第18話 実技試験6
「……うん。思ったよりも溶けたな」
闘技場は池のように水浸しになってしまった。
氷山も跡形もなく崩れてしまった。
まさかこんなにも上手くいくとは思ってもみなかった。
正直、自分でも引いている。
ということは、観客席の方はもっと……。
「………………」
やってしまった。
みんな青ざめた表情であんぐりと口を開けている。
一言も声を発していないところを見ると、僕と同じく——いや、それ以上にドン引きしているのだろう。
こんなところで悪目立ちするのは良くない。
早々に退場してしまった方がいいだろう。
「…………あぁー……トムソン先生?」
そう思って僕は、観客席の受験生と同じくあんぐりと口を開けているトムソン先生の方に顔を向けた。
「5分ってもう経ちましたよね……? じゃあ僕はこれで……」
「待ちなさい」
そそくさと帰ろうとすると、トムソン先生に止められてしまった。
僕は真一文字に口を閉じて気をつけをする。
火属性の魔法を使わずにあろうことか氷山を破壊してしまった。
だから、やっぱり怒られるのだろうか。
そう思っていたら、トムソン先生は穏やかな笑みを浮かべた。
「まだあなたの点数を発表していませんよ」
「あ、はい……でも失格ですよね?」
「まさか。あの氷山を破壊してしまうなんて前代未聞ですが、ルールには反していません。あなたは当然、点数を受け取る権利があります」
トムソン先生は持っていたボード——おそらく受験生の点数表だろう——に何かを書きこむと、宣言する。
「受験番号3581番! 2000点満点!」
「おぉぉぉおおおお!!」
地鳴りのように大きな歓声が闘技場を揺らし、外にまで轟いた。
「……マジか……」
まさかの満点。
いや、確かに氷山を瓦解させてほとんど溶かしたけど。
「まだ溶けていない氷ありますけど……」
僕の魔法では全て溶かし切れたとは言えない。
まだ氷は残っているし、ところどころ大きな塊が浮かんでいる。
なのに満点って……。
「いえ。満点です」
けれどトムソン先生はきっぱり言う。
「そもそもあの氷山をあんなふうに崩したのはあなたが初めてです。
氷もほとんど溶けていますし、水に流された結果、溶けなかっただけと判断しました」
つまりあのまま氷が崩れなかったら全部溶かせていたということか。
うーん。そううまくいくかな。
氷山が崩れた今となっては検証することもできないけれど。
「これはラルフ・ハーゼンですら成し得なかった偉業です」
「え? 師匠……!?」
「彼は1割ほどしか溶かせていません」
そんなバカな。師匠だったら僕以上の魔法と創意工夫で一瞬で氷を溶かしそうだ。
……これはあれだ。目立つのが嫌だから力を抜いていたんだな。
「…………そうか。だから落ちたのか」
たぶん師匠は筆記も実技も力を抜きすぎてしまったんだ。
そりゃそうだよ。
あんなすごい師匠が、何の理由もなく王立魔法学園を落ちるはずがない。
「そういうわけで、ポールさん。あなたの点数は2000点です。
筆記の点数も合わせると、歴代最高得点でしょう」
「え……!?」
僕は驚きの声を上げる。
「歴代最高!? いや、というか僕の点数『????』だったんですけど」
「えぇ。それは我々の力不足です。あなたの答案——特に筆記に関しては、点数をつける力が我々にはありませんでした。そのためこのような形にさせていただきました。ですがおそらく満点以上であると判断しました」
うわ。マジか……。そんなのされてしまったら、悪目立ちどころか公開処刑だ。
こんなことになるなら師匠のように力を抜いておけばよかった。
というか師匠も教えてくれればよかったのに。
「ではこれにて実技試験は終了です。まぁポールさんはもう決まりみたいなものですが、結果をお待ちください」
「は……はい……」
僕は引きつった笑みを浮かべた。
その時——。
「——不正だ!!」
そんな叫びが観客席の方から聞こえてきた。
見ると、顔を真っ赤にしたモーリスが息を荒くしながら僕を指差していた。




