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第10話 筆記試験4

『最上級火炎魔法——獄炎の天柱(インフェルノ)の魔法陣を描け』


 大問10の問題はこの一文だけ。

 皮肉にも運が良いことに、昨日辞典で開いた魔法陣だったが、さすがに覚えているわけがない。

 あんな複雑で細部まで神経を張り巡らせたような幾何学模様を誰が覚えているというのか。


「うーん。困った」


 最後は単純な暗記力の勝負だったか。

 とうとうここで詰みだ。

 せっかくだから全問解答を埋めたかったが。


 ………………。


 ——『君なら解けるよ』


 いや、最後まで足掻いてみよう。

 なにも合格が目的じゃないんだ。

 記念受験だし、そもそも解けなくて当たり前。


 今までの問題が、基礎の組み合わせだけで解ける簡単な問題だったのは運が良かっただけだ。

 本来なら大問10のような暗記と高度な知識を問われるような問題ばかり出ていてもおかしくはない。


 合格する気はないのだから、この際、好きに描いてみればいい。

 幸い効果は覚えている。


「確か——『天高く聳える火炎の柱を呼び出して周囲一帯を焼き尽くす魔法』だったよな」


 この効果を再現するだけならば、基本的な魔法陣の組み合わせだけでもできるはずだ。


 まず火魔法の魔法陣は当然、中央だ。

 その魔法陣から火を上へと放出するように指向性を持たせて火柱を再現しよう。

 天高くというくらいだから……これくらいの魔力消費量が必要か。

 でもこの魔力量……。

 理論上、ひとりの人間が出せるほどの量じゃない。

 ってことは周囲から魔力を取り込む機構も必要だ。

 魔力を流し込むと同時に一気に周囲の空気から魔力を吸い出すように魔法陣を組もう。


 それで『周囲一帯を焼き尽くす』か。

 周囲ってどのくらいだ?


 普通に考えれば、自分の周囲くらいだろう。

 けれど大問6で王都を水魔法で冠水させる想定の問題が出た。

 もしかしたら、かなり広い範囲が必要かもしれない。

 自分の周囲〜王都くらいの範囲まで調整できるように変数化した方がいいかもしれないな。


 あと『焼き尽くす』と言っているくらいだから、炎が持続的に出るように工夫をしなきゃ。

 火は空気を取り込むほど激しく燃える。

 それなら、風魔法の魔法陣を組んで下から渦を巻くように空気を送り込もう。


 お、こうすれば魔力も節約できそうだ。

 しかも火柱も効率的に実現できそうだ。


 確かこの現象を火災旋風って師匠が言っていたっけ?


 ついでにループ機構も付与すれば、周囲の空気がなくなるまで取り込み続け、火柱はどんどん大きくなるだろう。

 一応、ループ時間の変数も入れて、任意の時間で魔法が消失するようにしておこう。


 なるほど。この魔法の本質がなんとなくわかってきた気がするな。

 これは火魔法と風魔法の融合魔法。

 それをどう効率よく矛盾なく組めるか、を考えればいい。

 最大効率で最大火力を出せるように魔法陣を描く。

 まぁ、辞典で見た魔法陣とは全然違うものになるから、正解にはならないだろうけど。


「……よし。ひとまずできたな」


 解答用紙には、火災旋風を巻き起こす魔法陣が出来上がっていた。

 獄炎の天柱ではないが、本質的には類似した現象が起こるはずだ。


 でも——。


「あまり美しくはないな……」


 思いついたまま描いていったから、僕が描いた魔法陣はかなり複雑でごちゃついている。

 これでは魔力を無駄に喰ってしまう可能性がある。


 時計を見るとまだ時間はありそうだ。


「対称性を意識して描き直すか」


 魔法陣は幾何学的な構造で作られている。

 対称性を意識して描いていけば、少ない魔力消費で同じ現象を引き起こすことができる。


『対称性を意識しろ』


 これも師匠から教わった言葉だ。


 描いた魔法陣に大きくバツをつけると、

『裏に描き直します』

 と一言添えて、裏により美しさと効率を求めた魔法陣を描いていった。


 結局、構想と作成に時間がかなり掛かってしまい、前の問題の見直しもろくにできずに試験終了の鐘が鳴った。



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