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19/97

ク

人は、壊れる瞬間だけが悲劇だと思っている。


違う。


壊れる音は、そのずっと前から鳴っている。


『苦しい。』


その言葉を、彼女は何度も繰り返した。


誰かに届いてほしかったのか。


それとも、自分自身に言い聞かせていたのか。


私には興味がなかった。


彼女は普段通りに目を覚まえ、普段通りに歩き、普段通りに笑おうとした。


昨日と同じ一日。


そう信じていた。


けれど、人の人生は「いつも通り」の途中で終わることがある。


『なんでこんな苦しいことになるの。』


その問いに答える者はいない。


ただ一つだけ、彼女は原因を決めつけた。


『全部、あの音のせい。』


『あの音さえしなければ。』


挿絵(By みてみん)


人は理由を求める。


理解できない結末には、必ず何かのせいにしたくなる。


だから私は黙っていた。


本当の終わりは、音が鳴った瞬間ではない。


その音を「もう戻れない合図」だと信じた瞬間から、すでに始まっていたのだから。


ふふ。殺してよかった。

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