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ル
留守番電話の『ピー』という音。
あれは、人が言葉を残すための合図だと思っているらしい。
私にとっては違う。
始まりの合図だった。
古い実家。
夜。
誰にも聞かれない留守番電話。
一件だけ残された、知らないメッセージ。
『……ピー。』
沈黙。
息を吸う音。
『もしもし。今からそっちへ行くね。』
たった、それだけ。
送信日時は二十年前。
誰も家にいなかったはずの日。
人は気味悪がる。
理由を探す。
意味を知りたがる。
だが、意味など最初から一つしかない。
録音の最後。
『ピンポーン。』
玄関のチャイム。
私は、その音を待っていた。
『カチャ。』
鍵が開く。
そして、小さな声。
『ただいま。』
その瞬間。
目の前の玄関でも、
『カチャ。』
まったく同じ音が響いた。
人は偶然だと言うだろう。
私は笑った。
偶然ではない。
音は約束だ。
チャイム。
鍵。
足音。
秒針。
風鈴。
鈴。
インターホン。
私は、その音が鳴るたびに、一人ずつ殺してきた。
誰も気づかなかった。
犯人を見た者はいない。
ただ、音だけは、いつもそこに残っていた。
だから今でも私は耳を澄ませている。
次の「音」が鳴る、その瞬間を。
その瞬間に殺るのだから。




