第6話 最上級魔法の魔法陣と謎の少女
案内板によると、どうやら王立魔法学園にも図書館はあるようだった。
しかも収穫祭の時期は誰でも入れるらしい。
まぁ祭があるというのに、図書館に入るような物好きは…………結構いるな。
図書館に入ると、ローブを着た人たちでテーブルが埋まってしまっていた。
切羽詰まっている表情の人、何かを悟っているような人、そして意気消沈してテーブルに突っ伏している人。
どれも受験生なのだろう。
こんなに直前まで詰め込もうなんて。
なんだか記念受験するのが申し訳なくなってくるな。
「あ、これかな? 魔法陣の本は」
分厚い本だった。魔法陣辞典と書いてあるくらいだから当然か。
「うわぁ……すげぇ複雑……」
僕でも知っているような基本的な魔法陣もあるが、上級魔法になると模写も難しそうなくらい複雑な模様ばかりだった。
辞典だけあって、模様以外にも効果もきちんと書かれていた。
「何々? 最上級火炎魔法——『獄炎の天柱』。天高く聳える火炎の柱を呼び出して周囲一帯を焼き尽くす魔法……?」
こんな危険な魔法、誰が使うんだ?
でも危険なだけあって模様は覚えられないほど複雑だ。
これが試験に出たら、諦めよう。
「あ……これだったら村でも使えるかもな。上級土魔法——『土人形』。土でできた人形を作り出し、意のままに動かせる」
これがあれば夜の畑の見張りが楽になるかもしれない。
結構カラスや猪がやってきて困るんだよなぁ。
あ、でもこれも複雑だ。しかも見た感じ魔力の消費も激しい上に1時間くらいしか保たなそうだ。
うーん。となるとゴーレムを使うのは難しそうだな。
僕はパタンと本を閉じた。
「うん。魔法陣はやっぱり捨てよう」
「えぇ……? 捨てちゃうのかい?」
「へ?」
いきなりそんな声が聞こえてきたから、驚いて振り返ると銀色の長い髪をした女の子がきょとんとした顔で立っていた。
「えっと……どちら様?」
「あぁごめんごめん。私はマルギット・ウィグナー。みんなからはマギーと呼ばれている」
「はぁ。僕はポールです。よろしくです」
「それで君、魔法陣の問題、捨てちゃうのかい?」
「……えぇ。はい。この辞典見てたら一夜漬けで覚えるのはもう無理だな、って思いまして……」
あれ? どうしてこの人、僕が受験生だって知ってるんだ?
いや。こんな時期に魔法陣の辞典を開いていたら、そう思っても自然か。
「ふーん……あんなすごい魔法陣を描いていたというのに?
あれって保冷の魔法陣の改良版だよね?」
「え?」
僕は驚いて声を上げてしまう。
すぐに図書館だと思い出して口を閉じるが、僕の声に反応してテーブルに座っていた受験生が一斉にこっちを睨むのを感じた。
申し訳なくなって苦笑いで軽く会釈をした後、マギーの方をもう一度向いた。
「どうして僕の魔法陣を知っているんですか?」
「たまたまだよ。収穫祭を見物していたら、箱に描かれた魔法陣を見かけてね。気になって近くの人に聞いたら君が描いたっていうじゃないか。だからここまで追いかけたんだ」
「そうだったんですか。わざわざどうもすみません」
「ははは。気にしないでくれ。君は面白いなぁ」
マギーはカラカラと笑う。
なんというか気持ちが良い人だなぁ。
「まぁつまりだな。私が言いたかったのは、君は魔法陣の問題を解くべきだよ」
「え? でも僕はあんな複雑な魔法陣描けませんよ」
「いや。君なら解けるよ。あんなセンスが良い魔法陣を描けるんだから」
「はぁ……」
「ちなみに師は誰なんだい?」
「え? ラルフ師匠……ラルフ・ハーゼンですけど」
「なんと。そうか。塾生の子だったか」
マギーは意外そうに眉を上げたが、すぐにニヤリと口角を上げた。
「ますます面白いな」
「あの僕は塾なんて……」
「じゃあ君が魔法学園に来ることを楽しみにしているよ。試験頑張って」
——行ってない、と言おうとしたが、マギーはもう去ってしまった。
それに僕がもう合格するかのような言いっぷり。
「なんなんだ? あの人は」
僕は首を傾げて、彼女が去った図書館の出口を見つめる。
「まぁいいか」
とにかく明日からの試験だ。ここにいる人達には申し訳ないけど、僕は記念受験だ。
気楽に試験を楽しむことにしよう。
そう考えて、僕は持っていた魔法陣辞典を本棚に返した。




