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第97話:負の質量

『死の森』の朝は、何の救いももたらさなかった。


霧は枝に絡みつき、重い雫となって、鈍い音を立てて地面に落ちていく。


全身がきしんでいた。


すべての関節と筋肉が、昨日の過負荷に悲鳴を上げていた。


俺は馬車の車輪に背を預けて座り、左手の指をゆっくりともみほぐし始めた。


頭の中には、まだ不快な耳鳴りが残っている。


短い、押し殺したようなすすり泣きが、静寂を破った。


俺は瞬時に片膝をつき、手は本能的に剣の柄を探っていた。


クロップだった。


少年はキャンプの端、昨日俺たちがバーグを縛って残したまさにその場所に立ち尽くしていた。


錬金術師たちがいっせいに跳び起き、必死に武器を掴む。


モルティスが真っ先にクロップのもとへ駆けつけた。俺は立ち上がり、静かに近づいた。


傭兵は、俺が残したときと全く同じ姿勢で横たわっていた。


その肌は汚れた灰色に青ざめている。


顔は、直視するのも憚られるほどの凄惨な恐怖の形相に歪んでいた。


見開かれた目と口からは、黒い黒曜石のような、ドロリとした固まった物質が染み出ていた。


クロップは両手で顔を覆い、後ずさりした。


「あいつ……あいつ……あいつ……」


「落ち着け、クロップ」モルティスが言った。


彼は片膝をつき、長短剣の先で死者の口から流れ出た黒い泥を突いた。


パキリ、と硬い音を立てて、その物質が砕け散る。


「悪霊に生命力を吸い尽くされたようだな。魂を破壊され、魔力を枯らされ、命の火花を呪われた。お前たちが目に見えているのは、毒へと成り果てた奴の精神の残滓だ。もし縛っておかなかったら、中身が完全に焼き尽くされる前に、俺たち全員を引き裂いていただろうよ」


バーグの仲間である傭兵の一人が、一歩前に踏み出した。


モルティスが手を突き出して制する。


「下がれ! 触れるな。呪いはまだ生きている。その黒い腐汁がひと雫でも皮膚に触れれば、生きたまま腐り落ちるぞ」


錬金術師たちの動きは早かった。


二人の見習いが、可燃性の混合液が入った重い瓶を運んでくる。


彼らは馬車に飛び散らないよう細心の注意を払い、安全な距離からバーグの死体にそれを浴びせた。


火は一瞬で燃え広がった。


不自然なほど鮮やかな、緑色の錬金術の炎。


それは肉体も、呪われた黒い腐汁も、すべてを呑み込んでいく。


俺は少し離れた場所に立ち、昨日まで人間だったものが灰へと変わっていくのを見つめていた。


「支度をしろ」モルティスは火葬の炎を振り返ることもなく命じた。「ここに長居するのは危険だ」


それから7時間後、俺たちは『死の森』を抜け出した。


ねじくれた黒い幹がまばらになり、最初の陽光が差し込んでくる。


そして森は、まるで定規で真っ直ぐに切り落とされたかのように、唐突に途切れた。


目の前に広がったのは、『黄金の平原』だった。


圧倒的な開放感。


陽に焼かれた背の高い草が風に揺れ、まるで生きている波のような錯覚を作り出す、草の海。


頭上の空は、どこまでも青く、果てしなかった。


車列が速度を上げる。


新鮮な空気と本物の草の匂いを嗅ぎつけ、雄牛たちの足取りが軽くなった。


錬金術師たちはようやくマスクを剥ぎ取り、貪るように風を吸い込んだ。


俺はフードを払い、顔を太陽に向けた。


「綺麗だね?」クロップが馬車の端、俺の隣に腰掛けた。


目の下に隈を浮かべ、完全に疲れ切った様子だった。


「開けすぎている」俺は答えた。「森の方が隠れやすい。ここじゃ、丸見えだ」


「モルティスが言ってたんだ。どんな力にも代償があるって。錬金術師は健康を払う。魔術師は正気を払う。……あんたは何を払ってるの?」


「なぜそんなことを聞く」


「あ、ごめん、変なこと聞いちゃって……ただ、あんたみたいな強い人が、力の代わりに何を払ってるのか気になっただけなんだ」


少し考えてから、俺は言った。


「吐き気、割れるような頭痛、それから四肢の痺れだ」


「本当? 全然気づかなかった。見た目はあんなに強そうで、それに……」


(ドーンハイムまではまだ遠いな。到着したらまず何をするべきか、考えておくか。自己紹介をして、信頼を勝ち取り、彼らの盾になる。フッ、考えるのは簡単だが、実際は……そう上手くはいかないだろうな)


