表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生きる意志は私の最強のスキルだ  作者: Gambo
死の隣り合う世界
64/210

第64話:無限再帰

「オペレーターだと? 一体何の冗談だ」


俺の脳裏をそんな疑問がよぎった。


「ついに来たか」


天井の錆びついたスピーカーから声が響く。


「自分の手を見てみろ、坊主。もう感じているはずだ。この世界は、計算ミスによってできたバグに過ぎん」


「魔術などゴミクズだ」


声は続けた。


「人間どもはこぼれ落ちたクズを拾い集め、それを呪文と呼んで喜んでいる。だが、システムは漏れ出している。俺は何世紀もの間、自分の脳を使ってその穴を塞ぎ続けてきた。だが、もう疲れた。身代わりが必要だ」


嫌悪感をそそる、蛇のような不気味な回路の擦れ音が響き、壁から無数のケーブルが這い出てきた。


それらは一斉に俺を目指して伸びてくる。


「坊主、ずらかるぞ!」


エフレムが俺の肩を掴んだ。


「この化け物、お前を生きたまま喰らう気だ!」


「喰らうのではない」


タンクの中の老人が、しわがれた声で啼いた。


統合インテグレートするのだ。お前は数字が好きなのだろう。すべてを知りたいのだろう。コアとなれ。そうすれば、この世界のあらゆる原子の動きを見届けることができる」


「こんなゴミ溜めから原子が拝めるとは思えんね。お断りだ、クソ喰らえ」


「分かっていないな。もし俺が機能を停止し、お前がその座を引き継がねえなら、このセクター全体が吹き飛ぶ。エントロピーがすべてを飲み尽くすのだ」


(だったら死ぬんじゃねえよ、バカ野郎)


俺は心の中で毒づいた。


ケーブルが猛烈な勢いで突き出された。


一本がエフレムの足に巻き付き、奴を壁へと叩きつける。


ゼノが砲撃を試みたが、床から飛び出した鋼鉄の杭が奴の肩関節を貫通し、その場にロボットを縫い付けた。


俺はスキルを起動した。


精神臨界過熱クリティカル・オーバーヒート:全リミッター同時解除】


【モード:無限再帰インフィニット・リカーション


世界が一瞬にして設計図へと変貌する。


俺は持ちうるすべてのマナをシステムのインターフェースに注ぎ込み、無限ループを発生させた。


視界のすべてが純白の光に呑み込まれていく。


義手が急激に熱を帯びていくのが分かった。


一度。十度。百度。


金属が軟化し始める。右腕の関節が自重で歪んだ。


タンクの中の老人が激しく痙攣けいれんを始めた。


その時計仕掛けの目が、狂ったように回転する。


「やめろ! すべてを焼き尽くす気か!」


スピーカーが悲鳴を上げた。


「道連れだ」


スキルが俺の脳を焼き焦がしていく感覚の中、俺は告げた。


次の瞬間、ガラスチャンバーの中のタンクが限界を迎えて爆発した。


ガラスが木っ端微塵に飛び散る。


内部の老人は力なく項垂れ、その肉体は目の前で灰へと変わり始めた。


構造物全体が激しく揺れ動く。


「ゼノ!」


エネルギーの奔流をねじ伏せながら、俺は叫んだ。


不気味な金属音を立てて、ゼノは己の肩から杭を引き抜き、気を失ったエフレムを抱え上げた。


俺は一歩前に踏み出そうとした。


だが、両足がまるで鉛のように重い。


「私に続いてください! 業務用エレベーターの電力はまだ生きています!」


ゼノが俺の襟首を掴み、通路を引きずり始めた。


背後で施設全体が崩壊していく。


床がひずみ、天井が容赦なく剥がれ落ちる。


俺たちは狭い鉄製のエレベーターの箱へと飛び込んだ。


ゼノが凄まじい力でボタンを殴りつけると、それは粉々に砕け散った。


急加速の衝撃で、危うく床に叩きつけられそうになる。


下方からの爆風に押し上げられるようにして、俺たちはシャフトを猛スピードで急上昇した。


耳鳴りが酷い。


そして――閃光。


何が起きたのかを理解するまでに、少し時間がかかった。


唐突に、すべてが静まり返ったのだ。


[と、同時に]冷気が肌を刺した。


目を開ける。


頭上には、広大で漆黒の何かが広がっていた。


そこには、何千もの小さな光の粒が散りばめられている。


「これは……星、か?」


這い上がろうと身を起こしながら、俺は掠れた声で呟いた。


焼け焦げた右腕の側面が、何か柔らかく、湿ったものに触れた。


エフレムが隣に座り込み、顔の血を拭っていた。


「思ったより、あっけなかったな」


俺は静かに言った。


「お前、正気か? あそこで死にかけてたんだぞ! もう少し遅ければ、今頃……」


「恐怖とお前は決して相容れない、って自分で言ってたろ?」


「……あ、ああ、当然だ! 恐怖と俺は相容れん!」


(その意気だ、爺さん)


俺は心の中で思った。


「悪いな、ゼノ。お前の脚の修理は、もう少し後になりそうだ」


満天の星空を見上げながら、俺は言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