第218話:古の物語
「本当に死体だな……」
開かれた棺に少し身を乗り出し、アイロンは低い声で呟いた。
「ええ」エリリアが短く応じる。
皮膚には灰緑色や褐色の斑点が浮かび、肉体そのものが内側から流れ出たか、あるいは萎んでしまったかのようだった。
目は頭蓋の奥深くへと陥没し、完全に黒ずんで薄くなった唇は引きつり、不気味に歯を剥き出しにしている。
皮膚は濡れて弛んでおり、指で触れれば表皮がズルリと剥がれ落ちそうだった。
衣服は粘り気のある黒い体液をたっぷりと吸い込み、髪の毛は頭皮から完全に剥がれ落ちている。
そして、それに相応しい臭気が漂っていた。鼻腔を瞬時に塞ぐような、重く、ねっとりとした悪臭だ。
アイロンは数秒間、無言でそれを見つめていた。
「全部開けてみよう」少しの間を置き、アイロンは息を吐き出すように言った。
「オッケー」エリリアは無駄な反論をすることなく同意した。
足元の地面が鈍く鳴動した。
土が蠢き、地中深くに埋められていた木箱を、そっと表面へと押し上げていく。
ほんの五分ほどが経過した。
やがて、すべての棺が泥の上に並び立った。
彼女がもう一度手を振る。
魔法の波動が木製の蓋を引っ掛けた。
乾いた破裂音、軋み、そして土の擦れる音とともに、それらは一斉に持ち上がり、棺から吹き飛んで、その中身を露わにした。
同時に、アイロンは棺の列の間をゆっくりと歩きながら、ノアとエリリアに向かって口を開いた。
「この棺に入ってる奴ら、全員死んでるな」
死体の状態は様々だったが、五体満足な者は一人もいなかった。
手足が欠損している者、胴体が半分吹き飛んでいる者、あるいは頭部そのものがない者。
アイロンは粗末な木箱に沿って歩き続け、無惨に引き裂かれた顔を注意深く覗き込んでいく。
ある場所で、彼は一つの棺の傍らに立ち止まった。
「ここにいた時、何人かは見覚えがある……」アイロンは一秒ほど動きを止め、死体を見つめた。「例えばこいつ、ロランだ。ひどい有様だな」
エリリアは少し離れた空中に留まり、開かれた箱を見渡していた。
「ここにはウェイランドやヴァルターはいないの?」と彼女が尋ねる。
「少なくとも、俺の目には見当たらない」アイロンが答える。「可能性は二つだ。死んだか、生き延びたか。だが……」
彼は言葉を区切り、墓地の境界線の向こう側――かつての建造物があった場所に広がる、巨大なクレーターと廃墟へと視線を移した。
「十中八九、前者だろうな」少しの間を置き、アイロンはそう結論づけた。
重いため息をつき、彼は首を振る。
「分かった。エリリア、棺を元の状態に戻してくれ。先へ進むぞ」
「わぁーかったわよぅ」エリリアは顔をしかめて応じた。
彼女が再び小さな手を振ると、土が柔らかく解けた。
地中からしなやかで乾いた根と、分厚い芝土の層が浮かび上がる。
それらは木壁を丁寧に包み込み、棺に蓋を被せると、ゆっくりと土の中へと引き摺り込み、掘り返した痕跡をすべて綺麗に平らげた。
そして、最後の蓋が泥の層の下に消えたまさにその瞬間。
アイロンの網膜に、リュモンからの明確な文字列が明滅した。
【警告:魔法への安全なアクセスが解放されました】
「すぐ戻る」ノアとエリリアに言い残す。
二人が返事をする間もなく、彼は目の前の空間を折り畳んだ。
周囲の現実が歪み、小さな破裂音と共にアイロンは消失。
次の瞬間、彼は遥か上空――ドルンハイムの真上に姿を現していた。
周囲の森はほぼ完全に焼け落ちていた。
見渡す限り何キロにもわたって、黒い泥と灰、そして炭化した木々が続いている。
都市は廃墟と化していたが、その惨状の中で、高さ28メートルの塔だけが異彩を放ってそびえ立っていた。
その周囲と境界線の至る所で、膨大な数の人間が慌ただしく動き回っている。
アイロンは無関心な視線で塔を見下ろし、心の中で思った。
『まったく……あんなもの、今の俺には何の価値もないな』
その瞬間、脳内にリュモンの声が響く。
「警告。境界エリア内に、約六万三千の兵力を確認しました」
「なるほどな」アイロンは静かに鼻を鳴らす。
その時、地上の誰かが空を見上げた。
澄み切った空に浮かぶ人影に気づいた指揮官の一人が、即座に喉を裂くような声で叫んだ。
「上空に人影! 撃てェ!」
兵士たちが連鎖的に、一斉にライフルを構える。
弾丸が中間の距離まで到達する前に――。
アイロンの周囲の空間が再び圧縮された。
一秒後、彼はすでに仲間の傍ら、硬い地面の上に立っていた。
足元の土は、誰も触れていないかのように元のままだった。
アイロンは落ち着いて袖の乱れを直し、口を開いた。
「ドルンハイム行きは、一旦中止だ」
エリリアが困惑したように瞬きする。
「えっ、ドルンハイムに向かってたんじゃないの?」
アイロンは答える代わりに、乾いた土の上に馬車の車輪が残した、かすかな轍を指差した。
「これに沿って進む。話は歩きながらだ」
ゆっくりと歩き始めて五分ほどが経った。
