↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
61/97

ホ

人は、安心できる記憶ほど疑わない。


幼い頃。


眠る前には決まって、母が頭を撫でてくれた。


挿絵(By みてみん)


『おやすみ。』


その一言だけで、不安は消えた。


だから彼も、その夜は疑わなかった。


耳元で聞こえた懐かしい声。


『おやすみ。』


母の声だった。


けれど、電話の向こうでは違う答えが返ってくる。


『今日は旅行で家にはいないよ。』


挿絵(By みてみん)


聞き間違い。


そう思い込むしかなかった。


部屋の灯りを消す。


静寂。


やがて、ゆっくりと髪を撫でる音がした。


幼い頃と同じ、優しい手つき。


目を開けることはできない。


すると、もう一度だけ声が響く。


『ママじゃないよ。』

挿絵(By みてみん)



その瞬間。


頭を撫でる感触が、一つ増えた。


右から。


左から。


二本の手が、まるで子どもをあやすように優しく動く。


彼は震えることも、叫ぶこともなかった。


ただ、不思議なほど安心してしまった。


恐怖とは、必ずしも冷たいものではない。


ときに、人は温もりに誘われる。


私は、その夜を覚えている。


優しい手ほど、人は最後まで拒むことができない。


それが誰の手なのか、知らないままでも。



挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。