第35話:真実の光
マットレスの端に腰掛け、背筋を伸ばして目を閉じる。
暗闇の代わりに、脳裏に広がったのは見慣れた座標グリッドだった。
【生きる意志:キャリブレーションモード】
マナに意識を集中させる。
脈打つエネルギーの流れは、まるで情報ハイウェイのようだった。
いくつかの区画には、未だに「赤いフラグ」が灯っている。
フルパワーで起動したスキルが、ずっしりとした肉体的負荷となってのしかかる。
胸の奥に広がるのは、粘り気のある凍てつくような冷気。
傷ついた回路へエネルギーを押し通すたびに、後頭部に鈍い激痛が走る。
それでも、俺は執念深く集中を維持した。
俺の目は瞬時に灰白色へと変わり、内部の変化を絶対的な、冷徹な鮮明さで捉えていく。
結晶を取り出し、手のひらで握り締めた。
応答は一瞬だった。
結晶は外部プロセッサのように機能し、俺の脳の演算能力の一部を肩代わりしていく。
俺はマナを回路の奥へと、セグメントごとに、ゆっくりと送り込み始めた。
ステップ1:肩部ノードの伝導性最適化。
ステップ2:過剰電荷のストレージへの排出。
ステップ3:周波数の安定化。
耳鳴りが、均一な低音へと変わる。
ある瞬間、俺の肉体と、あの濁ったガラスの破片との境界が消え去った。
閉じた瞼の裏に、部屋の光景が視える。
正確には、そのエネルギーの残滓が。
「……アイロン……閉じるな……共振が……」
声は細く、ひずんでいた。
息が止まる。
(ゼノか?)
「……第二……階層……エフレムは知っている……恐怖を……」
言葉は、電気放電のような鋭い破裂音で途切れた。
勢いよく目を開ける。
心臓が肋骨の内側で激しく鐘を鳴らしていた。
スキルがゆっくりとオフになり、本来の色を取り戻すまで、俺の瞳は冷酷で生命感のない灰白色を宿したままだったが――俺自身はそれに全く気づいていなかった。
エフレムは小屋の隅で何かをしていた。
彼が小刀で大釜の底を削り、重いため息をつく音が聞こえる。
(こいつには、警戒しておいた方がよさそうだ)
俺は心の中で、そう留保をつけた。
俺は再び目を閉じ、トランス状態へと戻ろうと試みる。
この奔流を制御しなければならない。
生きるためには、より速く、より正確に、より冷徹にならなければ。
エフレムは腰の鋭い痛みに顔をしかめながら、脚の不揃いなスツールに重々しく腰を下ろした。
彼は小屋の隅で座り込む少年に視線を向けた。
アイロンはもう二時間も身じろぎ一つしていない。
彼の周囲の空気は密度を増し、帯電しているようだった。
両手に握られた緑の結晶のファセット(面)を、ショートしたかのような微細な火花が走り抜けている。
老人はため息をつき、立ち上がった。
足を引きずりながら炉へと近づく。
大釜の中で沸騰しているのは、苦い薬草の煎じ液だ。
味は最悪だが、これほどの負荷がかかる中で神経回路が焼き切れるのを防ぐ、唯一の手段だった。
ひび割れたマグカップに液を注ぐ。
アイロンに近づき、エフレムはその足元の床へ、静かにカップを置いた。
それから老人は外へ出ると、背後の扉をきつく閉ざした。
ヴァルト閣下の執務室は、いつもと変わらぬ光景だった。
そこを満たすのは、魔術ランプの不妊で冷たい光。
あるいは、マナ・サーバーの規則的な駆動音だけが破る、完璧な静寂。
扉が音もなく左右に開いた。
明滅する端末を手にした、灰色の制服を纏う分析官が歩み寄る。
「閣下」
士官は頭を垂れた。
「第七セクターG、〈死の沼地〉です。十二分前、検知器がエネルギーの噴出を捉えました」
「続けろ」
ヴァルトは振り返りもせずに言った。
「固有波形が、プロトタイプ『アルファ』と完全に一致します」
「『検体アルファ』が見つかった、と言うのだな?」
ヴァルトが地図に近づくと、それは従順に拡大され、灰色の沼地が映し出された。
「信号は短時間でしたが、極めて強力でした。強制的な三点測量、あるいは深い共振の可能性があります」
ヴァルトがホログラムの表面に指を触れた。
北の回廊エリアで、赤い点が点滅を始める。
「『扇』を展開しろ。探査球を五機浮上させ、掃討セクターへ向かわせるのだ」
「閣下……」分析官が言い淀む。「あそこは境界地帯です。エーテル流が不安定で……」
「潮流など知ったことか。【真実の光】モードを起動しろ。サージの発生地点から半径五マイル以内のあらゆる生命体を抹殺せよ」
「欠陥品を発見した場合は、生かして捕らえろ。――エフレムを見つけたなら、その場で処刑しろ」
ヴァルトは再び窓へと向き直った。
大要塞の尖塔の向こうで、雷雲が湧き上がろうとしていた。
「それから〈狩人〉を放て」彼は付け加えた。
「高速型ゴーレムだ。泥の一インチに至るまで這い回らせろ。今日中に検体を回収する」
エフレムは小屋の入り口に立ち、湿った冷気を鼻から吸い込んでいた。
普段のこの時間なら、腐った水溜まりから沼鳥の鳴き声や、泥濘の魔獣の地響きのような唸りが聞こえるはずだった。
だが今、沼地はまるで息を潜めている。
突如として、ねじ曲がった枯れ柳の梢から、黒いカラスの群れが飛び立った。
それに続くように、数羽の大きなサギが乾いた葦の茎をへし折りながら、騒々しく羽ばたいていく。
老人は胸をさすった。
空気がにわかに密度を増し、舌の根にオゾンと焦げた銅の鋭い味が残る。
大気中の魔力が凝縮を始め、探索網の厳格な幾何学ラインを構築しつつあった。
(見つかったか)
エフレムは冷徹な確信を抱いた。
彼は身を翻し、素早く小屋の内部へと戻る。
アイロンはまだ同じ姿勢のまま座っていた。
床に残された薬草のカップはすでに冷め、濁った液体の表面には薄い油の膜が張っている。
老人は、スキャナーの逆流パルスによって少年が焼き尽くされる前に、力ずくでトランス状態から引きずり出そうと、骨製の小刀へ手を伸ばした。
だがその瞬間、アイロンは歯の隙間から鋭く息を吸い込み、目を開けた。
少年は荒い呼吸を繰り返している。
その額は冷や汗で光り、右手の指は胸元の上着の生地を強烈に握り締めていた。
エフレムが言葉を発するよりも早く、アイロンの内ポケットにある結晶が、低く震えるような不穏なうなり声を上げ始めた。




