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第222話:最初の家

アイアンは軽く指を鳴らし、瞬時にスライムの運動エネルギーを凍結させた。


緑色がかった塊をよく見ると、スライムの体内には枯れ枝や邪魔な石ころ、細かいゴミなど、あらゆる自然の異物が取り込まれていた。


彼はその質量の中心に局所的な重力を作用させた。ポリマー自体の密度が変化し、通常の重力に従って、すべての異物がスライムからボロボロと下へこぼれ落ちた。


アイアンの目の前には、完全に不純物のない、透明な液体ポリマーだけが宙に浮いたまま残された。


「さて……」


アイアンは浄化されたゲルの体積をざっと見積もった。


「必要なスライムの量は、だいたい百五十ミリリットルってところか……」


頭の中でリュモンの低くかすかな駆動音が響き、計算の正確さを肯定するとともに、視界の隅に必要な数値を弾き出した。


それからの十五分間、アイアンは周辺の窪地や洞窟を巡ってはスライムを見つけ、即座に凍結させ、重力操作で内部のゴミを取り除いていった。


最後の大きなスライムを浄化し終えると、アイアンはその透明な塊を全体の球体へと継ぎ足した。


そして、アイアンは空間を折り畳んだ。


次の瞬間、彼は野営地キャンプのど真ん中に実体化した。


だが、足が地面に触れた途端、焼けるような激痛が頭を貫いた。


足元の地面が急激に横へとスライドする感覚。目の前の世界がぼやけて回転し、耳の奥で爆音が鳴り響いた。


アイアンの体が大きく右に傾く。どうにかバランスを保ち、巨大なスライムの球を落とさないよう必死に意識を集中させながら、彼は片膝を突いた。


呼吸が乱れ、吐き気が込み上げてくる。


「クソッ……」


アイアンは内心で毒づいた。


「ほんと、腹が立つな……」


めまいの発作をねじ伏せ、アイアンは立ち上がった。動くたびに、後頭部で脈打つような痛みが響く。


ふらつく足取りで、彼はベッドへと向かった。


アイアンは宙に浮かせた球体を木枠の真上へと運び、一気に保持を解除した。


液状の塊は数秒のうちにパレットの全面へと均等に広がり、隅々まで満たして、完璧に平らなゼリー状の土台へと変化した。


「よし、まずは第一段階クリアだ……」


荒い息をつきながら、アイアンは呟いた。


彼は少し離れた場所に置かれていた、ふかふかの獣毛の束に振り返った。その毛の束は宙に浮かび上がり、アイアンの後をついてきた。


技術者エンジニアは森の少し奥へと足を進めた。


数分後、木々の間で立ち止まると、アイアンは松の幹に肩をもたせかけた。


宙に浮く毛玉に向かって両手を突き出し、その質量全体に強力に圧縮された空気の奔流を流し込む。


空気圧が瞬時に、毛に絡みついた泥、細かいゴミ、寄生虫、そして臭いの分子に至るまで、すべてを弾き飛ばした。


一秒後には、完全に純白で清潔な毛の塊だけが宙に浮いていた。


毛を落下させることなく、アイアンはその周囲に高周波の超音波振動を発生させた。


毛の一本一本が猛烈な速度で擦れ合い、微小なキューティクル同士が強固に絡み合っていく。


わずか十秒。ふわふわだった毛束は、もはや崩れることも型崩れすることもない、高密度で弾力性のある完璧な形状のマットレスへと圧縮された。


アイアンは一瞬目を閉じ、再び押し寄せてきた吐き気を抑え込むと、静かに息を吐き出した。


しばらくして、アイアンは野営地へと戻った。


木枠に近づき、スライムの凍結を解除する。


パレット内の透明な塊は即座に活気を取り戻し、微かに震えながら壁面を這い上がろうとした。


アイアンはゲルの最上層にエネルギーを集中させた。


表面の分子同士を強力に結合させ、強制的に重合させる。


見る間に、スライムの表面は頑丈で伸縮性のあるゴムのような「皮膚」で覆われた。


だが、その瞬間。


体内の圧力が急激に跳ね上がり、アイアンは目尻から頬を伝って血が流れ落ちるのを感じた。


彼は手で口を覆い、激しく咳き込んだ。目の前の景色が真っ赤なベールに覆われ、歪んでいく。


『クソッ……まだガラスも作らなきゃならないのに……』


そんな思考が意識を掠めた。


立っているのがやっとの状態で、アイアンは力のベクトルを誘導し、マットレスを慎重に下ろした。


