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第20話 音波消火器

「な、どうして……!」


 豪火球(フレイムボール)が霧散するのを見て、モーリスは愕然とした表情で叫んだ。


「魔力切れか……? それとも魔力操作ミス?」


 モーリスは自分の杖を確認するように、振ってみたり握ってみたりしていたが、


「いや、どっちもありえない!」


 とすぐに首を振り、また杖を高く掲げた。


「もう一度だ!!」


「させないよ」


 僕は彼の杖に照準を合わせて、再びあの低い音を送り込む。

 これ以上、豪火球を出させるわけにはいかない。

 モーリスの炎は一瞬にして散らされ、掻き消えた。


「——な!! なぜ出ない……!! 俺が火を出せないなんて……ありえない。俺は火を統べる一族——アレクサンダー家なんだぞ!」


 モーリスは歯を食いしばり、俯いた。


「……あの田舎ザルと違って首席だ。首席じゃなきゃ意味がないんだ……」


 だが、すぐに左腕をローブの上から思いっきり掴み、僕の方を睨んだ。


「こうなったら……!」


「——やめておけ」


「……ッ!!」


 瞬間、ファウラー先生の杖がモーリスの首に突きつけられた。


「たかが試験で何をする気だ? あぁ?

 アレクサンダーのせがれ如きがキャンキャン吠えるな。見苦しい」


 ファウラー先生の声は低く、ゴミを見るような目でモーリスを睨んでいた。


「これ以上何かするっていうなら、失格にしてもいいんだぞ?」


「…………クッ……」


 モーリスは悔しそうに喉の奥で唸ると、力なく腰を落とした。


「ふぅ……」


 なんとかモーリスも諦めてくれたようだ。

 ひとまず周りに被害が出なくてよかった。


 ……けど、トムソン先生の制止も聞かずに、勝手に色々やってしまったな。

 人命優先だったとはいえ、さすがに失格かもしれない。


 まぁそれも仕方がないか。どうせ記念受験。ここまで受けられただけでもラッキーだと思おう。

 とりあえず疲れたから、もう宿に帰ろうかな。


「トムソン先生、もう試験は終わりですよね?」


「え……? あ。そうですね。もう終了です」


「じゃあ僕はこれで帰ります」


 僕は一礼すると、トムソン先生の脇を通り抜け——


「待ちなさい」


 ——ようとしたところで、また止められてしまった。


「まだ何か?」


「あなた。どうやって火を消したんですか?」


「あー……」


 どう説明しよう。

 師匠に原理を教わったけれど、話すとまた長くなりそうだ。


「詳細は省きますけど、低い音でも火を消せるらしいです」


「なるほど。それはなんという名前の魔法なんですか?」


「え!?」


 名前なんてない。

 僕はただ基本的な魔法を組み合わせて、低い音を出しただけだ。

 魔法って名前がなきゃいけないのか?


 困った。いちいち名前なんて付けてないよ。

 仕方ない。こうなったらちょっとでっちあげるか。


「あ~。えっと…………音波消火器《ソニック・エクスティングウィッシャー》……とか?」


 平凡だ。

 自分で言っておいてなんだが、もうちょっと捻ってもよかったんじゃないのか。


「『音波消火器』ですか。なるほど。覚えておきましょう」


「あ、はい」


 でもトムソン先生は満足そうだ。

 これ以上何か聞かれる前に、僕は逃げるように会場をあとにした。


 ——それにしても本当に楽しい2日間だった。受けてよかった。

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