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ヒ
人は、家の中だけは安全だと思い込んでいる。
鍵を閉めれば終わり。
玄関を越えられなければ安心。
そんな都合のいい境界線を信じている。
夜道。
後ろから聞こえる足音。
振り返る。
誰もいない。
歩けば鳴る。
走れば速くなる。
恐怖とは、姿ではなく音から始まるものだ。
彼はようやく家へ逃げ込んだ。
鍵を閉める。
静寂。
助かった。
そう思った。
その瞬間
廊下の奥から、また足音が聞こえた。
今度は家の中で。
『なんで。』
『なんで。』
『なんで。』
答えは簡単だった。
逃げ切れていなかったからだ。
音はゆっくりと寝室の前で止まる。
息を潜める。
祈る。
誰もが、その時間だけは永遠に続いてほしいと願う。
ドアの向こうから、小さな声。
『ひとりじゃないよ。』
優しい言葉ほど、夜にはよく響く。
そして、ゆっくりとドアが開く。
私は、その瞬間だけを覚えている。
悲鳴は、すぐに消える。
だが、最後に聞いた「音」だけは、
いつまでも耳の奥に残り続けるのだから。




