第55話:橋の街
「飲め、坊主」
エフレムは錫のカップの縁を、俺の唇に押し当てた。
俺は貪るように飲み、 white-hot だった喉を潤したが、すぐに激しくむせた。
「ゼノが……必要だ……」
俺は体を動かそうとした。
「頼むからじっとしていろ」
エフレムが袖で俺の額の汗を拭った。
「さあ、肘を開けてくれ、エフレム。三枚目の装甲板の下に……黄色のワイヤーがある」
「うわ言を言うな。そんな腕をいじくり回したら、出血多量で死ぬぞ。お前に溶接されているんだぞ」
「肉じゃない……フレームだ。ベルトを切れ。銅を回収するんだ。ゼノが立ち上がらなければ……俺たちはここから生きて出られない」
彼が躊躇うのが分かった。
外では風が吹き荒れ、針のような雪が岩の裂け目に吹き込んでいる。
「やるしかないか」
彼は静かに呟いた。
金属と金属が擦れ合う嫌な音が響いた。
老人は鞄からナイフとペンチを取り出した。
「ここにボルトが……噛み込んでいるな」
彼は声を漏らした。
「びくともせん!」
「テコを……使え……」
俺の唇はかろうじて動いた。
「関節に、引っかけるんだ」
メキリ。
義手の内部を覆っていた金属板が弾け飛び、ガチャンと音を立てて洞窟の壁に激突した。
俺は絶叫した。
衝撃の振動が、鎖骨に打ち込まれたボルトを伝って直接身体を突き抜けた。
「見えた!」
エフレムの声が震えていた。
「ワイヤーが見えたぞ」
「引っぱれ……慎重に。ちぎるなよ」
彼は一センチずつ、それを引き抜いていった。
三十分後、エフレムは作業を終えた。
その手には、不格好に絡まり合った金属線の束があった。
「次はどうする?」
老人は寒さに震えながら尋ねた。
「ゼノのところへ……持って行ってくれ。首の……左の装甲の下に……ポートがある。二つの端子だ。そこを短絡させて……コンデンサの残響電荷を流すんだ……」
俺は、義手のバッテリーパックに残されたわずかな電荷を使い、どうやって回路を繋ぐかを必死に説明した。
エフレムがゼノに近づく。
洞窟の中は薄暗く、入り口から差し込むわずかな光だけが黒い装甲を照らしていた。
老人の作業は長くかかった。
彼の荒い息遣いと、ワイヤーが擦れ合う小さな音が聞こえる。
「端子が……見えた……」
彼は呟いた。
「繋ぐぞ」
俺は息を止めた。
心臓が早鐘を打つ。
カチリ。
静寂。
「駄目だ、動かん」
「もう一度だ……」
俺は歯を食いしばった。
「極性を確かめてくれ。エフレム、頼む……」
その時だった。
ゼノが、跳ねるように動いた。
その巨体が前方に傾き、敷かれていたソリが悲鳴を上げてひび割れる。
「シ……システム……復旧……」
ゼノの声は、金属を削るような軋み音だった。
「予備……電……力……零点……九パーセント……」
「ゼノ……」
俺は笑おうとした。
「戻ってきたんだな」
「アイロン……」
奴の頭部がきしみ音を立てて俺を向いた。
レンズが明滅する。
「貴殿の……肢体が……変形しています。摩耗率……危険域……」
「構わないさ」
俺は呟いた。
エフレムは壁に背を預け、その場にへたり込んだ。
「なんて忌々しい……」
彼はため息をついた。
「とんでもない悪夢だ」
尋問官の鞄のことを彼が思い出したのは、一時間ほど経ち、ゼノの容体がいくらか「安定」してからのことだった。
食べ物を探すうちに、彼はそれ以上に重要なものを見つけ出した。
「これを見てみろ」
彼は革製の筒を取り出しながら言った。
「あの外套の男が持っていた。上等な代物だぞ」
エフレムが羊皮紙を広げた。
地図だ。
俺は目を細め、薄暗い光の中でそこに描かれた記号を凝視した。
「ゼノ……データを照合しろ」
俺は言った。
「デー……タ……照合完了……」
ゼノがかすれた声で応じる。
「これは……北部山脈。赤色の領域は……『呪われし地』と記録されています」
「そこに何があるんだ?」
エフレムが尋ねた。
「そこには……『橋の街』が」
ゼノが沈黙した。
「当機のアーカイブでは……『オブジェクト4』とされています。先祖の工学拠点。そこには……工房があります。そこには……チタンが存在します」
「チタン……」
俺は繰り返した。
「距離は?」
俺は尋ねた。
「直線距離で……三百四十キロメートル」
ゼノが答えた。
「現在の状態で……到達確率は……二パーセント未満……」
「ゼロじゃないだけマシさ」
俺は力なく笑みを浮かべた。
「なら、希望はある」
エフレムはため息をつき、鞄から固くなったパンを取り出すと、それを真っ二つに割って俺に差し出してきた。
「三百キロ、か……」
彼は膝を揺すった。
「クソ長旅になりそうだな」




