタジア』の名にかけて! 合格率九割! 今年は首位奪還だ!!」
随分と熱気があるな。
あれが名門塾『ファンタジア』か。
その熱に当てられて——おそらく——塾生の子達の顔も引き締まっている。
「——ラルフ様も応援している!! 頑張れ!」
(え!? 師匠……?)
僕は驚いてキョロキョロと辺りを見回すが、師匠はどこにもいない。
それはそうだ。
師匠は今頃、村でのんびりと見回り兼散歩をしているはずだ。
腕を組み首を傾げながら考えていたが——。
「——あ、ヤベ……」
学園の鐘が鳴ってしまった。
もう試験開始まで10分もない。
正門近くにいた受験生も一気に走り出した。
その流れに押されるようにして、僕も試験会場へと向かった。
★★★
試験会場は、受験生の人数がだいたい均等になるように割り振られていた。
僕の受験番号は「3581」。
おそらく僕が最後の受験番号。だからなのか、僕の席は会場の一番最後尾だった。
机にはもう既に分厚い冊子と解答用紙の束が置いてあった。
試験開始まで開くな、という旨の注意書きがあったし、試しに開こうとしてもびくともしない。
きっと時間が来るまで開けないよう魔法がかけられているのだろう。
会場は、おそらくいつもだったら学園の生徒が講義を受ける教室だ。
前方には大きな黒板があり、壇上には先生らしき人が立っていた。
——ってあれ? あの人……。
よく見ると、昨日の衛兵だった。
なるほど。あの人、実はこの学園の先生だったのか。
道理で、衛兵なのに高度な魔法を使うと思った。
そう考えていると向こうも僕に気が付いたらしく、目が合ってしまった。
朗らかな笑みを浮かべて、こっちに手を振っていた。
僕も軽く会釈しておいた。
「そろそろ試験開始時間だな」
衛兵——先生がそう言うと、喉に指を当てた後、会場に響き渡る程の声を出した。
「あー! あー! 皆聞こえるか? これから第1次試験を始める!
試験監督は俺——フリード・ファウラーが務める!」
指から魔力が漏れているのが見えたから、拡声の魔法を使っているのだろう。
「試験時間は今から昼を挟んで午後4時まで! 筆記に合格すれば翌日の第2次試験——実技試験に進める!」
その後、ファウラー先生は定型文のように試験の注意事項を読み上げる。
全部、要項に書かれていたものだが、ここで読み上げるのも意味があるのだろう。
「問題に不備があった場合、もしくは休憩を取る場合は挙手してくれ。それ以外の質問は受け付けない」
全ての注意事項を読み上げた後、ファウラー先生がそう付け加えると、冊子の端から急に小火が出た。
なんだ? と思って見ると冊子が燃えた様子はなく、冊子全体に縛りがなくなったように軽く膨張した。
なるほど。冊子の魔法が解けたのか。
僕がそう理解するのと同時に先生が叫んだ。
「それでは試験開始!」
会場中で一斉に冊子をめくる音が響き渡った。




