第33話:深紅の糸
藁のマットレスの上に体を起こすと、昨日からの凝りのせいで首がボキリと派手な音を立てた。
エフレムはすでに起きていた。
古い小舟の残骸を組み合わせて作った作業台の前に立ち、小刀か、あるいは細かなルーンが刻まれた骨製のスクレイパーのような道具を黙々と磨いている。
「掻くな」
振り返りもせず、奴が言った。
「掻いてない」
俺はぶつぶつと返した。
だが、乾燥したかさぶたの下の痒みは、耐え難いほどだった。
「起きろ。夜間に北で魔力の噴出があった。マナがすべて南の回廊へ流れていった。沼の結界が再起動するまで、あと3時間だ」
脂じみた布に包まれた、固くなったパンの切れ端が放り投げられた。
皮は石のように硬かったが、中には塩漬けの脂身が薄く挟まれていた。
ここ数日で最高の朝食だ――それを咀嚼しながら、机の上の小さな緑色の箱に目をやる。
薄暗い朝の光の中で、内部の結晶はかすかに輝いているだけで、まるで濁ったガラスの破片のようだった。
「どうしてそこへ行くんだ?」
最後の切れ端を飲み込みながら、俺は尋ねた。
「お前の魔力がどれほど使えるかを見るためだ。それと、教団の罠をどれだけ見分けられるかもな」
俺たちは外へ出た。
「先に行け」
エフレムが命じた。
俺は足を止めた。
「本気か?」
「本気ではない。だが、俺が先に行けば、お前は足元を見る代わりに俺の背中ばかり眺めることになる。行け。覚えておけ、あまりにも都合が良く見えるものはすべて罠だ」
最初の一歩を踏み出す。
ブーツがべたついた黒い泥の中に、じょぼりと沈み込んだ。
俺は強引に身体の力を抜き、一瞬だけ目を閉じた。
霧の灰色はそのままであったが、その中を無数の糸が走り始めた。
蜘蛛の巣のように細く、微かな光を放ちながら脈動している。
大半の糸は濁った黄色――大地の自然な奔流、腐りかけた根、水の動き。
しかしその隙間に、まるで不格好な縫い目のように、鮮やかな赤の魔力線が編み込まれていた。
「一つ目が見える」
俺は囁いた。
「三歩先、小道を横切っている。二本のハンノキの間に張られている」
「何に連動している?」
「音だ。空気の振動」
「どう回避する?」
「右だ。あそこに盛り土がある、苔が足音を消してくれる」
右へと移動する。
一瞬、罠の振動が微かに揺らいだのを感じた。
だが、ありがたいことに作動はしなかった。
「立ち止まるな」
エフレムが呟いた。
「滑らかに動け」
一時間ほど歩いた。
両脚は鉛のように重くなり、破壊された腕の疼きのせいで視界に斑点が飛び交う。
俺たちは、誰かの軍服の残骸――白い骨にこびりついた灰色のボロ布――が水面に浮かぶ、淀んだ水路を通り過ぎた。
このあたりは結界が濃い。
赤い糸が、複雑で入り組んだ模様を編み上げていた。
「待て」
エフレムが俺の肩に手を置いた。
予期せぬ制止に、俺は危うく、目立たない小さな隆起を踏みつけるところだった。
「見えるか?」
彼は葦の茂みを指差した。
草の合間を、波紋すら立てずに、黒く油じみた影が水面を滑るように進んでいた。
黒木と骨で作られ、ルーンの刻まれた鎖に巻き付けられた、背の高いゴーレム。
顔面は滑らかなプレート、腕の代わりには長い骨の棘が生えていた。
「俺たちを捜しているのか?」
かすれる声を絞り出し、俺は囁いた。
「異常を探している。お前のポケットにある結晶は、奴にとっては燃え盛る松明と同じだ。恐怖はマナに波紋を広げる。落ち着け、さもなければ奴はこちらに向き直るぞ」
ゴーレムの影が水路の曲がり角に消えた時、俺はようやく息を吐き出した。
「先へ進むぞ」
エフレムが言った。
「あの古い柳が見えるか? その根元に隠し場所がある。結晶がお前の神経を焼き切るのを止めたいなら、銅のクランプと錬金塩が必要だ」
柳の元へ到達した。
その根はひっくり返り、黒い土とうごめく白い虫を露出させていた。
エフレムが穴を掘り始め、俺は周囲を警戒した。
根の間に、奇妙な輝きがあるのに気づいた。
赤でも、黄でもない――淡い緑色の輝きだ。
俺はそこへ手を伸ばした。
「触るな!」
エフレムが叫んだが、遅かった。
指先が、冷たい金属に触れた。
周囲の赤い糸が、鮮血のような真紅に爆ぜた。
一時間前に回避したはずの振動トラップが、耳から血が噴き出すほどの高周波で鳴り響く。
足元の地面が激しく揺れた。
「馬鹿者が!」
エフレムが俺の首根っこを掴み、後ろへと引きずり戻した。
「それは防衛回路だ! 回路を短絡させやがった!」
霧のどこかで、応答するような口笛が響いた。
ゴーレムが信号を感知したのだ。
奴は即座にこちらへと突進し、骨ばった脚で葦をなぎ倒しながら迫ってきた。
「走れ!」
老人が怒鳴った。
「道を外れろ――盛り土を跳べ、赤を突き抜けろ! 結晶だ! 結晶を掴め!」
俺は小さな箱をひったくった。
それは手の中で脈動し、指を焼き焦がして水ぶくれを作った。
「それを握り締めろ!」
エフレムが、迫り来る魔力線を骨製の杖で叩き落としながら叫ぶ。
「強制的に吸い込ませるんだ!」
俺は目を瞑った。
マナを「飲む」方法など知らない。
だからただ、己の手が漏斗であり、結晶が底なしの深淵であるとイメージした。
手の中の緑の輝きが爆ぜる。
周囲の赤い糸が色褪せ始め、そのエネルギーがまるで隙間に吸い込まれる煙のように、箱の中へと引きずり込まれていった。
「……うまくいったか?」
膝から崩れ落ち、掠れた声で問う。
肺が引き裂かれそうだった。
エフレムは柳の根本の、暴かれた土の前に立っていた。
その手には小さな包みが握られている。
「うまくいった」
奴は険しい顔で言った。
「だが、ズラかるぞ。急げ。ゴーレムどもにセクターを包囲される前にな」
帰り道は地獄だった。
エフレムは絶えず周囲を警戒しながら、ほとんど俺を担ぎ上げるようにして進んだ。
何度か、すぐ近くで〈狩人〉どもの口笛を聞いたが、霧と、俺が作り出したマナの空白が奴らの追跡を狂わせた。
ようやく小屋の扉を閉め切った瞬間、俺は床に倒れ込んだ。
エフレムは机へと歩み寄り、包みを放り出すと、両膝に手を突いて重々しく腰を下ろした。
「死にかけたぞ」
奴が低い声で言った。
「すまない、だが……俺は……違うものを見たんだ。緑色の。それで……」
「生き残ることが最優先だ。それを忘れるな」
奴はパイプに火をつけた。
「明日だ」
エフレムが煙を吐き出す。
「お前がやらかしたことの後始末は」
「分かった」
俺は言い、同時に思考した。
――本当に、何もかもが、心底嫌になる。
いつか、平穏な人生を手に入れられる日が来るのだろうか。
一瞬だけ目を閉じ、重いため息を吐き出す。
(ゼノ……お前は今、どうしている?)




