第217話:千の墓標
日中のことだった。
アイロンとノアは、広大な緑の野原を二人で歩いていた。
周囲には深い草むらが広がり、右側には誰もいない未舗装の道が伸びている。
歩きながら、アイロンはリュモンに問いかけた。
『もし俺の魔法をノアが持っていたら、あいつの肉体はそれに耐えられるか?』
「その通りです(耐えられます)」遅滞なくリュモンが答える。
『分かった』エンジニアは脳内で応じた。
彼はノアの方へ首を向け、単刀直入に尋ねた。
「ノア、お前みたいな肉体を手に入れるにはどうすればいい?」
ノアは驚いたように彼を見返した。
「急に何の話だ?」
「お前の体のことだ」アイロンは説明する。「どうやったら、お前ほどの筋力、耐久力、スタミナを得られるんだ?」
「さあな、俺にも分からない」ノアは肩をすくめた。「物心ついた時からずっとこうだったからな。まあ、ただ鍛えるしかないんじゃないか」
「なるほど」アイロンは答えた。
心の中で彼は短く結論づけた。『つまり、ただもっと鍛えればいいというわけか』――そして、そのタスクを記録した。
その瞬間、リュモンが警告を発した。
スキャナーが地面の振動と車輪の音を検知したのだ。後ろの未舗装の道から、一台の馬車が彼らに近づいてきていた。
アイロンは振り返り、御者に向かって大声で呼びかけた。
「どこへ向かっている?」
返事はない。御者は耳を貸す様子もなく、一定のペースで馬に鞭を打ち続けている。
アイロンは横に数歩移動し、道の中央に立った。
二頭立ての馬の進行方向、その真正面に。
御者台の男が手綱を引いた。
馬がいななき、馬車は軋み音を立てて、エンジニアの鼻先でピタリと止まった。
「どこへ向かっている?」もう一度、アイロンは静かに尋ねた。
御者が口を開くより早く、後部の足場から、使い込まれた革鎧を着た護衛が罵声を浴びせながら飛び出してきた。
鋭い金属音と共に剣が鞘から抜かれる。
傭兵は勢いそのままに剣を振り被り、アイロンの首筋を狙って刃を振り下ろした。
だが、その刃が首に届くことはなかった。
ノアが一歩前に踏み出し、その刃を両手で挟み込んだのだ。
一撃の勢いは瞬時に完全に殺された。
護衛はショックで自分の手を見つめ、次いで武器を押さえ込んでいるノアを凝視した。
「てめぇ……てめぇ、一体何者だ!?」
アイロンはノアの肩越しから静かに姿を現した。
「先に俺の質問に答えろ。どこへ向かっている?」
その傲慢な態度に、傭兵はさらに激昂した。
彼は剣を力任せに引き抜き、アイロンの首を刎ね飛ばそうとしたが――馬車の中から女性の声が響いた。
「私たちはクロント王国へ向かっています」
カーテンが引かれ、荷台から若い少女の顔が覗いた。
アイロンは彼女に視線を移す。
「ウェイランド伯爵の領地がどこにあるか、ご存知ないか?」
「この道をまっすぐ進めば、ちょうどたどり着きますよ」少女は落ち着いて答えた。
「乗せていってくれないか?」すかさずアイロンが尋ねる。
「てめぇ、ふざけてんのか!?」傭兵が怒鳴る。
ノアが刀身を掴む指にわずかに力を込めると、鋼からピキリと亀裂の音が響いた。彼は護衛に重圧感のある視線を投げかける。
「口を閉じろ」
馬車の中の少女はため息をつき、小さくかぶりを振った。
「申し訳ありませんが、お乗せすることはできません」
「分かった」アイロンはあっさりと引き下がった。
彼はきびすを返し、余計な言葉は交わさずに道から草むらへと戻った。
ノアも両手を開き、握りしめていた刃を解放する。護衛は荒い息を吐きながら後ろへ飛び退いた。
御者はすぐさま馬に鞭を入れ、馬車は急ぐように先へと走り去っていった。
それからほんの数分後、二人の傍らにエリリアが実体化した。
彼女は飛びながら軽く身を震わせ、アイロンの肩の上空でホバリングする。
「で、ドルンハイムの様子はどうだ?」アイロンは歩みを止めずに尋ねた。
エリリアは眉をひそめ、早口で話し始める。
「兵士がすごくたくさんいたわ。もちろん前ほどじゃないけど、それでも大勢よ。彼ら、鉱山とか周辺全体を徹底的に掃討してる」
彼女は一秒ほど口を閉ざし、それから少し不安げな声で付け加えた。
「それから……前にはなかったマナの気配を感じたわ。すごく高密度なやつ。おそらく、かなり強力な魔術師を警備につけたんだと思う」
アイロンは一瞬足を止め、その顔に短い笑みを浮かべた。
「じゃあ奴ら、俺たち相手に本気を出してなかったってことか? なめられたもんだな」
彼は首を振り、前を向いて言い放つ。
「まあいい。俺たちのルートは一つだけだ――まっすぐ、それだけだ」
「だから、最初からずっとまっすぐ歩いてるじゃない!」エリリアが鼻を鳴らす。
「ああ」アイロンは短く答えた。
彼らは歩き続けた。
時間が経過するにつれ、周囲の景色も徐々に変化していく。
見渡す限りの草原は後方に消え、前方には深い森が現れた。湿った土を一歩一歩踏みしめながら、狭い獣道を通り抜けなければならなかった。
アイロンは先頭を歩いていた。彼の瞳にはインターフェースのグリッドが明滅している。
