見てきた絵、そして音
s少年は、ある日突然いなくなった。
探しても見つからない。
警察も、近所の人も、家族も。
誰も居場所を知らなかった。
少年が目を覚ました場所には、窓がなかった。
時計もなかった。
あったのは、紙とクレヨンだけ。
「描いて。」
男は、それしか言わなかった。
少年は毎日絵を描いた。
笑っている人。
泣いている人。
学校。
家族。
花火。
風鈴。
猫。
夢。
恋。
病院。
鏡。
放送室。
階段。
少年には、その絵の意味は分からなかった。
「違う。」
紙は破られた。
「もう一枚。」
また描く。
また破られる。
指先は鉛筆の跡で黒く汚れ、爪は割れ、眠る時間も少しずつ奪われていった。
「苦しい。」
そう言っても、返事はない。
「辛い。」
それでも紙だけが差し出される。
描く。
描く。
描く。
四十九枚。
そして五十枚目。
最後の一枚を描き終えた少年は、小さく笑った。
「もう、描かなくていい?」
男は静かに頷いた。
その言葉だけが、少年にとって初めての優しさだった。
少年は安心して目を閉じた。
その日から、新しい絵が描かれることはなかった。
後に見つかった部屋には、壁一面に少年の絵が飾られていた。
どの絵にも、人々の何気ない日常が描かれていた。
笑顔。
約束。
恋。
家族。
夢。
そして、どこか片隅には必ず、小さく「音」を表す何かが描き込まれていた。
少年は最後まで、その絵が何に使われるのか知らなかった。
知る必要もなかった。
彼はただ、生きるために描き続けたのだから。




