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生きる意志は私の最強のスキルだ  作者: Gambo
死の隣り合う世界
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第42話:カスケード共鳴

「立ち上がろうとするな」


ヴァレリウスが静かに、穏やかな声で言った。


「エフレム……」


俺は声を振り絞った。


視線を横に向ける。


数メートル先で、老人が横たわっていた。


その姿は完全に打ちのめされていた。


唇を震わせ、その目は釘付けにされたようにヴァレリウスを凝視している。


「お前の連れなら無事だ」


ヴァレリウスは手を後ろに組み、淡々と言った。


「今のところはな。彼は興味深い変数イレギュラーだ。元最高幹部が、救世主を気取ってごっこ遊びとは……無意味だが、実に愉快だ。だが、私の目的は彼ではない」


男が足音もなく近づいてくる。


「自分を見てみろ」


磨き上げられた大理石に映る俺の姿を、彼は指差した。


俺は何も答えず、微かに震える左手の指先をじっと見つめていた。


「お前は固有種ユニークだ。人間でもなければ、怪物でもない」


ヴァレリウスは俺の周囲を円を描くように歩き始めた。


「そして、お前が言うところの『スキル』。あれはあまりにも魅力的で、私が無視するには惜しすぎる」


彼は俺の顔を、じっと覗き込んできた。


「……そんなんじゃない」


俺は声を絞り出した。


「お前は、そのスキルがお前を内側から蝕んでいると思い込んでいる。……実に甘美な嘘だ。お前自身が脳内で育て上げた、な」


魔導師は低く笑った。


「何故、そこまで俺のことを知っている……?」


「まだ理解できないか? 本当に愚かな小僧だ」


ヴァレリウスは嘲笑を浮かべた。


「〈死の沼地〉から始まったお前の旅路は、すべて私が敷いたレールの上だ。お前が歩んできた一歩一歩を、私はこの瞬間までずっと観察していたのだよ」


「だったら、何故俺たちはここにいる?」


上体を起こそうとするが、視界に黒い斑点がチカチカと飛び交う。


「俺に価値がないなら、とっくに殺すか無視していたはずだ。……つまり、何かしらの理由があるってことだろ」


「その通りだ!」


ヴァレリウスが歓喜の声を上げた。


「教団のシステムは老朽化している。沼地の源泉は枯渇しかけている。オベリスクは周期サイクルごとに要求するエネルギーを増し、燃料であるアコライト(信徒)どもは育成が追いつかないほどの速度で焼き切れていく。……我々には、新たな『原理』が必要なのだ。そう、お前のシステムがな」


彼は顔をさらに近づけてきた。


「お前自身とゼノを私に差し出せ。お前のスキル、そしてゼノが潜在意識の奥底に封印した記憶のセグメントへのアクセス権を開放しろ。引き換えに、お前にはすべてを与えよう。研究室、潤沢な資源、一流の職人、そして自由すらもな。……そこの老人は」


彼はエフレムに顎をしゃくった。


「完全に赦免し、南部の静かな農場を買い与えてやろう」


俺はエフレムを見た。


彼も俺の視線に気づき、かすかに、本当にわずかに首を横に振った。


『奴を信じるな』


そう、目で訴えかけていた。


「俺が頷いた瞬間、あんたはこいつを殺す」


俺は言い放った。


「まさか、何のために?」


ヴァレリウスは肩をすくめた。


「忠誠心の方が遥かに価値がある。よく考えるんだ、検体アルファ。お前もこの世界がいかに不完全であるか、見えているはずだ。この世界の魔法はただの混沌カオスだ。才能があれば勝ち組、なければ社会のゴミ。違うか? だがお前がいれば、その混沌を完璧な設計図へと変えられる。『魔導師』などという不確定要素のいない、すべてが計算し尽くされた文明を築くのだ」


『嘘だ』


突如、ゼノの声が割り込んできた。


その声はラジオの雑音のように激しく割れていた。


『奴は自分の権力を拡大したいだけだ。もしコードを奪われれば、全人類がこの城塞のアコライトと同じ『生体バッテリー』にされる。……それも、永遠に擦り切れん、最悪のバッテリーだ』


「……時間が欲しい」


俺は弱り切ったふりをして、がっくりと頭を垂れた。


「考えさせてくれ。……一度に、多くのことが起きすぎた」


「賢明な判断だ」


ヴァレリウスは満足そうに頷いた。


「一時間の猶予をやろう。この静寂の中で、じっくりと楽しむがいい」


彼は背を向け、扉へと歩き出した。


重厚なパネルが閉じられると、広間は稼働する機械の低い重低音ハミングだけで満たされた。


「アイロン……」


エフレムが囁いた。


「奴の言う通りにするな」


「分かってる」


俺はそう答え、ゆっくりと視線を自分の右手に落とした。


意識を集中させる。


指先の感覚はなかったが、内部の悍ましいエネルギーの圧力を感じた。


感覚があること自体、まだ脈がある証拠だ。


壁沿いには、静的障壁スタティック・フィールドを維持するための配電ピロンが並んでいる。


それらは440ヘルツの周波数で低く唸っていた。


もし、この右手を奴らのネットワークに強引に割り込ませて、ショート(短絡)させることができれば……。


『死ぬぞ』


ゼノが囁いた。


(知るかよ。一度は死んだ身だ)


心の中で毒づきながら、俺はピロンに向かって這い進んだ。


膝が大理石の床を擦り、白い滑らかな表面に血と泥の線を引いていく。


スキルが明滅した。


エネルギー残量、4%。


ピロンの根本に辿り着く。


そこには、魔導封印で保護されたアクセスパネルがあった。


左手をパネルに押し当て、溝を探る。


封印が微弱な放電を起こし、俺の手を弾き飛ばそうとした。


「ゼノ」


俺は呼んだ。


「アクセスコードをくれ」


沈黙が数秒間続いた。


それは永遠のようにも感じられた。


『……セクター4‐G。周波数変調、12.8』


ようやくゼノが答えた。


俺はデータを打ち込む。


パネルがカチリと軽い音を立ててスライドし、内部に張り巡らされた金色の導線と結晶のレギュレーターが露出した。


「エフレム」


俺は振り返らずに言った。


「明かりが消えたら、さっきのタンクへ走れ。あの中にはエアロックがある。遮蔽シールドされているはずだ。中に潜り込んで、すべてが収まるまで絶対に這い出るな」


「お前はどうするんだ……?」


老人の声が震えていた。


「今に見せてやるよ」


俺は剥き出しになった回路の上に、右手をかざした。


作戦は単純。


空間を越えた、完全なる自殺行為。


この右手に封じ込められた狂気的なエネルギーを使い、城塞の精製システム全体に『連鎖共鳴カスケード・レゾナンス』を引き起こす。


俺の計算が正しければ、この電圧の急上昇サージが衝撃波を生み、半径1キロメートル以内のすべての静的障壁を強制シャットダウンさせるはずだ。


俺は、剥き出しの接点に触れた。

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