第4話 王立魔法学園
「ここが王立魔法学園か……」
時計台を過ぎてしばらく歩くと、お城のように立派な白い校舎が見えた。
見上げるほどの大きな正門の両脇には、衛兵が2人。
背筋を伸ばし真剣な顔をしているものだから、入ってしまっていいのか少し迷う。
それにしても、ここからでも収穫祭の喧騒は届くようだ。
翌日が試験だというのにとても賑やかだ。
とはいえ、これは仕方ない。
貴族が多いとはいえ、名目上、王立魔法学園の試験は身分を問わない。
つまり、誰にでも門戸を開いているのだ。
だが、僕みたいに辺境の村人がそう易々と王都には来られない。
だから地方の農民達が集まる年に一度の収穫祭に合わせて試験も実施される。
「どうした、坊主?」
そんなことを考えながら学園の様子を見ていると、衛兵に話しかけられた。
しまった。怪しい者だと思われたかもしれない。
「あ、えと。魔法学園の入学試験を受けようと思って……」
「なに?」
衛兵が僕の顔や荷物をジロジロと眺める。
「それにしては荷物が少ないようだが……?」
「あ、それは……」
確かに今は受験料と筆記用具くらいしか持ってきてない。
弓や小刀も含めて他の荷物は全部父さん達のところだ。
あ、そうか。
僕みたいな辺境の村人が王都まで来たというのに、荷物が少ないと怪しいか。
やばい。もしかしたら試験を受けられないどころか、不審者だと思われて捕まってしまうかもしれない。
「ふん。まぁいいか。それより試験の受付だったな。この門を入って右に進め。そしたら受付会場がある」
衛兵が指を一本立てる。
僕はその指を凝視して、首を傾げた。
「…………えっと……?」
「質問は一切受け付けない」
「あ……はい。なるほど。わかりました」
そういうことか。もう試験は始まっている。
僕は衛兵に会釈すると、正門から学園の中に入り——。
————左に歩みを進めた。
「……ほう。惑わされなかったか」
すると、さっきの衛兵がまた話しかけてきた。
「たいがい初見の奴だと、バカ正直に俺の言うことを信じるのにな。特にお前みたいに記念受験で受けにきたような地方の農民だと」
僕は振り返ると、ぽりぽりと頬をかいた。
「まぁ指から微かに魔力が漏れてましたので……」
それが不自然に思えて、目に魔力を込めると衛兵の指の上に微かに地図のような模様が現れた。
すると、その地図では衛兵が言っていることとは正反対の場所を指し示していたのだ。
「そうか」
僕の説明を聞くと、衛兵はニヤリと笑った。
「第0次試験は合格だ」
「え……?」
「だから合格だ。さっさと受付を済ませてきな」
衛兵がシッシと手を振った。
「えっと。でも合格って……?」
「王立魔法学園は受験料があれば誰でも受けられるからな。記念受験で来るような奴らがいっぱいいるんだ。そいつらを篩い落とすために俺たちがこうやって門の前に立って、受験生に話しかけてるんだ」
「あ、そういうことですか」
「でもまさか地方住みのやつで、初見で合格するやつがいるとはな。しかもこんな坊主に! 結構騙されるんだぜ?」
——坊主は余計だ。
衛兵はまた魔力を使って空中で模様を描く。
隣の衛兵の顔にそっくりだ。
どうやら視認しにくい魔法で描いているようだ。
魔力を目に込めれば見られるけど、普通の人は見ることができない。
器用なものだ。
僕でもできるだろうか?
「えっと……こうかな?」
「おぃい! 俺の専売特許を奪うなよ!」
案外簡単にできてしまったから、衛兵に怒られてしまった。
僕は描いた師匠の顔をすぐに消した。
「あ、ごめんなさい……!」
「はぁ。これだから魔法学園に行くような奴は……」
「え? まだ合格してませんけど……」
「いいや。合格だね。長年、受験生を見てきた俺が断言する。お前は合格する」
この方の勘は当たるんだぜ、となぜか隣の衛兵も得意げな顔をしている。
「ほら。わかったらさっさと行く! 受付を済ませてこい!」
「あ、はい。ありがとうございました」
僕は頭を下げると、そのまま受付会場へと向かった。
それにしても僕が合格か。……まさかね。
王都の衛兵はおだてるのがうまいなぁ。




