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第16話 実技試験4

 魔法で作られた氷山は思ったよりもでかかった。

 見上げてみたが、ここからだと首を限界までそらさないと頂上が見えなかった。

 観客席から見るのとは、やっぱり迫力が違うな。

 これを全て溶かすのは、確かに難しそうだ。


「最後は君ですか。噂には聞いています」


 僕の試験監督はトムソン先生だった。


(……噂?)


 僕は首を傾げる。

 噂とはいったい何のことだろうか。

 やっぱり筆記で何かしでかしちゃったのだろうか。

 点数が付かないのもそのせいか。


 まぁ通過したんだから最低点は取れたんだろうけど。

 いい加減気になるから何がダメだったのか教えてほしい。


「冒頭で説明しましたが、試験時間は5分です」


 だけど今は試験に集中しよう。

 こんなにでかい氷山を溶かすなんて滅多にない機会だ。

 やるだけやってみたい。


「何か質問はありますか?」


「……うーん、あ! あの、杖以外に道具って使ってもいいんですか?」


「もちろん構いません。魔法の補助で使うのなら、それも魔法の一部です。どんな魔法でも構いませんので」


「そうですか」


 なら安心して、師匠の小刀を使えそうだ。


「それでは試験を始めてください!」


「……お願いします」


 早速僕は氷山の周りを歩いてみる。

 溶かす前に全体のサイズ感を確認しておきたい。


 氷山は思った以上に透き通っていて、反対側の景色がうっすらと透けて見えた。

 きっと不純物が少ない水を使っているのだろう。

 水魔法の魔法陣を組み込んでいるだろうから当然か。

 根元の魔法陣を見ると、ぼんやりと青白く光っていて起動し続けていることがわかった。


 ……ってあれ?


「試験って僕だけなんですか?」


 違和感を覚えて周りを確認すると受験生は僕ひとりだった。

 9個の氷山は全部消えていた。


 トムソン先生は訝しげに眉を顰めると、


「えぇ。あなた1人だけです。他の皆さんはもう終わりました」


 なんと。最後だったから試験を受ける人数は中途半端だろうと思っていたけど、まさかひとりで試験に挑むことになるとは。

 確かに見回すと、他の受験生はもう観客席に座っていた。


「おい。あれが最後の受験生だって」


「……あの噂のはてな野郎? 見るからに冴えない顔だな」


「きっとあの点数もよっぽどひどかったんだろ。もしくは名前を書いていない間抜けだったとか?」


「よく合格したな」


 観客席のあちこちから、ひそひそと声が聞こえてくる。

 自分の試験の結果に落ち込んで項垂れている人もいた。

 モーリスはつまらなさそうに友達と話しながら、僕を見ていた。


 なんとなく気まずいな。

 僕もあの採点は気にしてるんだから出来れば言わないでほしい。


「のんびりしているのは良いですが、時間はあまりありませんよ」


「あ、はい」


 しまった。今は試験中だった。

 ——集中。集中。

 まぁでもだいたいこの氷山のこともわかってきたな。


 僕は小刀を握りしめる。

 師匠から貰った小刀は、中に魔石が埋め込まれている。

 火をイメージしながら魔力を込めていくと、刃が熱を帯びてきた。


「うん。これくらいだろう」


 充分に熱せられて刃が橙色に輝いたところで、その小刀を氷山に刺した。

 刺した部分が溶けて、すっと小刀が入っていく。

 氷山を溶かしながら柄もすっぽり埋まるくらい奥へと押し込んだ。

 そこで波をイメージして魔力を込めた。


 やがて小刀からヴゥーンと低い唸りが手に伝わってきた。

 それを感じると僕は手を離し後ろに下がった。


「どうしました?」


 トムソン先生が怪訝そうな顔で聞いてきた。

 氷山の行く末を確認しつつ、僕は素直に答えた。


「——あ、終わりました」


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