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ロ
廊下は、人がいなくなってからのほうがよく響く。
病院という場所は、不思議だ。
生まれる音と、
終わる音が、
同じ建物の中で鳴り続けている。
一人の老婆が、静かに息を引き取った。
誰にも看取られず。
誰にも呼ばれず。
ただ、心電図の音だけが最後を知らせる。
やがて、その音も止まる。
静寂。
看護師は白い布を掛け、病室を後にした。
深夜。
『カタン……』
点滴台が揺れる。
『コツ……コツ……』
裸足の足音。
生きている者の歩き方ではない。
警備員は恐る恐る扉を開けた。
ベッドは空だった。
残されていたのは、白い布だけ。
『コツ……コツ……』
音は廊下の奥へ遠ざかっていく。
翌朝。
病院の入口には、泥だらけの足跡が一列。
誰もが外へ出ていった跡だと思った。
違った。
その足跡は、
病院の中へ向かって続いていた。
私は、その足音を聞いていた。
人は病院を、
命を救う場所だと言う。
だが、ときどき帰り道を忘れた者がいる。
だから夜になると、
誰もいない廊下で足音だけが響く。
次にその音を聞くのは、
誰なのだろうね。