とうとう膝から力が抜け、彼はそのままベッドへと崩れ落ちた。


クッションが柔らかく沈み込み、完璧に衝撃を吸収して、アイアンの体の形にぴったりと寄り添う。


技術者は仰向けのまま、荒い息を繰り返した。


視界を遮る血の滲んだ膜越しに、空で燃え盛る太陽を見つめ……


その一秒後には、深い眠りへと落ちていった。


それからしばらくして。


ノアが再び巨大な丸太を肩に担ぎ、広場の端に姿を現した。木材を地面に投げ捨てると、彼は野営地をぐるりと見渡す。


ベッドの上では、アイアンがピクリとも動かずに横たわっていた。


ノアは彼に一瞬だけ視線を留め、すぐに背を向けて、枝を広げた松の木陰へと向かった。そこにはエリリアがいた。


彼女は枝の陰で力を回復させているところだった。


「この森はモンスターが多すぎる」


彼女の前に立ち止まり、ノアは口を開いた。


「おい、聞いてるのか?」


「ええ、聞こえてるわよ……それがあなたにとって何の不安になるの? むしろ喜ぶべきじゃない。今は邪魔しないで」


「自分の立場を忘れたのか?」


ノアが静かに問う。


エリリアはいら立ちに顔を歪めた。


ノアの足元の地面が隆起し、土を突き破って現れた木の根が、彼の足首に絡みつこうとする。


だが、ノアはすでにブレた残像を残して消えていた。


同じ瞬間。広場から五十メートル離れた場所で、茂みから飛び出そうとしていた巨大な獣の背後にノアが現れる。


彼は勢いを殺すことなく、反転しながらモンスターの頭蓋に剣を突き立てた。


死骸から剣を引き抜き、ど黒い血を振り払うと、ノアは森の深部へと視線を向けた。


「それにしても……」


彼は自分自身に語りかけるように、低く呟いた。


「本当にモンスターの数が多すぎる」


その頃、広場の中央にはエリザが姿を見せていた。


野営地のど真ん中で堂々と眠りこけているアイアンを目にして、彼女は鼻を鳴らした。


「何、あんなところで寝転がってるのよ……」


とはいえ、わざわざ彼を叩き起こすことはしなかった。


代わりにエリザは焚き火の準備に取り掛かった。平らな場所から落ち葉や石を手際よく払い除け、太い枝や丸太を周囲に並べて火床を整えていく。


完成した焚き火台を眺めながら、エリザは朝に狩ったイノシシの肉をすでに食べ尽くしてしまったことを思い出した。


「どうしようかしら?」


そう呟いた。


ちょうどその時だった。茂みの奥から再びノアが姿を現したのだ。


今度彼が引きずっていたのは、背中から一本の角を生やした、筋骨隆々の巨大な獣の死骸だった。


エリザは元気よく彼に手を振った。


「あ、ちょうど良かった! それ、解体してくれる? お昼の準備をしたいの」


ノアは頷き、焚き火台のそばに獲物を放り投げた。


「ああ」


それから四十分ほどが経過した。


エリザが用意した焚き火の上で、串刺しにされた獣の肉がパチパチと音を立てている。


香ばしく焼ける肉の匂いと、微かな話し声のざわめきが、次第にアイアンの眠りを突き破っていった。


彼はビクッと体を震わせ、ゆっくりと目を開けた。


血のベールは完全に消え去り、視界は再びクリアになっている。


だが、強烈な直射日光が容赦なく顔を焼いた。アイアンは左手を上げ、手のひらで日差しを遮りながら低く呟いた。


「クソ……このままじゃ日焼けで丸焦げだ」


マットレスに手をつき、アイアンは上体を起こした。


少し右の焚き火の周りでは、すでに一行が集まり、肉が焼き上がるのを気長に待っていた。


目を覚ましたアイアンに気づくと、エリリアが空中で嬉しそうにくるくると回った。


「あ、お寝坊さんが起きた!」


アイアンはベッドから降り、ゆっくりとした足取りで焚き火に近づくと、皆のそばの丸太に腰を下ろした。


「ベッドはどう? ちゃんと寝られた?」


エリリアが尋ねる。


「あんなにすぐ眠っちまったんだから、出来は良かったんだろうよ」


アイアンは静かに答え、視線を向けた。


「それより、お前は回復したのか?」


エリリアは素早く、そして自信満々に何度も頷いた。


「なら、家の建設に取り掛かってくれ」


アイアンはすぐに本題に入った。


その時、肉の串を回していたエリザが、一番よく焼けた部分を切り落とした。


彼女はそれをクラークに渡し、彼はすぐさま自分の班の最年少の少年たちにそれを回した。


