おと
これは私が殺した人の物語です。
私が殺した人達の人生です。
完璧な殺人です。
だって私は刃物も持たないし、毒も使わない。
首も絞めない。
私は、ただ「音」を使うだけです。
ある人には、夜中のインターホンを。
ある人には、誰もいない廊下の足音を。
ある人には、イヤホンの奥から聞こえる笑い声を。
ある人には、何度止めても鳴り続ける目覚ましを。
ほんの少し。
ほんの一度。
聞かせるだけ。
あとは勝手です。
振り返る者。
確かめる者。
追いかける者。
無視できなくなる者。
人は音に意味を求めます。
意味があるから日本には「五十音」なんて生まれるんです。
だから死ぬんです。
あなたがこれまで読んだ話
主人公は沢山います。
年齢も、職業も、住む場所も違います。
互いに面識もありません。
偶然なんてありません。
全員、私が選びました。
安心してください。
家へ帰る人もいます。
笑う人もいます。
恋人と話す人もいます。
「助かった」と思う人もいるでしょう。
でも、それは最後まで読んだあなたが勘違いするように書かれているだけです。
物語が終わったあと。
ページに書かれていない場所で。
私は必ず迎えに行きました。
全員。
誰一人、逃げられませんでした。
「ああ、この人も死んでいたのか。」
そう気づくでしょう。
でも、その頃には遅い。
あなたももう、私の音を聞いていますから。
さっきから、何度か聞こえませんでしたか。
ページをめくる音。
部屋の外の足音。
通知音。
天井が鳴る音。
あなたは「気のせい」と思った。
その一回目が、一番安全だったのに。
二回目は気になった。
三回目は耳を澄ませた。
もう十分です。
私は、音に気づいた人から殺します。
最後に一つだけ。
忠告です。
振り返らないでください。
返事をしないでください。
聞こえても、意味を探さないでください。
……え?
今、後ろで何か鳴りましたか。
それなら。
もう遅いですね。
おとにはきをつけて。




