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第99話:キャラバンの残骸

『黄金の平原』の虐殺が明けた朝。


大導師モルティスにとって、それは最も嫌悪する仕事から始まった。


太陽が地平線の上へとゆっくり這い上がる頃、モルティスは広げられた防水布の傍らに膝をついた。


ルトとクロップが、彼の前に横たわっていた。


「大導師」


生き残った男たちの中で最年長のガルトが、静かに声をかけた。


モルティスに防腐用の塩が入った小さな袋を差しだす彼の両手は、小刻みに震えていた。


「俺たち……本当にこの二人を連れて行く気ですか? この暑さだ、二日もすれば……毒の塊に変わっちまう」


モルティスは顔を上げぬまま、クロップの肌に灰色の粉末を擦り込み続けた。


「禿鷹どもの餌食にしてたまるか、ガルト。俺たちは錬金術師だ。肉屋じゃない」


「だが、ルトは俺たちの盾だった」


ガルトは虚無の平原を見つめながら呟いた。


「それに、あいつは……」


彼はアイロンが横たわる最後尾の馬車を指差した。


「もしまた襲われたら、俺たちはただ惨殺されるだけだ。フラスコを叩き割る暇もありゃしない」


モルティスがようやく身を起こした。


仮面は外され、そこには、深く皺の刻まれた、やつれ果てた素顔があった。


「アイロンが足手まといだとでも思うか? 違う。あいつは俺たちの唯一の保険だ。意識を失っていようが、お前らのようなどん百姓が1ダース集まるより遥かに価値がある。遺体を積め。10分後に出発する」


モルティスはアイロンの乗る馬車へと這い上がった。


男は干し草の山の上に横たわっていた。


その義肢の金属が、ごく僅かに、低い唸りを上げて振動している。


モルティスがアイロンの額に手のひらを当て、――即座に引っ込めた。


肌は氷のように冷たかった。


だが次の瞬間、錬金術師が再び触れると、アイロンの身体から突如として凄まじい熱波が立ち昇り、湯気が吹き出した。


アイロンの皮膚の下、こめかみや首筋のあたりで、奇妙な灰色の糸が脈動していた。


それらは不規則に、断続的なリズムで現れては消えていく。


モルティスは手持ちの中で最も高価な、回復の秘薬が入った小さな小瓶を開けた。


液体をアイロンの口へ流し込もうとしたが、その歯は抉じ開けることも不可能なほど固く噛み締められていた。


「自分を殺す気か、坊主」


錬金術師は静かに呟いた。


正午頃、車列は遊牧民の集団に遭遇した。


『ハゲタカ』ではない。ただのうだつの上がらないステップの浮浪の徒――短足の馬に跨り、短弓を携えた5人の男たち。


遊牧民たちが進路を塞ぐ。


頭目らしき、あばた顔の髭面の男が、退屈そうに鞭を弄んでいた。


「錬金術師どもか」


男は雄牛の蹄のそばに唾を吐いた。


「どこへ行く? 護衛は必要ないか? お前らの『緑の油』を2箱もくれれば、森の入り口まで送ってやってもいいぞ」


ガルトと他の見習いたちが後ずさりする。


彼らの手は本能的に試薬袋へと伸びていた。


モルティスが静かに前に出た。


彼はすでに仮面を再び装着していた。


「護衛だと?」


モルティスは短く鼻で笑った。


「俺の馬車を見ろ、遊牧民。側板についた血が見えるか? 俺たちは『死の森』を抜けてきたばかりだ。だが、生き延びた。なぜか分かるか?」


彼は最後尾の馬車を指差した。


キャンバス布の下に、横たわる肉体の輪郭がうっすらと浮かび上がっている。


「そこにあるのが俺たちの『積み荷』だ。大導師の研究所で創り出された『黒痘(黒い天然痘)』。……実験のために運んでいる最中さ」


彼はクロップの遺体がある馬車を示した。


「俺の助手は今朝死んだ。もっと近くに来て確かめてみるか? そいつの傍らで一呼吸吸った後、どれほどの早さでお前の爪が真っ黒に腐り落ちるかをな」


「本当に……あのウイルスなのか?」


遊牧民の一人が恐怖に顔を強張らせた。


「その通りだ」


モルティスは冷徹に言い放った。


「最初の感染者になりたくなければ、今のうちに失せるんだな」


遊牧民たちは即座に馬を数歩後退させた。


「……通りな」


頭目がボロ布で鼻を覆いながら、不機嫌に吐き捨てた。


遊牧民の姿が見えなくなると同時に、ガルトは精根尽き果てたように御者台へと崩れ落ちた。


「大導師……ハッタリだったんですか?」


「錬金術の半分はハッタリだ」


モルティスは吐き捨てた。だが、彼自身の背中も冷や汗で濡れていた。


「だが、残りの半分は、敵と刺し違えて死ぬ覚悟だ。進め。時間を無駄にするな」


夜、車列が短い休息のために停止したとき、その静寂は重苦しく場を支配した。


いつもならこの時間、クロップが焚き火の周りを忙しなく動き回り、乾パンと干し肉でどうにか食えるものを作ろうとしていたはずだった。


「なぜあいつは、あんなことをしたんでしょう」


見習いの中で最も若いヴェインが、遺体の積まれた馬車を見つめながら呟いた。


「クロップはいつだって臆病者だった。普通の犬に吠えられただけで箱の中に隠れるような奴だったのに。なぜ、あいつのために……あんな風に剣の下へ飛び込めたんだ?」


モルティスは火の傍らに座り、るつぼの中の調合液をかき混ぜていた。


「臆病は本能だ、ヴェイン。だがクロップの行動は――選択だった。クロップはアイロンの中に、俺たちが見ていない何かを見たのさ。常に弱かった者は、強い者へと本能的に惹きつけられる」


「馬鹿げてますよ」


ガルトが不満げに零した。


「クロップは死に、あいつは昏睡状態で、おそらく二度と目を覚まさない」


「愚行と信仰は、しばしば酷似するものだ」


モルティスが返した。


「だがお前ら自身を見ろ。お前らが生きているのは、昨日あいつが泥をすべて被ってくれたからだ」


翌日の終わりにかけて、周囲の景色が変わり始めた。


『黄金の平原』はなだらかな丘陵地帯へと移り変わり、土壌は岩がちで湿り気を帯びていく。


前方には、深い森に覆われた麓の、不気味に黒い境界線が延びていた。


モルティスは茂みの文字通り間際で車列を止めた。


ここの空気は違っていた。針葉樹の葉、湿った土、そしてどこか金属的な匂いが混じり合っている。


モルティスはアイロンの馬車を覗き込んだ。


男は微動だにしなかったが、その義肢から発せられる唸り音は一段と高くなっていた。


アイロンはうわ言を言い始めていた。


唇がかすかに動き、脈絡のない言葉を吐き出す。


「……ベクトル……質量……均衡が……過負荷……」


「落ち着け、坊主」


モルティスは濡れ布巾を彼の額に当てながら言った。


「もうすぐ到着する。くたばるにしても、まともなベッドに寝かせるまで待て」


モルティスは見上げた。


日の光の最後の残滓を呑み込みつつある、木々の暗い天蓋を。


「壁のない村か。……そんな『積み荷』を運び込むには最も危険な場所だな」


彼は呟いた。


「――ちっ、知るか」


「出発だ」


モルティスが下命した。


「森へ入るぞ」

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