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ミ
鏡は、人間に嘘をつかない。
だからこそ、本当のものを映したとき、人は目を逸らす。
『見えないはずのものが映る鏡。』
そんな噂を聞けば、確かめたくなる。
廃旅館。
誰もいない洗面所。
古びた鏡の前に立つ。
映っていたのは、自分だけ。
……そのはずだった。
『ピシッ。』
一本のひび。
それは鏡ではなく、彼の顔をなぞるように伸びていく。
『ピシ……ピシッ……。』
逃げるように後ずさる。
けれど、鏡の中の彼だけは動かない。
数秒。
沈黙。
やがて、鏡の中の彼がゆっくりと笑った。
『みつけた。』
その一言で、鏡は砕け散る。
無数の破片。
映るはずの景色。
映るはずの自分。
だが、どの欠片にも彼の姿はなかった。
私は知っている。
鏡が壊れたのではない。
入れ替わったのだ。
本当に砕けたのは鏡ではなく、
「こちら側」にいたはずの存在だった。
だから今でも、あの破片には何も映らない。
映るべき人間は、
もう向こう側からこちらを見ているのだから。




