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第15話 実技試験3

 実技試験の様子を見ていると、マギーがどれだけ凄かったのか、改めて実感する。


「1876番、200点!」


「ハァ……ハァ……まじで?」


「1942番、176点!」


「く、くそぅ……ハァ……ハァ……」


 皆、本気の魔法だった。

 にもかかわらず、溶かせたのはほんの僅か。

 ほとんどが2割にも到達しなかった。


 やはり次席。

 本当になぜファンタジア生はマギーを見下しているのだろう。

 ますますわからなかった。


 その瞬間。


 ——バチンッ!!


 ものすごい破裂音と共に紫色の光が弾けた。

 そっちを見ると、受験生のひとりが悲鳴を上げて、その場に崩れ落ちるのが見えた。

 その手には魔法陣を描くための筆が握られていた。


「受験番号2103番、失格!」


 気絶した受験生は職員に担がれ、退場していった。


 どうやら氷山を出す魔法陣を書き換えようとしたみたいだ。

 なるほど。魔法陣には防護魔法がかけられているのか。

 あぁやって不正を働こうとしたら気絶させられてしまう。

 うかつに魔法陣には触らない方が良さそうだ。


 それからも受験生達はあれこれ工夫して氷山に挑んだが、2割の壁を越えた者は誰もいなかった。

 だが、しばらくして——。


「ワァァァアアア!!」


 一際大きい歓声と共に青白く燃える炎が高く立ち昇った。

 やがて炎が消えると、氷山は半分近くまで溶けていた。


「受験番号2517番、モーリス・アレクサンダー。921点!」


「おぉぉぉおおお!!」


 会場のどよめきがより一層大きくなった。

 見ると、さっき僕の後ろで舌打ちをしていたファンタジアの少年だった。


「さすがモーリス! ファンタジアのエースだ!」


 後ろでまたファンタジア生——たぶんモーリスの友達だろう——が叫んだ。


「ハズレの試験でこの点数はさすがに1位だろ」


「しかもマルギット超え!」


「やはり裏切り者とは格が違うな」


 ファンタジア生達が勝ち誇ったように笑った。


「——チッ……やっぱり満点は無理だな」


 しばらくすると、モーリスが戻ってきた。


「半分は超えると思ったが、最大火力でもさすがに難しいな。あれが限界だろう」


「まぁでも首席の座はいただきだな、モーリス」


「ふん……」


 モーリスはその友達の言葉に満更でもなさそうに鼻で笑った。


 でも確かにモーリスが出したあの青い炎はすごかった。

 酸素を大量に取り込み、完全燃焼すると炎は青くなる。

 けれど実際に魔法でその現象を再現するには緻密かつ豪快な魔力操作が必要だ、って師匠が言ってたっけ。

 その魔法を出せたということは、モーリスは本当にトップレベルの実力を持っているのだろう。

 ファンタジアのエースも伊達じゃない。


「あ、もうそろそろか……」


 会場を見ているともう3000番台の受験生が試験を受けているところだった。

 僕は立ち上がると、足早に観客席を降りていく。


「モーリスって人の最大火力でも半分も溶けなかったか……」


 ——ということは、火魔法だけだと全て溶かすのは難しい。

 だったらどうするか。

 僕は懐に忍ばせた、師匠から貰った小刀を握りしめた。


★★★


「やぁ。ポール君」


 闘技場の入場口の手前で、マギーが僕に手を振っていた。

 壁にもたれて少し疲れている様子だったが、口元にはいたずらっぽい笑みが浮かんでいた。


「君とはすぐに会えると思っていたよ」


「マギーさん、次席だったんですね」


「意外だったかい?」


「いえ……むしろファンタジア生に嫌われてる方が意外でした」


「ははは! 君ははっきり言うね!」


 マギーはカラカラと気持ちよく笑う。

 おそらくそうだろうとは思っていたけど、気にしてない様子だ。


「そうなんだよね。ファンタジアのやり方が気に入らなくてね。無視してたら嫌われて……いや、恨まれてしまったんだ」


「……気に入らないってどんなやり方なんですか?」


「暗記による詰め込み教育さ。ほんと嫌になっちゃうよね。魔法はもっと自由なものだろ?」


「はい。僕もそう思います」


 僕は大きく頷いた。というよりそもそも僕も暗記は嫌いだ。

 師匠に字を覚えさせられたことさえ嫌だったんだから。


「それで私なりに理論を構築して入試で使ったら、案の定次席。『君は首席を取れる力があったのに!』ってうるさいよね? 次席を取れたんだからいいじゃないか!」


 マギーはそう笑うと、僕の方をまっすぐ見た。


「だから君がファンタジア生をギャフンと言わせるのを待ってるよ」


「……それは頼みですか?」


「ううん。願いだよ」


「そうですか」


「君の創意工夫の魔法を楽しみにしているよ」


 僕はマギーに軽く会釈して、入場口を通過した。


「——受験番号3581番! ここに」


 僕は呼ばれるまま闘技場の中央に進み出ると、魔法で作られた氷山を見上げた。


 ——さて。どう溶かすかな。

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