アイロンの肩の上を飛び回っていたエリリアが、たまらずに口を開く。
「で?」
「ちょっとドルンハイムの様子を見てきただけだ」アイロンは淡々と答えた。
「要するに、あそこの連中を皆殺しにするつもりだったんだな?」ノアが確認するように尋ねる。
「その通りだ」アイロンは短く肯定した。「だが、今の俺たちじゃあそこでの勝算は限りなくゼロに近いことが分かった。だから、まずは未来の国を創るためのまともな土地を探し出す。奴らの始末はその後だ」
「ふーん」エリリアが不満げに呟く。
数分間、沈黙が落ちた。
泥を踏む単調な音にもすぐに飽きがきて、アイロンが先に口を開いた。
「少し暇を潰したいな……お前ら、何か面白い話でも持ってないか?」
エリリアは空中でピタリと止まり、少し考え込んだ後、文字通りパッと顔を輝かせた。
「あるわ! 一つだけ!」
「言ってみろ」アイロンが促す。
精霊はもったいぶった態度を取り、両手を広げると、やけに重々しい声で語り始めた。
「むかしむかし、仄暗い廃墟と荒涼たる岩山の中に……」
「普通に話せよ」ノアが冷たく遮る。
エリリアは一瞬でしぼみ、鼻を鳴らすと、いつもの口調に戻った。
「わかったわよ……。とにかく、ずっと昔の話。何年前だったかも覚えてないくらい。その頃の私にはまだ『本来の姿(真体)』があって、信じられないくらい強かったの!」
その時の彼女は、まさに誇らしげに輝いていた。
ノアは極めて懐疑的な視線を送ったが、何も言わなかった。
「でね」彼女は続ける。「その頃、ニヴェアがある評議会に入ったのよ……なんて名前だったかしら……えーっと……あっ、そうそう! 『家族』評議会!」
「本気か?」アイロンが少し驚いたように言う。
「記憶はちょっと曖昧だけど、確かそうだったはずよ」エリリアは頷いた。
「それでね、ニヴェアは私に対していつもすっごく冷たくて、全然遊びに行ってくれなかったのに……なぜか『あの男』が現れた途端、彼に献身的に尽くすようになって、おまけに彼のためにその評議会にまで入ったのよ! 信じられる!? 私たち、あんなに親しかったのに!」
「お前にとって『親しい』って、どういう定義なんだ?」ノアが感情を交えずに尋ねる。
「えっ……親しいは親しいでしょ!」エリリアは小さな手を広げて憤慨した。「一緒に遊んで、楽しんで、いっつもはしゃいで……」
「お前にとっての『楽しんで』って、彼女にちょっかいを出して迷惑をかけることか?」
「うーん……まあ、間違ってるとは言わないけど……」彼女は口ごもったが、すぐにハッとして言い直した。「いや! やっぱり言う! あんたは間違ってるわ!」
「分かった。じゃあ真実は何だ?」ノアがため息をつく。
「私が毎日、彼女のところに顔を出してたってことよ! 確かに彼女はいつも逃げたり隠れたりしてたけど、私とのかくれんぼを楽しんでたんだと思うわ! 時々はずっと一緒にいたし。まあ、それで彼女が少しイライラしてたのは事実だけど、本気で嫌がってたわけじゃないはずよ……」
「なるほどな……」アイロンは間延びした声で応じ、視線を移した。「ノア、お前は何かあるか?」
「ちょっと! まだ話終わってないわよ!」エリリアが金切り声を上げる。
「お前が可哀想な苦労人だってことはよく分かったよ」アイロンが軽い皮肉を込めて手を振る。
エリリアはすぐさま彼の顔の真横まで飛んできて、満足そうに頷いた。
「そうそう! 私を理解してくれてるのはあんただけよ!」
「ノアは?」アイロンが再び尋ねる。
ノアはただ肩をすくめた。
「俺には話せるようなことはほとんどない。訓練、基本的にはそれだけだ。面白いことなんて何もない」
「そうか……」アイロンが言いかけたが、最後まで言葉を続けることはできなかった。
見慣れた地形の三次元グリッド上。彼らのすぐ右側、黒焦げの残骸の山の近くに、十一の明確なマーカーが点灯したのだ。
スキャナーは常にバックグラウンドで稼働していたため、信号の処理は一瞬だった。
アイロンは歩みを少し緩め、落ち着いた声で告げた。
「俺たちだけじゃないな」
「分かってるわよ」エリリアが不機嫌そうに呟き、少し彼の肩に近づいて耳をそばだてる。
「ああ」ノアが簡潔に肯定する。
彼らはゆっくりと道を歩き続けた。
三分ほどが経過した時、残骸の山から彼らの進路を塞ぐように、その集団が姿を現した。
総勢十一人。
彼らの衣服は油や泥に汚れ、穴だらけだったが、誰もが何かしらの武器を手にしていた。
ある者はへこんだ斧を、ある者は刃こぼれした剣や、重々しい大鉈を構えている。
彼らを率いるのは、野獣のような目をしたずんぐりとした男だった。
右頬には生々しい血の跡が乾きかけている。
三人組の姿を認めると、彼は黄色い歯を剥き出しにして、大きく口を歪めて笑った。
「てめぇら、一体何者だ?」
道を塞ぎ、斧を握り直しながら、男が大声で怒鳴る。
「さあ、持ってるもん全部置いてきな、ガキども!」