「あんたって、いっつもあの子に仕事ばかり押し付けてるわね。せめてご飯の後にさせてあげたらどうなの?」


エリザが厳しい口調で言った。


「だが……」


アイアンは彼女を見据えて反論しようとしたが、ふと口をつぐみ、内心で首を傾げた。


『なぜだ……? なぜ俺は、こいつに口答えできないんだ?』


短い沈黙の後、アイアンはただ深くため息をついた。


「わかった……食後でいい」


エリリアが勝利を誇示するように宙を舞った。


エリザはさらに肉を切り分け、皆に配っていく。エリリアも美味しそうにご馳走に食らいついていた。


アイアンに肉を差し出しながら、エリザが尋ねた。


「はい、どう?」


「ああ……」


アイアンは短く応じ、肉を受け取った。


肉を咀嚼しながら、他のメンバーが楽しげに談笑するのをよそに、彼は再び自分の思考に没頭した。


『さて……ベッドはある。家自体はエリリアが作る。あとは窓ガラスを作るだけだ……』


アイアンは頭の中で手順を組み立てていく。


『ガラスを作るの自体は簡単だ。まず、エリリアに砂を具現化してもらう——それができればの話だが。次に俺が電磁気を操作して、砂のくすみや濁りを飛ばし、加熱する。その後、ベクトルの力で液状のガラスを宙に保持し、外部からの振動を完全に遮断。重力の作用で、溶けたガラスは自ずと均一な厚さの完璧な正方形に広がるはずだ。そこから徐々に温度を下げていく。表面だけを空気で急速冷却し、中心部には熱を残す。最後に圧力を一点に集中させ、完成したガラス板を窓のサイズに合わせて完璧な長方形に切り出す』


アイアンは肉を飲み込み、エリザを見た。


『理論は完璧だ。だが……果たして今日の俺にそこまでやる余力があるか……?』


「エリザ」


彼は声に出して言った。


「肉をもう一切れ頼む」


腹を満たした昼食後。


皆がそれぞれの持ち場へと散っていき、広場にはアイアンとエリリアの二人だけが残された。


「まずはエリリア、砂の山を作ってくれ」


と、アイアンは指示を出した。


「何に使うの?」


精霊は不思議そうにしたが、文句は言わずに小さな手を振った。


彼らの目の前の虚空から、サラサラと砂の山が降り注いだ。


「窓のためだ」


アイアンはそう説明し、彼女の顔をじっと見つめた。


「いけそうか?」


「ええ! やれるわよ!」


エリリアは自信たっぷりに叫び、少し高く舞い上がった。


「違う。俺のベッドの上に直接、家を建てられるかってことだ。後からわざわざベッドを縮小して運ぶ手間を省きたいんでな」


エリリアは空中でぴたりと止まり、目を細めて自信なげに声を伸ばした。


「えーっと……たぶん!」


アイアンは泳いでいる彼女の目を見て即座に悟った。


(こいつにやらせたら、間違いなく俺のベッドが倒壊した丸太の下敷きになるな)


「……わかった」


彼はため息をついた。


「普通に、何もない場所に建ててくれ」


「了解!」


エリリアは目をギュッとつむり、集中した。


彼女の前に再び小さな緑色の光球が輝き出す。球体は急速に膨張し、縦横に伸びていき、ほんの刹那で家の形を形成した。


一秒後には魔法の光が散り、彼らの前には立派な木造の家が姿を現した。


アイアンは近づいて建物を観察した。


壁も立ち、屋根も乗っている。だが、建物全体が微かにグラグラと揺れていた。


「こことここを修正しろ」


屋根付近の不安定な接合部を指差し、アイアンが指示を飛ばす。


「あ、ちょっと待って!」


エリリアが壁に触れると、木材が瞬時に隙間なく癒着し、家は頑丈になった。


「よし。じゃあ、二軒目だ」


「うん!」


彼女は気合十分に答えた。


精霊は再び緑の球体を作り出す。


今度出来上がった二軒目は、一軒目よりもはるかに真っ直ぐで、頑丈で、美しい仕上がりだった。


エリリアは誇らしげに満面の笑みを浮かべ、建物の周りを飛び回り始めた。


「見た!? 私の力、見たでしょ!」


間髪入れず、彼女はすぐさま三軒目に取り掛かった。


「見てて、次はもっと凄いの作るから!」


「だが、慎ちょ……」


光球が急激に発光しすぎた。魔力の制御が乱れ、家全体ではなく、たった一枚の「木の壁」だけが空中に形成されてしまった。


その壁が傾き、真下にいたエリリアに向かって倒れ込んできた!


