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第3話 弟子、王都に到着する

 王都に着いたのは村を出て3日後の昼前だった。

 その間、特に事件があったということもなく、拍子抜けするほどあっさりとした旅だった。


 王都はもう村とは比べものにならないほどの別世界だった。


 大通りには色とりどりの旗がはためき、両脇には屋台がずらりと並んでいる。

 焼き菓子の甘い匂いにどこからか聞こえてくる笛の音。

 そして村の人たちを全部合わせても足りないほどの人でひしめき合っていた。


 もちろん平常時の王都はこんなに賑わっていないだろうけど、さすがは収穫祭だ。

 僕も胸の高鳴りを抑えられなかった。


「さて。ポール! 荷物を下ろすぞ!」


 父さんもいつもよりも浮かれているように見えた。

 意気揚々と荷台に上がると、作物の入った木箱を次々と降ろし始めた。

 僕もそれに合わせて父さんから荷物を受け取り、収穫祭の会場に並んだ品評台へと運んでいく。


 箱を開けると、中からひんやりとした冷気が流れ出てきた。

 よかった。魔法陣はちゃんと効いていたようだ。


「お? なんかやけに冷たいな」


 荷台から荷物を出し終わり、父さんも品評台の方に近づいてきた。

 いくつか作物を手に取り確認すると、満足げに頷いた。


「それに全部鮮度もいいな。3日も運ぶからいくつかはダメになっていると思ったが……ポールのおかげか?」


「うん。作物が傷まないようにって師匠に言われて」


「さすがラルフさんの愛弟子!」


 父さんは僕の背中をバシンと叩いた。


「この調子でラルフさんと一緒にもっと村を豊かにしてくれよ!」


 まったく父さんは調子がいいんだから。

 でも師匠と共に褒められるのは悪い気はしない。


「おいおい……」


 すると隣の品評台にいたおじさんが興味深げに僕らの作物を覗きにきた。


「今、チラッと聞こえたんだが3日も運んできたのか?」


「あぁ。そうだよ」


 父さんが朗らかに頷いた。


「なのにこの鮮度? まるでさっき採ったみたいじゃないか!」


 おじさんの箱の中の葉物はすっかり萎れてしまっていた。


「あぁ。これは息子が描いた魔法陣のおかげだよ」


「魔法陣? っていうと保冷の、か?

 あれは1日くらいしか保たないって聞いたけどなぁ」


 そうなのか。まぁちょっとは工夫したけど、こんなの誰でもできる。

 きっと説明した人があまり魔法に精通していない人なんだろうな。


 僕は気を取り直して、作物を並べる父さんのことを手伝いに戻った。


「よぉし! こんなもんだろう!」


 作物を綺麗に並べ終えると、父さんは満足げに頷いた。


「このあとはどうするの?」


「そうだな。あとは王様に特に質の良い作物を献上するんだが——っていってもどれを選ぶか迷うな。まぁでもポールはもうやることはないかな」


 なんと。もう暇になってしまった。


「それなら僕は試験の受付に行ってこようかな。試験はもう明日からだし」


「あぁ! そうだな。確かにその方がいいだろう」


 絶対父さん、忘れてただろ。

 息子の一世一代の試験だというのに。いや、特に僕も思い入れはないんだけど。


「場所はどこなんだ?」


「うーん。たぶん学園だと思うんだけど、父さん、場所わかる?」


「え? ポール? まさか調べてないの!?」


 僕らの話を聞いてしまったのか。

 母さんが顔を青ざめさせて、甲高い声をあげた。


「学園はあっち! あのでかい時計台の向こうよ」


「あ、そっちか。母さん、ありがとう」


「あぁ……まったく場所も調べてないなんて……こんなんじゃ絶対無理よ……!」


 僕よりも母さんが参っちゃってる。

 全くもう少し気楽にしてくれればいいのに。


 まぁとにかく場所はわかったし、さっそく学園に行くとしようかな。


「じゃあ行ってくる!」


「おう! 行ってこい! 俺たちはここで呑んでるから、何かあったら戻ってこいよ」


「わかったぁ」


「もう……! ポール。もうちょっとシャキッとしなさいよ……! あんたも!」


「イッテェェエエ!!」


 八つ当たりのように父さんの背中へ決まった母さんの平手打ちと父さんの悲鳴が、会場に響き渡った。


 僕は苦笑いしながら会場を離れる途中、視界の端で何かが過った気がして振り返った。

 すると立派なローブを着た銀髪の女の子が僕達の品評台の近くでしゃがみ込んでいた。

 歳は僕と同じくらいだろうか。


 彼女は作物を入れていた箱の側面——僕が描いた魔法陣を指でなぞっていた。


 ……そんなに珍しい魔法陣でもないのに。


 まぁいいか。僕は時計台を目指して歩き出した。

 

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