第45話:自己犠牲機能
ガラスの上にアイコンが明滅した。
文字は見知らぬ言語だったが、図面は……万国共通だった。
ポンプ、バルブ、タンクが見える。
14:48。
14:47。
画面の隅の数字が秒刻みでカウントダウンしていく。
ダイアグラムの赤いセクターが不気味に脈動していた。
俺はパネルの上で素早く指を動かし始めた。
ドンッ!
気密扉への重い衝撃が、俺の手を止めた。
俺たちが隠れている金属のプレートが激しく震動する。
ドンッ!
「リヒターだ」
エフレムが苛立ちを吐き捨てる。
「最初はタイマー、今度はリヒターか。クソ、次から次へと……」
俺はすぐさま遮断弁を緊急閉鎖する方法を探した。
見つけ、ボタンに手のひらを叩きつける。
接触が完了した。
だが、画面は頑なに同じメッセージを点滅させ続けた。
【エラー403:ロックプロトコルが有効です。核での手動承認が必要です】
「ロックされてる」
俺は机を力任せに殴りつけた。
タイマーが明滅する。10:12。
周囲を見回した。
広間の中央に一本の円柱がそびえ立ち、その内部で巨大なディスクが回転している。
ディスクの間を、青白い電気の火花が飛び交っていた。
「エフレム、よく聞け」
俺は彼の肩を掴んだ。
「あの扉は……リヒターに破られる。時間の問題だ。あっちの棚の裏まで這っていけ。見えるか? 遮蔽されている。もし俺が失敗してここが吹き飛んでも、そこなら数秒の猶予は稼げる」
「お前はどうする?」
「今に見せてやるよ」
俺は言い残し、核へと歩み寄った。
円柱のメンテナンスパネルをこじ開ける。
内部では、俺の頭ほどの太さがあるシャフトが、耳を聾するような風切り音を立てて回転していた。
数秒ごとにそれが跳ね上がり、緊急圧力開放のセクションが次々と開いていく。
タイマー:05:30。
ドンッ!
あと数分もしないうちに、奴が中に踏み込んでくる。
俺は回転するシャフトの前に立った。
熱気が肌を焼き、空気中に過熱されたオイルの臭いが立ち込める。
俺は、駆動ギアと筐体の間の狭い隙間に、右腕を突っ込んだ。
最初は、何も起きなかった。
結晶が鋼鉄と擦れ合い、激しい火花を散らすだけだ。
だが俺は、全体重をかけてその右腕をメカニズムの歯車へと強引に押し込んだ。
金属と金属が激しく軋む、耳をツンと刺す悲鳴。
目から涙が溢れ出た。
右腕が内部へと巻き込まれていく。
振動が骨に伝わり、肩関節を粉砕していくのが分かった。
結晶が、焼き入れされた鋼鉄に喰い込んでいく。
「いけ……! 壊れろ、このクソッタレが!」
床に足を突っ張り、俺は絶叫した。
結晶は、歯車よりも頑丈だった。
凄まじい破壊音。
シャフトの歯の一つが耐えきれずに弾け飛び、エフレムのすぐ近くにある棚の装甲を貫通した。
シャフトが激しく跳ね、歪んだ。
円柱全体が激しく激震する。
広間に火花が降り注いだ。
核の内部で何かが破裂し、濃い白煙が勢いよく噴き出す。
【警告:機械的故障。緊急リセットが中断されました】
タイマーが、00:04のところで停止した。
俺は膝から崩れ落ちた。
右腕はマシンの深部に完全に噛み込まれ、固定されていた。
感覚はない。
一切、何も。
「止まった……」
隠れ場所からエフレムが息を漏らした。
その直後、背後で重厚なチタン製のプレートが蝶番から引きちぎられ、凄まじい音を立てて床へ崩落した。
塵の雲が舞い上がる。
「タ……ゲッ……ト……」
リヒターが掠れた声を漏らす。
外部スピーカーが壊れた音を吐き出していた。
「ハ……カ……イ……」
続いて、天井のスピーカーからヴァレリウスの声が響いた。
「それを止めるとはな……」
彼は囁いた。
「機能維持のために自己犠牲を選べる道具か……実に見事だ。リヒター、老人は殺せ。少年は生かしておけ」
鉄の怪物が、一歩前に踏み出した。
『生きる意志』の限界負荷によって灰白色に染まった俺の瞳が、迫り来る脅威を捉えた。
「エフレム」
俺は静かに呼んだ。
「斬れ」
自分の肩に視線を向け、顎をしゃくる。
「早くしろ。奴がこれ以上近づく前に」