「きゃああっ!」


精霊は悲鳴を上げ、ギリギリのところで倒壊する壁の下から飛び出した。


アイアンは、一秒前に言いかけた言葉を、極めて冷静なトーンで最後まで言い切った。


「……うにやれ、と言おうとしたんだ。調子に乗るとどうなるか、これで自分のミスを理解したな」


エリリアはバツが悪そうに空中で静止し、ぶつけた肘をさすりながら、崩れ落ちた壁を見つめていた。


「作れるだけ家を作っとけ」


そう言い残し、アイアンは砂の山へと向き直った。


「俺はその間にガラスを作る」


砂の山に近づき、手を伸ばす。こめかみの奥では、すでにズキズキとした痛みが鳴り始めていた。


砂が空中に舞い上がり、渦を巻く。


アイアンは砂粒の中に強力な電磁パルスを通し、くすみや微小な不純物を弾き飛ばした。


そして、その空間の温度を一瞬にして千五百度まで引き上げる。


ほんの一瞬で、砂はドロドロに溶解した。


彼は灼熱の塊を空中に保持し、外部の振動を完全に殺した。


重力の影響で、液状のガラスは完璧に均一な厚みを持つ、平滑で四角い板へと広がっていく。


そこへ急激な空気の層をぶつけて表面だけを冷却し、中心の熱を残したまま固めた。


圧力を一点に収束させ、アイアンは完成したガラス板を、窓枠のサイズに合わせた均等で透明な長方形へと切り分けた。


彼は目を強く閉じ、まぶたに指を押し当てて、こみ上げてくる激痛の波に耐えながら深く息を吐いた。


最初の二枚のガラスを手に取り、完成している一軒目の家に向かうと、カチッという軽い音とともに窓枠にはめ込んだ。


残りのガラス板は、アイアンが自ら運び、マットレスの上に直接寝かせて置いた。


その時、建設現場の方から再び「バキッ! ドゴォン!」という轟音が響き、続いてエリリアの激怒した甲高い悲鳴が聞こえてきた。


「もうっ、なんでまた失敗するのよーっ!?」


だがアイアンはそれを意に介さず、外に放置された自分のベッドへと向き直った。


ドアの枠を広げることなくこの巨大な構造物を家の中に運び込むため、彼は木枠の上に手のひらをかざし、木材内部の「分子間圧力」を一時的に増大させた。


木材の構造内にある炭素原子同士の距離が、急速に縮まっていく。


見る見るうちに、ベッド全体がフレームごと正確に半分に収縮し、極めてコンパクトで高密度な塊へと変化した。


枠の中にあるスライムと獣毛も、その圧力によって余分な空気を押し出され、一緒に圧縮される。


ベッドは小さくなったが、その質量自体は全く変わっていない。


力のベクトルを使って縮小したベッドを持ち上げ、アイアンはそれを家の入り口へと向かわせた。


ベッドは宙を滑るように移動し、広々とした室内へと入り込む。


部屋の隅の決められた場所にベッドを下ろすと同時、アイアンは即座に過剰な分子間圧力を解除した。


木材内の炭素原子の距離が、瞬時に元通りに復元される。


「ブゥン……ピシッ」という微かな音を立ててフレームが滑らかに膨張し、スライムと毛の層が空気を含んで元通りに広がり、ベッドは再び元の巨大な姿を取り戻した。


そして次の瞬間。


アイアンの足から完全に力が抜け落ちた。


彼はマットレスに向かって倒れ込んだ。奇跡的に、脇に置いてあった残りの窓ガラスの板には当たらなかった。


うつ伏せに倒れたまま、強張っていた筋肉から少しずつ緊張が抜けていく。


アイアンは重い首をどうにか動かし、建物の内装を見回して、低く呟いた。


「床まで、全部木造かよ……」

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