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37/97

タ

あの夜、インターホンは二度鳴った。


一度目は、まだ生きている者への合図。


二度目は、もう戻れない者への合図だった。


午前二時。


誰もいない玄関。


白い封筒。


『次は、開けないでください。』


警告は、いつだって遅すぎる。


人は意味の分からないものほど、確かめたくなる。


背後でゆっくりと回るドアノブ。


鍵を掛けたという安心は、音ひとつで崩れ去る。


金属のきしむ音。


止まった息。


震える指先。


そこから先を語る者はいない。


語れないからだ。


『あの夜以来、インターホンは一度も鳴っていない。』


当然だ。


呼び鈴は、生きている者を呼ぶためのものだから。


あの部屋には、もう誰も応答する者はいない。


残ったのは、返事のない玄関と、


鳴る理由を失ったインターホンだけだった。


私は、その静けさが好きだった。


音が消えた場所では、物語も終わるのだから。


挿絵(By みてみん)

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