第21話 バイバイ王都
実技試験が終わった翌日。
「よし。全部積み終わったかな?」
母さんが荷台の上でパンパンと手を叩く。
「ねぇ。母さん。どうして行きよりも荷物が多いの?」
荷台には、野菜や酒がぎっしり入った箱に服の山、なんかよくわからない置物やアクセサリーまで詰まっていた。
収穫祭で野菜を王都に届けたはずなのに、それよりも多くなっているとは、いったいどんな魔法をかけたんだ。
「どうしてってそりゃあ王都に来たのよ!? 村のみんなのためにお土産を買ったり、地方の方とお野菜とかお酒とか交換したり、私達の服とか買ったり。せっかくの王都なんだから買わなきゃ損でしょ! 次いつ来られるかわからないんだから!」
当然でしょ、と言わんばかりに捲し立てられてしまった。
まぁでもそうか。収穫祭は年に1度だけど、行く人は持ち回り。
今年は僕達家族だったけど、来年は違うかもしれない。
王都のお土産をいっぱい買ってもバチは当たらない。
——にしてもずいぶん買ったな。
父さんに飲みすぎるな、って叱っていたのに、母さんもだいぶ浮かれていたんだな。
僕は荷台の隅でキラキラ光るアクセサリーを見てため息を吐く。
まったく、息子が試験で忙しかったというのに。
まぁ僕は僕で良い経験になったからいいけどさ。
「ほら! お父さんも! もう帰るよ!」
「うぅぅ……あぁ? わかったよ……うぅぅ。頭イテー」
父さんは父さんでお酒の飲み過ぎでグロッキーだった。
収穫祭の3日間、ほんと浴びるように飲んでたもんな。
——……息子が試験だったというのに。
父さんは母さんの肩を借りてよろよろと立ち上がり、荷台に押し上げられた。
荷物の隙間に体をねじ込むようにして寝っ転がった。
これから村まで3日間。この酒臭い父さんの横にいなきゃいけないのか。
ちょっと嫌だな。
「ねぇ。母さん、帰りは僕が手綱握っていい?」
「なに言ってるのよ。父さんが荷台で寝てたら母さん入んないんだから。ポールが父さん見てて」
交渉失敗。
ここで「じゃあ荷台の荷物をいくつか置いていこうよ」とか言ったら烈火の如く怒るんだろうな。
「ほら。ポールも乗って!」
「——はぁい」
僕は諦めて荷台に乗ろうとした。その時——。
「もう帰るのかい?」
聞き覚えのある声に振り返ると、銀髪の女の子が立っていた。
「! マギーさん!」
「……? どちら様?」
母さんが困惑したように首を傾げる。
「これは失礼いたしました」
そう言うとマギーはまるでどこかの貴族のご令嬢のようにスカートの裾を摘んでお辞儀した。
「わたくしはウィグナー家が娘——マルギット・ウィグナーと申します。少しの間、ポールさんをお借りしても?」
貼り付けたような令嬢スマイルに、僕はゾッと鳥肌が立つ。
その隣では母さんが僕以上に動揺している。
「ポ、ポール! あんた、貴族のお嬢様になにをしたの!?」
「し、してないよ!」
——してないよな?
でもあの不気味な笑みはなんだ。正直怖すぎる。
「ふふ。ちょっとお話をさせていただくだけです。悪いようにはしませんわ」
「ぼ、僕は話すことありません!」
「貴族様に向かってなに言ってるのよ、ポール!
マルギット様、どうぞ。こんな愚息でよろしければ煮るなり焼くなり」
母さんは僕をすんなりと差し出すと、荷台の方へ下がってしまった。
——息子が大切じゃないのか!
「ふふ。愉快なお母さんだね」
マギーは目を細めて、母さんの背中を見送った。
「……えぇ。そうですね……それで何か用ですか?」
「いや、ただの見送りだよ」
それにしては何か企んでいるような顔だけど。
「——実技試験では大活躍だったね」
「なんというかとんでもないことをやらかしたような気がしますけど」
「ははは。そうとも言うかな。でもファンタジア生はみんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてて、見ていて面白かったよ」
マギーは晴れやかな顔で、してやったりと笑った。
そういえばマギーの願いは、ファンタジア生をギャフンと言わせることだったっけ。
まぁなんだかわからないけれど、マギーが満足そうならそれで良いか。
「次に君が王都に来ることを楽しみにしているよ」
「はぁ。でも次いつ来られるかわかりませんが」
実技試験の最後でやらかしちゃったし、失格でもおかしくない。
けれどマギーはそんな僕の発言に驚いたように目を丸くする。
「なにを言ってるんだい。君はすぐに来るよ」
「……え?」
意味がわからず首を傾げる僕に、マギーはカラカラと笑った。
「君は相変わらずおもしろいね」
マギーはくるりと踵を返すと、肩越しにひらひらと手を振った。
「じゃあそろそろ私も行く時間だ。次に来た時は、ウチにおいで。それで君の解答用紙に書かれた最上級火炎魔法以上の魔法陣について、じっくり解説を求むよ」
「あ、はい」
——ん? あれ? どうしてマギーが僕の解答用紙のことについて知ってるんだ?
それに今、〝以上〟って言った? 聞き間違いか?
それを聞こうとした時には、マギーの銀髪はもう人混みの中に消えていた。
本当になんだったんだ、あの人。
でもマギーに会えてよかった。
次いつになるかわからないけど、また王都に来ることがあれば、マギーにも会えるといいな。
僕はそう思いながら、荷台に乗り込んだ。
★★★
3日後。
村に帰った後、師匠に会うとさっそく試験について報告した。
「なんだか僕、歴代最高得点を取ったらしいです」
「……やはりポール。お前は天才だったか」
「でもたぶん失格だと思います」
「………………もうちょっと詳しく教えてくれ」
師匠が困惑したような表情を浮かべたのを見るのは、これが初めてだった。
——合否結果通知が届いたのはこの2週間後だった。




