第5話 試験の傾向と対策
「ここが受付会場かな?」
衛兵が描いた地図に従って歩いていくと、校舎から少し離れた建物に到着した。
隣の校舎よりも古びた見た目で、入り口の脇の看板には『旧校舎』と書かれていた。
僕はノックしてから、恐る恐る扉に手をかけてゆっくり開けた。
「しつれーいしまーす……」
扉の向こうには、とても長い木製の廊下が続いていた。
その手前に長テーブルが置いてあり、黒いローブを着て、とんがり帽子を被った女の人がそこに座って分厚い本を読んでいた。
「おや? こんにちは、坊や。迷子?」
僕が入ってきたのに気がつくと、その女性は優しげな微笑みを見せた。
「え……あ、えっと……王立魔法学園の入学試験の受付ってここで合ってますか?」
「え?」
女性は意外そうに目を丸くして、固まってしまった。
まさかこんなに驚かれるとは。
もしかしてもう受付は終了してしまったのだろうか。
「あのー……?」
「あ、ごめんなさい。受験希望者だったのね」
心配になって声をかけると、女性は我に返ったように読んでいた本を閉じた。
「まさか受付最終日に希望者が来るとは思わなくてね」
「そうなんですか? でも収穫祭は今日からですけど……」
「収穫祭当日に飛び込みで来ること自体、珍しいのよ。だいたい門前払いだし……」
さっきの第0次試験のことを言っているのだろう。
「本気で受けるつもりの人は1ヶ月前には来て、出願を済ませているしね」
そう言うと、横にある紙束から一枚取り出した。
「ここに必要事項を書いてちょうだい。あと受験料も」
「あ、はい」
僕は懐から受験料の入った袋を取り出すと、テーブルに置いた。
紙には名前と年齢、出身地、それと師事した者の名前を書く欄があった。
僕は最後の欄に師匠の名前——『ラルフ・ハーゼン』を書くと、女性に紙を渡した。
「はい。確かに……受験料も問題ないわね。あら? この名前……」
「何か問題でもありましたか?」
「いえ。特にないわ。でもあなた、塾生だったのね」
——……塾生?
「あれ? 違った? 名門塾『ファンタジア』——知らない?」
「はぁ……ふぁんたじあ……? よく知らないです」
「そうなの? でも最後の欄にこの偉人を書くのって塾生しかいないんだけどなぁ」
女性は僕の紙を眺めながら首を傾げている。
「ま、いっか。確かに受け取りました」
けれどすぐに気を取りなおすと、女性は僕の書いた紙にスタンプを押した。
すると紙に番号——おそらく受験番号だろう——が印字される。
その後、僕に長方形の石板を渡してきた。
「これ、受験票ね。試験が終わるまでなくさないでね」
受け取ると、石板には僕の紙に印字された数字と同じ番号が書かれていた。
「あとこれが試験要項。ここに試験当日——といっても明日だけど、当日の予定が書いてあるわ。この通りやるから遅刻しないようにね」
予定表のページを見ると、明日の試験開始時間も書かれていた。
待つのも嫌だし、10分前に会場に入ることにしよう。
「何か質問はある?」
「あ、えっと……」
どうしよう。特に用意するものとかもここに書いてあるっぽいしな。
——うーん…………。
「あ、明日の試験って何が出ます?」
「へ? …………ぷっ」
女性は一瞬きょとんとした後、口を大きく開けて笑い出した。
「あっはっはっはっはっ。それを教えちゃ試験にならないでしょう? あなた、塾で何を教えてもらってたのよ」
いや。塾なんて本当に知らないんだけど。
「まぁでも傾向くらいなら教えていいかな? それくらいならみんな知っているだろうし」
そう言うと、女性は両手を開いて僕に見せた。
「筆記の試験は全部で10問。大問1〜3くらいが歴史や文化などの教養科目の小問集合、残りが魔法に関する論述問題よ」
「あ、思ったよりも少ないんですね」
「舐めてもらっちゃ困るわ。試験問題は分厚い冊子になってるのよ。朝から昼を挟んで時間いっぱいまで解いても全然終わらないんだから」
「うへぇ……それは大変ですね……せめてどこらへんが出るかわかればいいんですけど」
「そりゃあオールジャンルよ。各科目何が出るのかはその年によって変わるわ。過去問も秘匿扱いだし」
「そうですか……」
さすがに難関校だけのことはある。事前に対策だけでもしようと思ったけどやっぱり難しそうだな。
「あ、でも上級魔法以上の魔法陣を描かせる問題は毎年出るかなぁ?」
「魔法陣ですか……?」
「そう。最終問題でいつもね。まぁかなり複雑な模様だし種類も豊富だから、満点取る人なんていないんだけどねぇ〜。あっはっはっ!」
ふーん。そうなのか。
師匠は基本の組み合わせで解けるなんて言っていたけど、やっぱりそう簡単な問題ばかりじゃなさそうだ。
一応、念のため図書館に行って魔法陣を眺めることだけはしておこうかなぁ。
「とりあえずわかりました。色々教えていただきありがとうございます」
「はいは〜い。試験頑張ってねぇ」
女性に手を振って見送られながら、僕は図書館に向かうことにした。




