第48話:死の岸辺
左目を開けた。
右目は粘り気のある何か――血か、それとも砂の混ざった海水かで、完全に塞がっている。
世界が横に傾いていた。
灰色の空。
灰色の砂。
そして、鼻先から数メートルの地面に突き刺さった、錆びた鉄くず。
【ステータス:12%。危険領域】
【痛覚ショック:75%抑制】
【警告:右肢が紛失しています。再調整を試行中……エラー】
(なんでただ俺を修復できないんだ? このクソシステムめ)
俺は心の中で激しく毒づいた。
「生きているか?」
頭上から、聞き覚えのある機械的な声が響いた。
「ああ。これ以上ないほど最高だ」
ゼノは岸に向かって一歩を踏み出した。
だが、その足が濡れた砂に膝まで埋まる。
彼が無理に動こうとすると、関節の油圧システムが長い軋み音を立てた。
危うく、水面に顔から突っ込みそうになる。
「慣れろよ……」
俺は笑おうとしたが、すぐに唇が裂けて血がにじんだ。
彼はゆっくりと拳を握り、そして開いた。
ギチ……ギチ……。
金属と金属が擦れ合う。
「これは……不便だな」
彼はそう結論づけた。
隣にはエフレムが座り込んでいた。
まるで、一晩で十歳も老け込んだかのようだ。
彼はどこからか拾った板の破片に必死にしがみつき、恐怖に満ちた目でゼノを見つめていた。
「おい……教えてくれ……こいつは、あいつなのか?」
エフレムは震える指を鋼鉄の巨人へと向けた。
「お前の頭の中にいた、あの化け物なのか?」
「あいつだよ、エフレム」
俺は左腕をテコのように使い、無理やり身体を起こした。
「ああ、そうかい。もちろん分かっていたとも。ちっとも怖くなんかねえよ」
(よく言うぜ)
俺は心の中で鼻で笑った。
「よし、とにかく火が必要だ」
俺は丸太に背を預けながら言った。
「エフレム、乾いたものを何でも集めてくれ。ゼノ、突っ立ってないでこっちに来い。水の問題を解決する」
「容器がない。それに、この腐った木材以外に燃料もない」
ゼノは散らばる枝の山を見回しながら言った。
俺は目を閉じた。
胸の中で『生きる意志』が脈動し始めるのを感じる。
「頭を使え。あそこを見ろ」
俺は、自分たちと一緒に岸に打ち上げられたがれきの山を指さした。
「リヒターの胸甲の破片だ。内側に凹んでいる。片方に海水を入れて火にかけ、もう片方を上に被せて冷やせば……」
「密閉システムのない、直火での蒸留か」
ゼノが言葉を遮る。
「ロスが大きすぎる……」
「ロスなんて知るか!」
俺は怒鳴ったが、その叫びはすぐに激しい咳へと変わった。
「いいからやれ」
彼のバイザーが二度、明滅した。
彼は立ち上がり、がれきへと歩き出す。
指ほどの厚みがある鋼鉄のプレートを拾い上げると、軽い軋み音を立てて力任せに折り曲げ、大雑把な器の形に成形した。
その間、エフレムは火床の前にしゃがみ込んでいた。
火打石がないため、ナイフを石に打ちつけて火花を散らそうとしている。
だが、その成果は惨めなものだった。
「私に任せろ」
ゼノの声が響く。
彼は火床に近づき、身を屈めて左腕を伸ばした。
手首の関節から、ちぎれたワイヤーが飛び出す。
一瞬の閃光。
電気アークの弾ける音。
次の瞬間、枝の下に敷かれた乾燥した苔が、勢いよく燃え上がった。
「そこまで『器用』なら、いっそ全部一人で片付けたらどうだ?」
エフレムは苛立ったように悪態をつき、身を引いた。
一時間後、最初の真水が器に溜まった。
得体の知れない臭いが鼻を突く。
だが、その温かい液体が喉を通った瞬間、俺は安堵のあまり涙が出そうになった。
「ここに留まるわけにはいかない」
俺は器をエフレムに渡しながら言った。
「追跡されるだろう」
ゼノは海の方を見つめながら同意した。
「私のパッシブセンサーが振動を感知している。6……いや、8つの動体だ。東へ約3キロ。急速に接近している」
「ゼノ。腕が必要だ」
「お前の組織はまだ修復していない。このような環境でのインターフェースのインプラントは……」
「インターフェースなんていらない」
ゼノが岸から運んできた鉄くずを横目で睨みながら、言葉を遮った。
「義手だ。左の肩甲骨の動きで、掴む動作を連動させるレバーシステムを組め」
「アイロン」
ゼノが一歩近づいた。
「お前の肉体は限界だ。今すぐ骨に直接鉄を固定すれば、死に至る可能性がある」
「知るかよ。捕まればどうせ死ぬんだ」
「それなら、少しでもチャンスがある方を選ぶ」
ゼノは長い間、沈黙した。
周囲には、焚き火のはぜる音と、押し寄せる波の音だけが響いていた。
「了解した」
ようやく、彼は言った。
「エフレム、一緒に打ち上げられたがれきからナイフを探し、赤くなるまで熱しろ」
「切開を始める」




