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生きる意志は私の最強のスキルだ  作者: Gambo
死の隣り合う世界
75/208

第75話:オーソライズ・ポイント

工業区画インダストリアル・ゾーンには、『死の水』のような静寂は欠片もなかった。


ここではすべてが咆え、軋みを上げ、火花を散らしている。


巨大な磁気クレーンが天井を這い回り、無残にひしゃげた金属の山を引きずっていく。


それはまるで、巨大な鋼の怪物リヴァイアサンの砕けた肋骨のようだった。


俺たちは狭いキャットウォークを進んでいた。


遥か100メートル眼下では、溶けたスラグの満ちた巨大な坩堝るつぼが、煮えたぎる泡を吹き上げている。


金属の山に視線を落とした瞬間、視界の隅で戦術インターフェースのグリッドが明滅した。


【対象:44-B規格鋼。崩落確率:14%。最適ルート:算出完了】


「アイロン、どうして立ち止まった?」


エフレムが俺の肩に触れた。


俺はビクッと身をすくませる。視界のグリッドが消え去った。


「足元を見ていたんだ」


俺は嘘を吐いた。


(これ以上、馬鹿正直に手の内を晒すのはごめんだ)


「腕がオーバーヒートしてるんじゃないの?」


ティラが俺の歩調に合わせながら訊ねた。


彼女は工具袋を掛け直し、疑い深そうに俺の義手プロテスを観察する。


「前腕から蒸気が出てるよ」


「何でもない」


俺は彼女の言葉を遮り、上着の陰に腕を隠した。


中央のジャンクションに差し掛かろうとした時、工場全体を包んでいたハム音が、唐突に音色を変えた。


フライス盤の甲高い悲鳴が止み、代わりに、金属と金属が高速でぶつかり合う規則的な打撃音が響き始める。


「敵と接触!」


ゼノが咆え、カービン銃を構えた。


圧縮された金属屑の山の陰から、四つ足の首無し機械マシンが飛び出してきた。


小刻みで不規則な挙動でありながら、恐ろしいほどのしなやかさで梁から梁へと跳び移ってくる。


「撃つな!」


エフレムが叫んだ。


「上層のパトロールを呼び寄せるぞ!」


「だが、奴らはもう来てる」


俺は言った。


その瞬間、群れの中で最も巨大な個体が、上のキャットウォークから直接俺に向かって飛び降りてきた。


一歩踏み込み、俺は右腕でそいつを空中で鷲掴みにした。


ツェンチュリオンの油圧駆動が凄まじい出力で稼働し、生身の肩の骨が関節から外れそうになる。


指に力を込める。


怪物の装甲がひしゃげた。


閃光が走り、焼け焦げた絶縁体の臭いが立ち込める——。


俺は火花を散らす鉄屑の塊を、眼下の深淵へと投げ捨てた。


残る3体の機械が、ほんのコンマ数秒だけ硬直する。


「アイロン、下がって!」


ティラがスタン・バトンを構えながら叫んだ。


俺の頭の中では、絶えず一つのリズムが脈打っていた。


標的。捕捉。破壊。


俺は前方に飛び出した。


瞬く間に2体目との距離を詰め、裏拳による強烈な一撃を叩き落とす。


拳は装甲を完全に貫通し、格子状の鉄の床に機械を縫い留めた。


3体目と4体目が同時に俺の側面へ回り込もうとする。


だが、すでに体勢を立て直していたゼノが、容赦ない銃床の打撃でそのうちの1体を空中で叩き落とした。


最後の一体は——ただ『首』を掴み上げ、メインケーブルをプロセッサの一部ごと根こそぎ引きちぎってやった。


俺はキャットウォークの真ん中に立ち、荒い息を吐いていた。


右腕が激しく痙攣し、拳を開くことすらできない。


金属からは濃い煙が吹き出し、顔面には神経性のチックが走っていた。


「アイロン……」


ティラが、手負いの獣に近づくように慎重に歩み寄ってくる。


「見せて」


俺は後ずさった。


「触るな。平気だ」


「どこが平気なもんか!」


エフレムがまっすぐに歩み寄り、俺の顎を乱暴に掴んで自分の方を向かせた。


「腕が異常なほど震えとるだろうが! それにお前の目だ……また完全に灰白色になっとるぞ、小僧。自分を焼き尽くす気か」


「だが、俺は奴らを片付けた」


俺は毒づき、老人の腕を振り払った。


「一発も撃たずにだ」


「分かった、好きにするがいい」


エフレムは言い捨てた。


「だが、そのガラクタがお前を引き裂き始めたとしても、助けを呼ぶような真似はするなよ」


何も答えず、俺は歩き出した。


その後、俺たちはセクターの最奥部に到達した。


目の前に、巨大な気密扉が立ちはだかっている。


壁には生体バイオメトリックスキャナーが鈍い光を放っていた。


ティラがアクセスポートにタブレットを接続した。


だが、スクリーンに乗せた指先がピタリと止まる。


「三層暗号化されてる。それに……なんてこと」


「どうした?」


エフレムがマガジンを確認する。


「システムが力任せのハッキング(ブルートフォース)を弾く設定になってる。対象者本人の認証が必要だ。『観察者オブザーバー』への直接照会……」


彼女は俺を見た。


「もしあんたの手のひらをこのスキャナーに押し当てたら、システムが感知した瞬間に、ヴァレリウスに俺たちの居場所が筒抜けになる。通知があいつの個人端末に直接送られるんだよ」


俺は無言のまま、スキャナーの冷たいガラスに手のひらを押し当てた。


スキャナーが鮮やかな赤色にフラッシュし、次いでカチリと音を立てて緑色に切り替わる。


重厚な扉が金属音を軋ませながらスライドし、垂直に伸びるシャフトが姿を現した。


「迎えに行くぜ、クソ野郎……」


俺は低く呟いた。


上層アッパー・レベルのどこかにある、無菌室のような執務室。


ヴァレリウスのスクリーンに、一つの通知が浮かび上がった。


対象サブジェクト:アイロン-01:認証完了。エレベーターシャフトに侵入】


ヴァレリウスは気付かれぬほどの微かな笑みを浮かべた。


そして彼の視線は、対象者のニューラルネットワークが致命的なオーバーヒートを起こしていることを知らせる警告表示へと、ゆっくりと滑り落ちていった。

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