ある瞬間、彼は見覚えのある地形プロファイルを捉えた。
彼は首を向けて口を開いた。
「もうすぐウェイランドの領地に近づくぞ」
「やっとね!」エリリアがすぐに活気づく。「あっちの人たちとも随分会ってないもの。みんな元気にしてるかしら?」
「ああ」と軽く同意し、アイロンは歩調を速め、開けた広場へと出た。
リュモンが、保存されているマップの投影を現在の地形データに重ね合わせる。
エリリアが少し先へと飛んでいった。
数秒後、精神通信を通じて彼女の小さな声がアイロンの脳内に響いた。
『アイロン……ここ、本当にウェイランドの領地?』
『ああ、間違いない』アイロンも同じく念話で答える。だが、彼の内側ではすでに嫌な予感が渦巻き始めていた。
彼らは足早に小さな丘を登った。
そして、眼下に広がった光景に、全員が息を呑んで立ち尽くした。
高い城壁と彫刻の施された門に囲まれた、ウェイランドのメインキャッスルがそびえ立っているはずのその場所に――ほぼ『何も』なかったのだ。
城壁も、塔も、防衛設備もない。
周囲に散乱しているのは、黒焦げになりヒビ割れた瓦礫の山だけであり、その中央には、巨大で深い大穴がぽっかりと空いていた。
「なんだこりゃ!?」アイロンの口から声が漏れた。
彼はその場から駆け出し、崩壊した城壁へと向かった。ノアとエリリアもその後に続く。
瓦礫の山まで走り寄り、アイロンは辺りを見回した。内臓が冷え切っていくのを感じる。彼がはっきりと記憶している城の構造のいくつかが、完全に消え失せていた。
『リュモン、ここは本当にウェイランド伯爵の領地なのか?』
「間違いありません。座標は百パーセント一致しています」
『まさか奴ら、こっちにまで手を出したのか……?』アイロンの胸の内で、再び怒りが沸騰し始める。
彼はすぐに、ウェイランドの地下にある『研究所』のことを思い出した。
アイロンは最も近くにある岩の山に飛び乗り、巨大な壁の破片を右手で掴んで横へと放り投げた。
「ノア、ウェイランドの地下室への入り口を探すのを手伝え!」エンジニアが怒鳴る。
「分かった」ノアは応じ、すぐさま巨大な岩を放り投げ始めた。
アイロンは必死に瓦礫をかき分けたが、周囲のあらゆるものが無秩序な破片の山と化していた。
「クソッ!」アイロンが忌々しげに吐き捨てる。「城が無事なら、一秒で見つけられたってのに!」
彼は巨大な陥没の縁で立ち止まり、荒い息を吐きながら穴の底を覗き込んだ。
頭の中で、すべてが繋がり始める。
瓦礫。巨大な穴。焦土。そして、中央の建造物が跡形もなく消え去っている事実。
アイロンはウェイランドとの会話を思い出した。予備のリアクターについて。
そして、ドルンハイムでの『心臓』の爆発後、そのエネルギーの一部が彼の方へ流れ込んだかもしれないというウェイランドの仮説を。
「リアクターか……」アイロンは静かに呟いた。
ウェイランドの予備リアクターが爆発したのだ。
頭の中で、一つの苦痛に満ちた疑問だけが渦巻いていた。
どうしてこうなった? ウェイランド自身が起爆させたのか? それとも、敵がリアクターの存在を知り、単に爆破しただけなのか?
「もしそうなら、地下室は……」――今目の前にあるこの穴そのものだ。
崩壊した城壁の縁、少し離れた場所に降り立っていたエリリアが、突然彼の思考を遮った。
「ねえ! 見て、早くこっちに来て! 見てよ!」
アイロンとノアは、彼女の切羽詰まった声に戸惑った。
顔を見合わせると、瓦礫の山を離れ、精霊の後に続いて廃墟の外――爆発の影響を受けていない平坦な土地へと足を踏み入れた。
エリリアは地面の上でホバリングしながら、困惑したように下を指差した。
「見て……気のせいかしら、これってお墓?」
二人は近づき、そして立ち尽くした。
周囲の地面一面には、色とりどりの花が植えられていた。
だが、その鮮やかな花々の間に、土を盛った小さな塚が整然と列をなして続いている。それらは、彼らの目の前に広がる空間のほぼすべてを埋め尽くしていた。
「なんてこった……」規則正しい列を見つめながら、アイロンが呟く。
彼の瞳の中で、瞬時にインターフェースが起動した。システムが一つ一つの塚の座標をロックし、画面上に正確なカウントを弾き出す。
数字が止まった。――およそ1,132基の墓。
「一体誰が、何のためにこんな大勢の人間をここに埋葬したんだ?」アイロンが言った。
ノアは一番近くの墓にぴったりと近づき、土の表面を観察してぼやいた。
「さあな……だが、開けてみよう」
「ああ」アイロンは短く応じた。
エリリアが意識を集中させると、彼女の両手の周囲に高密度のマナの奔流が発光した。
墓穴の中から、簡素な木製の棺が空中にふわりと浮き上がる。
エリリアの魔法はそれを空中で慎重に運び、二人の目の前の草の上に下ろした。
鈍いミシミシという音と共に、蓋が横へスライドした。
アイロンとノアは同時に身を乗り出し、中を覗き込む。
棺の中には人間が横たわっていた。
――死体だった。




