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87/97

ロ

廊下は、人がいなくなってからのほうがよく響く。


病院という場所は、不思議だ。


生まれる音と、


終わる音が、


同じ建物の中で鳴り続けている。


一人の老婆が、静かに息を引き取った。


挿絵(By みてみん)


誰にも看取られず。


誰にも呼ばれず。


ただ、心電図の音だけが最後を知らせる。


やがて、その音も止まる。


静寂。


看護師は白い布を掛け、病室を後にした。


深夜。


『カタン……』


点滴台が揺れる。


『コツ……コツ……』


裸足の足音。


生きている者の歩き方ではない。


警備員は恐る恐る扉を開けた。


ベッドは空だった。


残されていたのは、白い布だけ。


『コツ……コツ……』


音は廊下の奥へ遠ざかっていく。


翌朝。


病院の入口には、泥だらけの足跡が一列。


誰もが外へ出ていった跡だと思った。


違った。


その足跡は、


病院の中へ向かって続いていた。


私は、その足音を聞いていた。


人は病院を、


命を救う場所だと言う。


だが、ときどき帰り道を忘れた者がいる。


だから夜になると、


誰もいない廊下で足音だけが響く。


次にその音を聞くのは、


誰なのだろうね。

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