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ヌ
近道という言葉ほど、人を油断させるものはない。
『あっちの山道を行けば早いよ。』
その一言で、人は見知らぬ道へ足を踏み入れる。
誰もいない山道。
風は吹いていない。
鳥も鳴かない。
それなのに、どこからか〇の音だけが聞こえていた。
『〇〇〇……〇〇〇……』
一定の速さ。
一定の間隔。
彼は立ち止まる。
音も止まる。
歩き出す。
また鳴る。
まるで、足並みを合わせるように。
気味の悪さに耐えきれず、彼は駆け出した。
音も速くなる。
『〇〇〇、〇〇〇、〇〇〇。』
追いかけてくる。
いや、最初から隣にいたのかもしれない。
ようやく山を抜ける。
振り返る。
誰もいない。
安心した彼は、震える手でスマートフォンを開いた。
録音アプリが勝手に起動している。
覚えのない録音。
再生ボタンを押す。
〇の音に混じり、小さな声が聞こえた。
『……ィ〇〇〇〇〇〇。』
その言葉を聞いた彼は、二度と誰にも意味を尋ねることはなかった。
尋ねられなくなったからだ。
私は、その録音を知っている。
音は、姿よりも正直だ。
目には映らないものでも、
確かに、そこにいたことを記録してしまうのだから。




