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生きる意志は私の最強のスキルだ  作者: Gambo
死の隣り合う世界
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第80話:ドーンハイム

「お前の怒り……素晴らしいぞ、アイロン!」


奴は笑っていた……この期に及んで、まだ。


「お前こそ進化の頂点だ! 殺せるものなら殺してみろ!」


無重力状態を無視し、俺は前方へ突進した。


この義手で、奴の頭蓋を粉砕するはずだった。


だが——。


大脳皮質の熱過負荷サーマル・オーバーロードが、三半規管に異常をきたした。


世界が傾く。


わずか数センチメートル、標的を外した。


慣性に流され、俺の身体は奴の真横を通り過ぎていく。


ヴァレリウスの右腕が伸長した。


俺の喉と胸を、一撃で引き裂かんと振り下ろされる。


スローモーションのように、その軌道が見えた。


「だめっ!」


側方から、一本の影が飛び込んできた。


ティラだ。


彼女は体当たりで俺の身体にぶつかった。


それは弱い衝撃だったが、俺の身体を五十センチずらすには十分だった。


ヴァレリウスの爪は俺の首筋を紙一重でかすめ——代わりに、ティラの肩を深く切り裂いた。


悲鳴。


彼女は壁へと吹き飛ばされ、宙に浮遊する残骸に激突した。


「ティラ!」


駆け寄ろうとしたが、足が言うことを聞かない。


ヴァレリウスが次の一撃を繰ро出そうとした瞬間、ゼノがその巨大な前腕で突きをブロックした。


ナノ爪がゼノのコンポジット装甲に食い込み、激しい火花が四方に飛び散る。


「アイロン。立ち上がれ」


ゼノの声は静かだった。


いつものデジタルなノイズは、そこにはなかった。


強力な蹴りでヴァレリウスを突き放すと、彼はほんの一瞬だけ、俺たちを振り返った。


「ティラ! よく聞くんだ」


ゼノはホールの奥、重厚な気密扉の先にあるテクニカルセクターを指さした。


「あの奥に、テレポート機能付きの実験用エアロックがある。ヴァレリウスの脱出経路だ。アイロンをそこへ連れて行け。中に入ったら、すぐに制御コンソールを爆破しろ」


「あなたは!? あなたはどうするのよ!」


ティラが血に染まった肩を押さえながら絶叫した。


「僕は……これを終わらせる」


ゼノが突進した。


ヴァレリウスは数百本のワイヤーブレードを放ち、ゼノを絡め取ろうとした。


だが、ゼノはそれを素手で引きちぎりながら、敵をパノラマウィンドウの方へと力任せに押し戻していく。


ティラが俺の元へと駆け寄ってきた。


無事な方の腕を掴み、俺の身体を引き起こす。


「お願い、アイロン! 聞こえてる!? 立って!」


彼女は俺の顔に怒鳴りつけた。


「エフレムのためにも! ゼノのためにも!」


換気シャフトや側面の通路から、戦闘ドローンと変異体ミュータントがなだれ込んできた。


爆発によって檻から解放された、カインの『廃棄検体』どもだ。


異常に発達した筋肉と鋼鉄の顎を持つ、数十匹の奇怪な怪物たちが、俺たちの行く手を阻む。


俺は武器に手を伸ばそうとしたが、腕はただ力なく身体の横に垂れ下がるだけだった。


「こいつらはあたしに任せて」


ティラが猛々しく言った。


彼女はハッカー用タブレットと、武器庫から調達していた数発のEMPグレネードを取り出した。


片手でドローンの銃座に過負荷コードを打ち込み、変異体どもを銃撃させながら、もう片方の手で迫り来る怪物たちの足元へ寸分の狂いもなくグレネードを投擲する。


変異体の1匹が彼女に飛びかかったが、彼女は悲鳴すら上げなかった。


流れるような動作で身を屈め、怪物のうなじにある神経節へ、データスパイク・ナイフを真っ直ぐに突き刺した。


「行くよ! 動いて!」


死体の山を越え、俺を引きずりながら彼女が叫ぶ。


エアロックへと辿り着いた。


ティラが素早くコードを入力すると、重厚な扉がスライドして開いた。


俺たちが中へなだれ込むと同時に、ティラは制御コンソールを銃撃し、それをただの鉄屑に変えた。


俺たちは安全圏に入った——ほんの数分間だけだが。


その瞬間、脳内に声が響いた。


【アイロン。聞こえるか?】


頭の中の声……。


俺は硬直した。


それがゼノの声だと気づくまでに、わずかに時間がかかった。


「ゼノ……頼む、やめてくれ……」


【落ち着くんだ、小僧。お前はいつも、僕の故郷がどこか気にしていただろう】


【遥か北方、一つの谷がある。そこにドルンハイムという村があるんだ。そこで僕は育った。そして、僕はそこの村長だったんだよ、アイロン。必ず戻ると約束した。だが、その義務は果たされないまま残ってしまった】


【僕が始めたことを終わらせてくれる誰かを、僕は長年探していた。彼らの新たな盾となってくれる者をね。そして、お前を見つけたんだ】


脳裏に、一つの情景が鮮やかに広がった。


緑豊かな丘、木造の家々、人々——そして、その中に佇む俺の姿。


【アイロン、これが最後の任務だ。あの村を見つけてくれ。彼らのリーダーになるんだ。アカデミア崩壊の後に訪れる災厄から、彼らを導き、守ってやってほしい。僕がお前に教えたことを、彼らに伝えてくれ】


「できないよ……あんたがいないと……」


俺は呟いた。


一筋の涙が頬を伝ったが、皮膚の異常な熱によって一瞬で蒸発していく。


【そして、何よりも大切なことだ……人間のままでいろ】


通信が、途絶えた。


一秒後、扉の向こうで凄まじい轟音が空気を引き裂いた。


装甲気密扉を完全に貫通するほどの、猛烈な閃光。


『源泉』は消滅した。


軌道エレベーターが崩壊を始める。


ステーションの巨大なセグメントが次々と剥がれ落ち、流星となって落下していく。


次の瞬間、ティラがテレポートを起動した。


周囲の空間が特異点シンギュラリティへと収縮し、世界が消失する。


冷気。


それが、最初に感じたものだった。


冷たく湿った空気と、松の針葉の匂い。


目を開けた。


白い閃光は消え去り、後に残ったのは濁った灰色の霧と、割れるような頭痛だけだった。


俺は草の上に倒れていた。


すぐ隣にはティラが横たわっている。


彼女は見上げていた。俺もその視線を追う。


俺たちの頭上の空には、何本もの光の筋が描かれていた。


数十、数百に及ぶアカデミアの残骸が大気圏に突入し、火花を散らしながら燃え尽きていく。


俺は腕に力を込め、ゆっくりと身体を起こした。


ティラが静かに近づき、俺の肩にそっと頭を預けた。


俺たちは崖の縁に立ち、眼下に広がる果てしない森を見つめていた。

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