51/97
ノ
遠回りをする人間は嫌いじゃない。
急ぐ理由より、隣にいたい理由を選ぶからだ。
放課後。
夕日に染まる帰り道。
二人は今日も、わざと少しだけ長い道を歩く。
約束なんてない。
それでも、その時間は何より大切だった。
信号待ち。
彼女はそっと制服の袖をつまむ。
『ねえ、この道、来年も一緒に歩けるかな。』
彼は照れ隠しに笑う。
『どうだろうね。』
本当は、答えなんて決まっていた。
彼女は頬を少しだけ膨らませる。
『私は、そのつもりなんだけど。』
その一言で、彼の世界は色づいた。
青信号。
彼女は小さく手を差し出す。
重なった手。
交わった未来。
二人は、これから何年も同じ道を歩くのだと信じていた。
私は、その姿を見送った。
人は「来年」を口にする。
「これから」を語る。
「ずっと」を夢見る。
その未来が、本当に来るかも知らずに。
だから私は、その一瞬を静かに覚えている。
幸せとは、終わりを知らない者だけが心から笑える時間なのだから。