心の中で、俺はそう呟いた。


「アイロン、聞いてる?」クロップが覗き込んできた。


「ああ、聞いてる。どこまで話した?」


俺たちは北へと進んだ。


錬金術師たちは雄牛を急かし、フラスコを確認しながら、互いに囁き合っていた。


正午頃、最も重い試薬の箱を積んだ馬車の一台が遅れ始めた。


車輪が生い茂る草に隠された、柔らかい表土の奥深くに沈み込んでしまったのだ。


「止まれ!」御者が叫んだ。「ぬかるみにはまった!」


モルティスが馬を寄せ、眉をひそめる。


「動き続けろ。こんな見晴らしのいい場所に立ち止まるな」


護衛たちが飛び降り、馬車に肩を押し当てて押そうとしたが、雄牛たちはくびきの中で喘ぎ、鳴き声を上げるだけだった。


車輪の下の地面は、見かけによらず空洞だったらしい。重い荷物のせいで、何かの古い巣穴が陥没したのだ。


俺はため息をつき、自分の馬車から飛び降りた。


肉体は休息を乞うていたが、鞭打つように足を動かし、動けなくなった荷馬車へと向かう。


「下がれ」俺は傭兵たちに言い放った。


「おいおい旦那、筋肉だけでどうにかなるもんじゃねえよ」一人が額の汗を拭いながら溢した。「掘るか、荷物を降ろさねえと」


俺はそいつを無視し、後輪の車軸へとまっすぐ歩み寄った。


目を細め、正確な作用点を算出する。


傾斜角:12度。地面の抵抗:高。車軸の摩擦:標準。


解決策:雄牛の引きに同期させた、短い慣性インパルス。


車軸の梁に手を押し当てる。


頭を突き刺すような、鋭く、不快な痛みの火花。


『スキル』起動。――最小出力。


一瞬の間、世界が結晶のようにクリアになった。


タイミングは完璧だ。


雄牛たちが再び前へ突き進んだその瞬間、俺は馬車の質量を、その運動ベクトルに対して一時的に「負の値」へと書き換えた。


――カチリ。


重い馬車が窪みから跳ね上がり、慣性で数フィート前方へと転がった。


突然の抵抗の消失に対応できず、雄牛たちがつんのめり、車列を引っ張っていく。


「出すぞ」俺は身体を起こしながら言った。


頭がガンガンと鳴っていた。一瞬、視界が暗転する。


心臓がドクリと跳ね、それから狂ったような早鐘を打ち始めた。


口内に鉄の味が広がった。舌を噛んだらしい。


「呆けてないで、行くぞ」呆然とする傭兵たちに、俺は嗄れた声で言い放った。


日没まで俺たちは走り続けた。


太陽がゆっくりと地平線に沈み、黄金の平原を血のような深紅に染めていく。


風が強まり、冷たい空気と乾いた土埃の匂いを運んできた。


俺は自分の馬車に座り、右腕を襲う金属的な細い震えを抑え込もうとしていた。


前方に放たれていた騎馬の偵察兵が、拳を高く突き上げた。


急停止だ。


「煙だ!」彼は東を指差して吠えた。「それと土煙! まっすぐこっちに向かってくる!」


一瞬で、俺は総立ちになった。疲労を心の暗い隅へと押し込める。


濃い土煙の雲が、地平線で急速に膨れ上がっていく。


騎兵だ。かなりの数。


消えゆく残光の中に、槍の穂先と剥き出しのサーベルの煌めきが捉えられた。


「『ステップのハゲタカ』め」モルティスが唾を吐いた。


彼は鞍袋から、濁った液体の入ったガラスのフラスコを数本引き抜いた。


「完全に捕捉されたな」


「振り切れるか?」俺は馬車の上に立ち上がり、鞘から刃を引き抜きながら尋ねた。


「雄牛でか? ステップの駿馬を相手に?」モルティスは苦々しく嘲笑った。「無理だ。ここで迎え撃つ。円陣を組め! 急げ!」


御者たちが家畜に怒号を浴びせ、即席の砦を築くために重い馬車を猛然と反転させる。


傭兵たちはクロスボウを番えた。


錬金術師たちは、調合液のための携帯用火鉢に火を点していく。


俺は最後尾の馬車の端に立ち、こちらへ突進してくる騎兵集団を凝視していた。


30騎。……いや、それ以上だ。


「クロップ。馬車の下に潜り込んで、頭を出すな」俺は少年へ怒鳴った。


「あんたは?」


「俺は――少しばかり、実験をさせてもらう」


指が白くなるほど強く、俺は剣の柄を握り締めた。

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